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追放された少年  作者: 誰か
青年期
30/150

第二十四話

回想長いです。

そろそろ新キャララッシュは打ち止めにしますかねー。

次回で一旦クロノ視点は終わらせる予定。

主要キャラの過去とか一応全部考えていたり。




「はぁー行っちゃったッスね。最後の忠告聞こえたかなぁ?」

誰もいない店内で呟く。店内には色とりどりに散りばめられた商品たち。

1年半前亡くなった親父の作品も含まれているが、武具の製作者は基本的に俺だ。

自分の作品たちに囲まれて商売が出来るなんて、職人冥利に尽きると思う。

「まあ、今この街にはアイツがいるなんて忠告した所で兄貴が逃げ切れる気もしないッスけど。」

頭の中で見つかった時の事を考えて思わず苦笑してしまう。

「剣は生き物と同じなんだよ。」

死んだ親父の口癖。言われた時には全く理解できなかった言葉。

幼いころ捨てられていた俺を拾ってくれた親父の言葉。

1年半前親父が死んだ時この工房は危機に瀕していた。

元々この工房は親父一人でもっていたようなもので、親父以外の職人の俺も職人と呼べるレベルではなかった。昔は何人もの職人が居たらしいが職人の高齢化で次々に辞めていき残ったのは俺と親父だけ。

親父が死んでから客は次々と離れていき、いつ閉店してもおかしくないような状況まで追い込まれた。

ウッドブック工房の親方は代々世襲制で、才能を受け継いできたらしい。

しかし、親父に妻はおらず子供も捨て子だった俺だけ。

才能も経験も無い、若造しか居ない工房。

そんなこの工房を見捨てずに、通ってくれたのがクロノの兄貴だった。

ニホントーとやらの手入れは他の店では出来ないらしく、毎回この店に来ては注文を出してくれた。

最初は父の見よう見まねでやったが所詮見ただけではモノにはならない。

手入れすら満足に出来ず何度も平謝り。これでは別の店に行かれてもしょうがないと思った。

しかし、彼は「失敗は誰にでもあるから。」と何度も依頼しに来てくれた。

その言葉がどうしようもなく嬉しくて、と同時に申し訳なくも感じて。

何度も何度も失敗を繰り返した。失敗を繰り返す内何となく剣を理解できるようになっていた。

剣は生き物と同じだと言っていた親父の気持ちが今なら分かる気がする。

手元にある紅朱音に視線を移す。

自分に剣を教えてくれたのはこの剣だ。

ここの昔の職人が作ったとされる名剣。鍔から柄にかけて綺麗だが無駄のない朱色で飾られた剣。

普通の剣と違い細身でニホントーというらしい。

今まで数多の剣を触ってきたがこれを超える一品には出会った事がない。

いつかこれを超える物を造るのが目標だ。

「さーて、どうせだれもこないんだし早めに終わらせるッスかね。」

カウンターに呼び鈴を置き工房へと赴く。

自分の恩人に答えるために――


「あっれー?クロノが居る気がしたんだけどなー?」

主を失った店内に間の抜けた声が響き渡る。

店内を見渡すがお目当ての人物は見当たらない。

「うーん、気のせいか。」

そう言って、武具等には目もくれず出ていった――


「ふぁいかわりゃずふみゃいの。」

「いや、食べてから喋んないと何言ってるか分かんないから…。」

目の前のテーブルには山積みにされた空の容器。

「そんなに食べると腹壊すよ?」

隣に座る相方に忠告するが食べるペースが衰える事は無い。

呆れながらも、子供らしいドラに不思議と顔がほころんでしまう。

アイスクリーム屋にやってきて、ドラは手を止めることなく食べ続けている。

余程楽しみだったのか来るなり「100個下さい。」と店員に元気よく注文していた。

最初は目を丸くして驚いていた店員だったが、俺が金を出すと快く応じてくれた。

実際Sランククラスの依頼となれば報酬も中々のものでお金には困っていない。

それでも予想外の出費である事は否めないが。

「ふぅー、旨かったのぅ。」

いつの間にやら100個のアイスは消えており、山積みにされた容器だけが残っている。

「よくあんだけ食べて頭とか痛くならないね……。」

「儂はドラゴンじゃぞ?そんな事になるわけがないじゃろう。」

さも当然のように言うが、そもそもドラゴンがアイスクリームを食べるってどうなんだ?

「まあいいや。これから行きたい所とかある?」

「珍しいの、儂に行き先を聞いてくるとは。」

「たまには、ね。」

実際の所この街は何回か来ていてもう見る所もなく、まだ日も高く宿屋に行くのも早いのでそれまでの時間潰しなのだが。

「儂は特に無いな。」

迷った様子も無く即答された。その返答が一番困る。

「そう?じゃあ宿でも取りに行こうか。」

仕方がないので、宿屋に行く事にした。

「そうじゃの。」

席を立ちアイスクリーム屋から出て、通りへと出る。

通りには相変わらず風変わりな店が多く並んでおり、個性に溢れている。

人通りは多くも少なくもなくといったところか。

昼ちょっと前なのでそろそろ多くなるだろう。

統一感の無い街並み。ここには他国のように中央にばかでかい城がそびえ立っていたりはしない。

そもそもこの国には王城というものは存在しないのだ。

領主の館というのは存在するが少しでかい家といった感じで、国の主らしからぬ住まいだ。

領主自体もこの国では治安維持くらいしかしておらず、表に出てくる事は稀だ。

他国と外交をしているわけでもないのに不思議と国が攻められる事は無い。

税も他国と比べると5分の1になっており、内乱もおこらない。

本当に不思議な国だ。

そんな不思議な国の街並みをぼんやりと眺めながら歩いていると、後ろからタッタッタと走る音が聞こえてきた。軽い足音から察するに大人の男ではない。普通に考えれば子供が遊んでいるのかと思うのだが。なぜだろう、悪寒を感じる。足音は徐々に迫ってくる。悪寒は止まないどころか増してくる。

悪寒の正体を確かめるべく後ろを振り向くとそこには……

「クーーロノみーつけた。」

こちらに飛び込んでくる見慣れた少女の姿があった。

振り向き様に飛び付かれ倒れこんでしまう。

同時にガンっと石で舗装された道に頭をぶつけた、かなり痛い。

頭をさすりながら起き上ろうとするが、馬乗りにされているので起き上れない。

「大丈夫クロノ?」

心配するような声が聞こえる。こんな状況を作り出した元凶からだ。

「ああ、大丈夫だ。」

「良かった~。」

安心したように溜息をつく少女。

「それはそうと、とりあえず避けてくれ。」

「ごっ、ごめん…。」

慌てたように俺の上から避ける少女。

堅い石の道から起き上り、目の前の少女を改めてみる。

髪も眼も燃えるような赤。服装は旅人の体だ。

「で、リルは何で俺に飛びついて来たんだ?」

「うう、久しぶりにクロノを見てつい…。」

ばつが悪そうに俯く。

「久しぶりにみたら飛び付くのかお前は…。」

リルは答えない。唇をギュッと結んで俯いたままだ。

「まあいいや、とりあえず宿とりに行かないとな。じゃあ。」

人通りが多くはないとはいえ、通行人の注目もこちらに向いて来たのでその場を離れようとするが呼び止められる。

「待って。ビッグマウンテンに泊まるんだよね?私もそこだから一緒に行くー。」

どうやら付いてくるつもりのようだ。

リルとこの街に来た事もあるので泊まる宿まで見抜かれているらしい。

そのまま無言で歩きだすと俺の右横を腕に絡みながら付いてくる。

正直歩きづらい。


リルとはドラの次に付き合いが長く、かれこれ4年になる。

最初に出会ったのは初めてギルドに行った時。

当時の俺ですら十三歳でギルドに行くのは早すぎる年齢だったのに、リルは九歳でギルド内に冒険者登録に来ていた。俺とリルにはギルド側も驚いたようで、冒険者登録する前に冒険者とは何なのかという事を一つの部屋で一緒に延々と聞かされた。その時のギルド職員がシェリーさんである。

俺はそんな話を聞かされようが、気持ちが揺らぐわけはなかったのだがリルは迷っていたようだった。

結局俺はその場で登録を済ませ、リルはその日には決められず「また来ます……。」と言ってどこかへと消えた。その後ろ姿が気にならなかったといえば嘘になるが、冒険者は危険な仕事なので彼女の為にも止めておいて正解だろうと思い気に留めなかった。

それから一週間、俺は順調に依頼をこなしDランクに上がる目前まで来ていた。

正直簡単な依頼ばかりで辟易していた頃。

この日は依頼を受けずにドラと街中でも探索しようかと思い、いつもは通らない路地裏を歩いていた。

表通りとは違い、がらんとした路地裏。人は全く見受けられず、表通りと同じ街かと疑ってしまう。

そんな静かすぎる空間でガサッと微かだか物音が聞こえてきた。

物音のした方に目を向けると、何やら布が蠢いている。

猫か何かだと思い好奇心で布をめくるとそこには、顔を赤くしあからさまに衰弱している少女が居た。

間違いない、一週間前のあの子だ。額に手を当て熱を測ると、人の体温かと思うほどに熱い。息遣いも荒く危険な状態なのは明白だった。

そこからはもう無我夢中で、すぐさま医者に連れていき治療してもらった。

「もう、大丈夫だよ僕。風邪がかなり悪化していたみたいだけど、危険な状態になる一歩手前で連れてきてくれたからね。」

老齢の医者の言葉を聞き、俺は安堵した。自分が助けた人に死なれるのは寝覚めが悪い。

「それにしても、お兄ちゃんかい?こんな小さな体で妹を背負ってくるなんて偉いねぇ。」

妹。この言葉が心に刺さった。確かに俺にはいた。実の妹が、俺なんかよりも良くできた妹が。

思えばこの子と妹は同い年。今もあそこにいればアイツもあれくらい大きくなっているのか。

そう考えるとなぜか悲しくなった。自分でもよくわからない。

あれから三年。家の事などとうに忘れたはずだったのに。

「大丈夫か?」

どうやら表情に出ていたようで、心配したようにドラがひっそりと聞いてきた。

「いや特に何もないよ。それより、あの子の事を聞かないとね。」

表情を必死に取り繕い誤魔化すように小声で答える。

「今から、話したいんですが大丈夫ですか?」

「いや、今日は目を覚まさないだろう。明日また来なさい。それにしても出来たお兄ちゃんだね。」

相変わらず老齢の医者は勘違いしたままだ。

兄妹と思われた方が都合が良いので間違いは正さない。

「分かりました。では、よろしくお願いします。」

その日は頭を下げ、医者の家を出て宿屋へと戻った。

翌日言われた通り、会いに行くとベッドに横たわるリルがいた。

昨日とは違い顔色は良い。

「大丈夫?」

「あなたは…この前の…。」

ベッドから体を起こし答える。どうやら、忘れられてはいなかったらしい。

「路地裏で倒れてたのを見つけてここまで運んで来たんだけど、何があったのか詳しく聞かせて貰えないかな?」

「……そのまま放っておいてくれればよかったのに…。」

消えるようなか細い声でそう呟いたリル。

その目はどこか遠くを見つめているようで、悲しげに見えた。

「どういうこと?」

今思えばここまでストレートに聞くのは軽率だったと思う。

しばらく黙っていたリルだったが、やがて俺の視線に耐えかねたのか堰を切ったように喋りだした。

「私なんてあそこで死んじゃえばよかったの!!こんな冒険者になる度胸も無い臆病者なんて、生きてても意味無いよ。」

泣きじゃくるリル。

「そんな事親が聞いたら悲しむよ?」

「親なんていない…。私孤児だもん。」

失言だったか、慰める為に言ったつもりなのにこれでは逆効果だ。

「孤児院はお金が足りないって先生が夜に話してたから、私一人いなくなればその分お金が浮くだろうと思って出てきたのに…。」

成程孤児院を出て冒険者になろうとしたが、話を聞いて怖気づいてしまったわけだ。

冒険者になれず孤児院にも戻れない。孤児院に帰すのがベストなのだろうが、この子はそんな事を受け入れはしないだろう。それくらいならば死を選んでしまいそうだった。

今の俺であればあんな事は言わなかっただろう。

冷静に孤児院なりなんなりに力づくで置いてきたかもしれない。

あの時の俺はまだ幼かった。

どうしてあんな事を言ったのだろう、自分でも分からない。

孤児というのを自分と重ねてしまったのか、同い年の妹と重ねていたのか境遇に同情でもしたのか。

「じゃあ一緒に来るかい?」

気づけば俺はリルに手を差し伸べていた……


それから暫くの間はリルと一緒にパーティーを組み依頼をこなして行った。

ドラからは「こんな事で人を拾っていては、瞬く間に溢れ返るぞ。旅の前に言うたじゃろうが。」

と小言を言われたが。

元々魔力の素養はあったようで、リルは瞬く間に成長していった。

性格は明るくなり出会ったころのような暗さはなくなった。

俺としては妹のような存在のリルが成長する様を見て、昔の兄だった頃に戻れたような気がしていた。

一年ほどでCランク程度には強くなったリルは俺がいなくても依頼を楽々こなせるようになり、依頼に付いていくことも無くなった。この頃からお金にも余裕が出来たらしく孤児院に寄付しているようだ。

それからはギルドや街でたまに会うくらいになっていたのだが…

つい2、3カ月前くらいからか、会うたびにいきなり飛びついてくる。

俺としては街中で飛び付かれると人の注目を集めてしまうので避けていたのだが、なぜか毎回見つかってしまう。リル曰く「何となく気配で分かる。」らしい。

ギール王国を出て暫く会う事はないと思っていたのだが、この街で遭遇するとは。

苦手ではないが最近は会う事を避けたい人物だ。

突き放してしまえば付いてこなくなるだろうが、妹のようなリルを無碍に扱う気にはなれない。

「はぁ。」

つくづく自分の甘さに呆れてしまうクロノだった――



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