第二十三話
今回は名前とかがフラグだったりします。
シュガーとか適当に付けたわけじゃないんですよ。
すいません嘘です。適当に付けました。
「明日ここを発つと言っておったが、どこに行くんじゃ?」
宿屋に戻り、ベッドに寝そべっているドラが顔も向けずに聞いてくる。
「とりあえずシュガー神聖国に行く予定」
「ああ、あそこか」
何度も行っているので、その先まですぐ思い当たったようだ。
「昨日斬ったジャイアント・ワームの体液が気になるんだよ。最近紅朱音の手入れもしてなかったし、丁度いい機会だと思ってね」
紅朱音とは普段使っている愛刀の名前だ。譲り受けた時にかーさんが命名した。
とても細身だが切れ味は抜群で、柄と鍔が鮮やかな朱色で彩られている。
「あれの体液がついて気持ち悪く感じるのは分からんでもないな…」
納得いったという様子で、うんうんと頷くドラ。実際にはこの国に長居し過ぎたというのと、ドラをギャンブルから離れさせるという目的もあるのだが。
「まあそういう事だから、明日の朝には出発する予定かな」
「移動はどうする?」
「ドラおねがい」
即答する。徒歩だと一週間はかかるが、ドラに乗って行けば一日とかからず着くだろう。何より歩くのがめんどくさい。
「儂は乗り物じゃないんじゃが」
「着いたらアイスクリーム沢山食べさせてあげるよ」
アイスクリームとはシュガー神聖国の名物で、口にいれるとヒンヤリとした冷たさにとろけるような甘みが口いっぱいに広がる不思議なお菓子である。ドラの大好物だ。
「よし、早速行くぞ」
「いや明日の朝出発でいいから」
変わり身の早過ぎる相方の姿を微笑ましく思いながら、寝床に着いた。
翌朝
朝日を悠長に感じる暇もなくドラに叩き起こされた。余程アイスクリームを食べたいのだろう。
眠たい目をこすりながらそうそうに食堂で朝飯を食べて、王都の門から出る。
この時間帯ならばマイクさんはいない。朝に出発するといったのはそれが理由だ。
昨日とは違う方角へある程度進んでから、歩みを止める。
「ここら辺でいっか」
「そうじゃの」
辺りに人が居ない事を確認し、ドラゴンになったドラへ乗り込む。
圧倒的な存在感を放つ巨大なドラゴン。全身が深い緑で覆われており見る者に威圧感を与える。
何度みてもドラの姿は普段から想像できない程に雄々しく美しいと思う。
「いくぞ」
瞬間、大地が一気に遠くなる。自分でジャンプするのとはまた違った浮遊感。
風と舞うような感覚。正直いつでもこんな感覚を味わえるドラが少しうらやましい。
もう既に雲の上まできたようだ。白い雲が下に見える。顔を照らす朝陽が眩しい。
突き刺さるような冷気さえ気にならない程の爽快感。
「そろそろスピードを上げるかの」
そういうと只でさえ速いスピードが加速する。
もう景色が流れるとかいう次元ではない。景色を見る事すらかなわない、それ程のスピード。
俺でさえ掴まるのもやっとだ。スピードを上げ楽しそうに空を駆けるドラ。
俺はひたすら背中に掴まりながら目的地に着くのを待ち望む事しか出来なかった――
「うー、凄い頭がぐわんぐわんしてる」
頭の中が回りに回って、視界も揺れている。
「あれくらいで酔うとはだらしないのぉ」
ようやく目的地に着いたのは良いのだが、非常に気持ち悪い。
ドラの背中に掴まっている時に酔ってしまったようだ。あれだけ左右に揺さぶられて酔うなという方が無茶な注文だろう。いくら飛んでもこの感覚には慣れない。
「とりあえず工房に行かないと…」
現在いるのはシュガー神聖国首都アースの下町。
この国は神聖などと名乗っているくせにどこの宗教にも属していない不思議な国だ。
領土も広いとは言えず、観光に力を入れているわけでもない。
中立を謳い軍隊すら保有していない。
そんなフィアファル大陸でも小国に位置する国だが、歴史は古く建国から約千年と大陸内で最も古いとされている。この規模の小国であれば歴史上何国かあったが、どれも百年と持たずに消滅していった事を考えるとこの国が生き残っているのはフィファル大陸最大の奇跡と呼ぶにふさわしい。
街並みは多種多様な文化が混在し、個性に溢れまくっている。
他国からの移民も積極的に受け入れ、様々な国からの移住者が後を絶たない。というより、勝手に移民として入ってきており、国自体が彼らを認識しているかどうかすら怪しい。今、横を通り過ぎた、白いクリームで顔面を塗りたくり、丸く赤鼻の人間など、怪しさMAXである。ギールの王都に入ろうとしたら、間違いなく止められるだろう。
勿論、移民を受け入れるのは、不審者がよく入ってくるというデメリットだけではなく、様々な文化が入ってくるということでもある。
この国の名物であるアイスクリームも、遠い他国の文化であるらしい。
「早くアイスが食べたいのぅ」
子供か、と内心ツッコミを入れる。自分の好きなものごとにはやたら子供らしい。
刺青屋、セントー、他の国ではお目にかかれないような不思議な店を通り過ぎていく。
入り組んだ路地を進むと不意に行き止まりに突き当る。そこには古めかしい店が何店か軒を連ねている。
目的地はここだ。知る人ぞ知る老舗の名店街。どれもが創業から何百年も続くとされる各分野のスペシャリスト達が集う店ばかりだ。酒場センターフィールド。宿屋ビッグマウンテン。その内の一つウッドブック工房と書かれた店に入る。
店内は外観からは想像出来ない程整理されており、色々な武器や防具が並べられていた。
一つ一つが素晴らしい輝きを誇っており、一流の物である事が感じられる。
綺麗に陳列されている棚を通り過ぎ奥へと進む。
奥のカウンターには店番らしき少年が立っていた。頭には作業帽にゴーグルを付けている。
最初は眠たそうな目だったが、こちらを見るなり目を見開く。
「あれっ、クロノの兄貴じゃないッスか。お久しぶりッスね」
ハキハキとした口調で喋る少年。
「久しぶりだねカイ」
馴染みの少年に言葉を返す。ここでは本来の口調で喋る。隠す意味もない。
「今日はどういった御用件で?」
「紅朱音の手入れを頼みたいんだ。最近ここ来てなかったしね」
そう言って腰から紅朱音を取り出しカウンターに置く。
じっくりと品定めするように観察するカイ。
「うーん、やっぱり刃こぼれはしてないッスね。目立った損傷も見受けられないッス。それでもやりますか?」
「あー……。まあ、一応やっといて」
最後にこの国に来たのが半年前だから、半年間手入れしてない事になる。
「了解ッス。急ぐようであれば今から速攻でやりますけど…」
「急いでないからゆっくりでもいいよ」
何よりこの店を刀の手入れの為に空けてもらうのは申し訳ない。
ここにはカイしか居ないのだ。
「じゃあ明日には終わらせておくんで、明日取りに来てくださいッス」
「分かった」
「代わりの剣ッスけど好きなの…って兄貴はもう一つ持ってたッスね」
カイの視線は俺の腰にあるもう一つの剣エクス何とかに向けられる。
こちらの剣は最近使っていないので手入れして貰う必要はない。
「そうだね。こっちあるから大丈夫だ。じゃ明日取りに来るよ」
カイに背を向け手を振って店を後にした。
「今………が………ッスよ」
扉を閉める時に何か聞こえた気もするが、良く聞き取れなかった。




