第二十二話
そろそろ別の国に歩みを進めましょうかね。
一旦ギール王国は終わりです。
ドラが国王と口調被ってる・・
見返すとカジノ編の出来の悪さに絶望
カジノを出ると一気に冷気を感じる。それもそのはず外はもうすっかり日が落ちているのだ。
「あれどうして降りたの?」
隣を歩くドラにカジノでの一件を聞いてみる。
あの降り方は不自然だった。ドラには何か考えがあったのだろうが、俺には理解できない。
「うん?主には何も感じなかったのか?」
むしろ何故分からないのかといった調子で聞き返された。
「いや全然分かんなかったんだけど…。」
「はぁー、主もまだまだじゃの。」
何故だろう馬鹿にされている気がするのは。
「ギャンブルというのはな、腕も必要じゃが瞬時の直感も必要なんじゃ。あの時儂は確かに感じた、それこそ死んでしまうような感覚をな。戦闘でも直感というのは重要じゃろ?」
確かに戦闘で直感が重要なのは分かる。今までも直感に助けられた事はある。最近はめっきりそんなことは減ったが。
だがギャンブルに必要というのはイマイチ理解できない。
「理解出来ておらんようじゃの。そんな事ではギャンブラーとは呼べんぞ。」
「いや俺はギャンブラーじゃないから。」
ドラゴンにギャンブラーとしての道を説かれるとはこれ如何に。
何だか納得がいかないが気にしないでおこう。
「そんな事よりもこれからクライス王に会いに行くよ。」
「そういえばそんな目的もあったの。」
すっかり忘れてるな。この調子では真面目にカジノ出禁も考えねばならないか。
「冗談じゃ。いつも通り入るんじゃろ?」
俺の考えを見透かしたかのように告げるドラ。
いやあれは確実に忘れてただろ。
「まあそうだね。」
カジノを出て大通りを通り王城へ。
大通りは未だに人が絶えず活気を感じさせる。
喧騒を抜け街の中心部へ向かう。
王城は街の中心部に位置し外から来たものにすぐ見える街の造りになっている。
「ここら辺でいいか。」
王城の少し手前まで来たところで歩みを止める。大通りのような活気はなく猫の足音が聞こえてきそうな程静まり返っている。
普通であればここから少し行った所にある正門から入るのだが、そんな事はしない。
「じゃあドラ乗って。」
道路にしゃがみこみドラに背中を向ける。
「何度やっても主に背負われるというのは慣れんの。」
渋々ながら手慣れた様子で俺に乗るドラ。傍からみれば兄弟にみえるだろうが、これからするのは凶悪犯と呼ばれてもしょうがない行為。毎回王城に入る時はこのパターンだ。
「行くよ。しっかり掴まっといてね。レベル3」
ドラをおんぶしながら、無属性で身体強化する。
地面を蹴りひとっ飛びで王城の門を飛び越え駆け抜ける。
景色がもの凄いスピードで後ろに流れてゆく。
普段であれば心地よい風を感じるのだが、今は夜、それに加え寒期の為冷気が身体に突き刺さる。
王城内に入り見慣れた道を駆け抜ける。白を基調とした清潔感漂う城内。しかし今は明かりが消されており暗闇が支配していた。最初の頃は何度も道に迷ったものだ。
突き当りを右にその奥の階段を上がり左へ。2つ目の十字路を右へ。
迷路のように入り組んだ王城内を頭の中でルートを思い浮かべながら駆け抜ける。
十字路を曲がってすぐの左の階段を上がり右に直進。
一際豪華な扉が見えてくる。ここが目的地。
ブレーキをかけ扉の前で立ち止まる。ドラを降ろし部屋をノックする。
「クロノだ。」
暫くの間静寂が支配する廊下。
「入っていいぞ。」
扉の向こうから威厳のある声が聞こえてきた。
入室の許可を取り豪華な扉を開け中に入ると、就寝前らしきギール王国の国王であるギール・クライスが佇んでいた。
「久しぶりじゃなクロノそれにドラ殿もな。」
「うむ久しぶりじゃのクライス王。」
尊大な口調で答えるドラ。見る者が見れば不敬罪に問われてしまいそうだ。
「夜分遅く申しわけないが急ぎの用件でな。」
俺の言い方も大概だが。
「よいよい、この時間に訪ねてくるのにも慣れたしな。」
俺は基本夜にしかクライス王に会いに来ない。
元々しっかりとした形で王に会っていたのだが、一々面会許可を取らなければならず謁見の間では大臣やら宰相の目が厳しく、めんどくさくなって用がある時はこの時間に城内に忍びこむのがお決まりになっていた。
「毎回侵入を許す城の警備に苦言を呈したくはなるが、お主が相手では仕方あるまい。」
クライス王は笑う。それはどこか諦めたようで少し申し訳なくなる。
「して今日は何用じゃ?」
「まずはジャイアント・ワーム討伐に関してだ。ギルドから連絡がいってるだろうが出来れば早めに金を用意願いたい。明日にはここを発つ予定だからな。」
とりあえず軽い話題から振っておく重要な話題を話してからでは俺が忘れる可能性がある。
「そうかアレを討伐したのはやはりお主じゃったか、金ならここにあるから持っていくがよい。儂のへそくりじゃがな。」
机の中から袋を取り出し俺の前に置く。見た感じ報酬としては申し分ないだろう。
「討伐の確認はしなくてもいいのか?」
「お主が嘘をつくとは思えんしいいじゃろ。その程度には信頼しておるぞ。」
確かにこれまで何体か討伐しているが、信頼しすぎじゃないか?
だがまあ貰えるならありがたく貰っておこう。
「そうかならば貰っておくとしよう。」
袋に手を伸ばし受け取る。国王のへそくりは何に使う予定だったのか気になるがそれよりも重要な事があるので気にしない。
「さて次が本題なんだが、2年前の勇者召喚は知っているか?」
「知っているがそれがなんじゃ。」
まあ各国の首脳陣ならば知ってて当然なのか。
「あの時呼ばれた勇者が今になって現れた。」
「ふむそれで?軍事力の話しであればお主が忠告はしに来ないじゃろ?」
動じた様子もなく凛とした態度で早く本題を話せと促す。
この言葉で動揺しないのは王の器というべきだろう。
「今その勇者は軍を率いてシュヴァイツ王国を攻めている、と言ったら信じるか?」
「お主が言うのなら事実なのじゃろうな。どこで聞いてきたんじゃ?」
いやそこまで俺を信用していいのか。悪い気はしないが、信用し過ぎるのは問題だろう。
「シュヴァイツ王国から逃げて来たらしい兄弟からだ。」
正確には伝え聞いたのだが、そこは伏せておく。
「事実だとしたら由々しき事態じゃろう。勇者は一人で一国を滅ぼせる戦力じゃしの、お主の母がそうであったようにな。」
昔に思いを馳せるように呟く。2年前のあの日かーさんはこの世界から消えた。左手の指輪を見て思いだす。あの最後の日を。未だに感覚が残っているあの日の出来事。
「すまんな、思い出したようじゃの。」
この言葉で、現実に引き戻される。どうやら表情にでていたらしい。
「真偽はどうあれ頭の中に引き留めておこう。にわかには信じがたいがの。」
最後に一言付け加えて言葉を締めくくった。
「そうだな余り鵜呑みにするのも良くはない。頭の片隅にでも置いておいてくれ。」
表情を取り繕い言葉に答える。
「用件はそれだけだ。じゃあな。」
クライス王に手を振り別れを告げ、再びドラを背負い俺は部屋を出ていった……
門の上を通る時に眠た目の門番に見つかりそうになったが、まあ問題ないだろう。
クライス王はクロノが出ていった後思案する。
考えるのは先ほど聞いた信じがたい情報。
(鵜呑みにするのは良くないが、クロノが嘘をつくとは思えない。)
別にクライス王はクロノを完全に信頼しているわけではないが、クロノには嘘をつく理由が無い。
考えられるとしたら、クロノが聞いた子供たちが嘘をついている可能性だ。
(そんな所から疑っていては、何も進まんか。確かめるのが先決じゃな。明日にでも諜報隊にでも調べて貰うとしよう。)
そう決め寝床に着く。
翌日クライス王の考えがガラリと変わるニュースが飛び込んで来るのだが、今の彼はそんな事を知るよしも無い――