第十八話
暫く忙しくて更新ストップしてましたすいません
暖かな朝日が差しこんでくる。柔らかな光。
(うーん…もう朝か)
ベッドから体を起こそうとするが、なかなか起き上れない。
体の節々が軋むように痛い。懐かしく感じる痛み。
(久々だなこの痛みも。ドラと戦ったとき以来かな?)
昔を思い出し思わず苦笑してしまう。
(あれからレベル5なんて使ってなかったし、しょうがないか。)
倦怠感に包まれる体をベッドから無理やり起こし、立ち上がる。
ベッド二つとテーブルだけでいっぱいになっている狭い室内。
部屋を見渡すが、緑髪の少年の姿は見当たらない。
(ご飯でも食べに行ったのか?)
そこまで考えてからふと自分の空腹感に気づく。
(あー、昨日は疲れててそのまま寝たから夜食べてないんだった…。)
自分の格好をみると黒い外套を羽織ったままだ。
(とりあえず朝食でも食べに行くか。)
次の行動を決め部屋から出て、木造の階段を降り一階にある食堂へと向かう。
食堂に入ろうとすると、入り口で一人の客と鉢合わせる。
「「あ」」
重なる声。見覚えのある出で立ち。そこには、こちらを指さす青い髪の女性が立っていた。
「本当に昨日はありがとうございました。」
頭を下げ礼を述べる女性。食堂の入口で出会ってから、こんな調子でお礼を言われ続けている。
クロノの座るテーブルには粗末なパンとスープ。手を伸ばせば届きそうな位置にあるのに口に入れる事は出来ない。礼を言っている人を無視して食事をするなど、失礼もいいところだ。
しかし腹は食べ物を欲し、空腹感を容赦なくクロノに与え続ける。
(食べたいのに食べれない……どうにか、この人の話を終わらせないと。)
必死にこの状況を抜け出す術を考える。離れた席に座るドラを横目で見るが、我れ関せずといった感じで黙々と朝食を食べている。ドラには頼れない事を悟り再び頭を回転させる。
「本当についでだから気にしないでくれ、そういえば昨日の子供たちはどうした?」
とりあえず話題を変え突破口を探りにいく。
「教会に連れて行って毒抜きをしてもらいました。今日の朝には良くなっているはずです。」
その言葉を聞き安堵しながらも、糸口を見つけたと思いそこを突く。
「だったら、今から会いにいってやればいいんじゃないか?」
「ええ、これから向かおうと思っていたところなんです。あなたも一緒にどうですか?」
予想外の返答。行っても良いのだが、朝食を食べたい。この提案に乗るわけにはいかなかった。
「いや、あの子たちを助けたのは俺じゃないからな。今すぐ行ってやれ。」
事実である。実質クロノは何もしていない。只討伐対象を狩ったにすぎないのだ。
「でも、あそこでジャイアント・ワームを倒していただけなかったら…」
「それに俺は子供が苦手なんでな。」
言葉を遮り一言付け加える。嘘だ。別に子供が苦手なわけではない。
「そうですか…。じゃあ私はパーティーメンバーと子供たちに会いに行ってきますね。」
そう言うと、女性は残念そうにしながら再び一礼をして慌ただしく食堂を出て行った。
出て行ったのを確認し待ちに待った食事に手を付ける。
空腹は最高の調味料とはよくいったもので、パサパサのパンが驚くほど美味しく感じられる。
そんな不思議な食事を堪能していると、すでに食べ終わっているドラが向かいに座る。
「なかなかの演技じゃったぞ。主の演技力も年々上がっているのう。」
からからと笑いながら、イタズラっ子のような笑みを浮かべている。
人前でクロノは口調を変えて話す。それは人にあまり近づかれないようにする為であり、冒険者を始めてからつくったものである。今ではクロノが素で話すのはドラを含め数人しかいない。
「まあ、5年もやってれば成長するさ。」
咀嚼していたパンをゴクンと飲み込んでから、ドラに答える。
「儂からすればたかが5年じゃがの。」
「ドラ基準で考えたらそうだろうけどね。人間からすれば長い時間なんだよ。」
話している間にスープに手を伸ばす。
ドラゴンは種にもよるが大体三百年程生きるとされている。そんなドラゴンからすれば5年など大した時間ではないのだ。ドラが何歳なのかクロノは知らないが、相当長い時を生きているのだろう。
「そうじゃのう。」
それっきりドラは黙ってしまった。
暫くしてからクロノはスープを飲み干し腹から来る空腹感にようやく勝利して、食堂を出る。
その後を追うようにドラも席を立ち食堂から出て行った――
クロノと別れたソフィアはまだ眠たそうなザイウスと、それとは対照的にきっちりしているメギドと共に教会へ向かっていた。
「ふぁぁー。なにもこんな時間に行かなくてもいいだろうがよ。」
欠伸をして文句を垂れるザイウス。ソフィアにいきなり起こされ朝食も食べていない。
「こんな時間って、冒険者なら普通に起きてなきゃいけない時間でしょうが。」
もうすでに太陽は東の空の上まで来ており、朝というには少々遅い。
「そうだな、さっきまでいびきをかいて寝ていたお前が悪い。」
メギドもソフィアに続いて追撃を加える。
「ったく、とっとと宿屋に戻って朝飯を食いてーもんだぜ。」
諦めたように呟きそれ以降口を開く事は無かった。
教会へと着くと神父がこちらに笑顔で挨拶してくる。
「お待ちしておりましたよ。子供たちは今し方目覚めたところでしてね。」
「そうですか、それはよかったです。」
「ただ……」
神父が言い淀む。何か後遺症でも残ってしまったのだろうか。そんな想像をしていたソフィアに予想外の言葉が告げられる。
「食べざかり過ぎましてね。このままだと教会の食糧が無くなってしまいそうですので、その分の寄付金も払っていただかないと。」
と、シビアな要求をしてくる神父であった。
教会内
客室には昨日毒にやられていた少年たちがばくばくと食べ物を食い漁っていた。
木のテーブルに椅子が四つ。テーブルの上には山のように盛られた食材。
もの凄いスピードで用意されていたパンや果物が消えていく。
その光景を見て我慢できなくなったのか、ザイウスは部屋に入るなり「うおー!!」などと叫びその輪に加わっていった。
「だっ、誰?」
「なんだよおっさん!?これは俺たちの食事だぞ。」
「俺も腹が減ってんだ!!少しくらい寄越せや!」
突然の掠奪者の登場に驚く少年たち。
(アイツが食べた分も払わないといけないのか…)
財布の心配を割と真面目にしつつ、どうしたものかと思案する。
(はぁ、食事が終わるまで話を聞くのは無理そうね。)
いつ終わるとも分からない食事に半分呆れながらも待つことにした。
「あ~食った食った。」
腹をおさえながら満足げに呟く兄らしき少年。
弟らしき少年も満足したように半分夢の中だ。
ザイウスはというとすっかり寝入っている。
(寝てる馬鹿は放置しましょう。)
「ねぇ、君たちどうしてあんなところで倒れてたの?」
食事を終えすっかり落ち着いた少年に話しかけてみる。
倒れていたのはこの村から離れただだっ広い荒野。どう考えても不自然である。
周囲には人が住んでそうな気配もなかったし、あそこには採取するような薬草もない。
魔物も比較的強力なものが多く、子供だけで遊びにいくには危険な地域だ。
少年の返答を待つ。
兄のような少年はいきなり話しかけられた事に驚いたのか、キョトンとした瞳でこちらを見つめてくる。
「おばさん誰だよ?」
(おばさんだと……!?私はまだ22だっつーの!!)
内心憤慨しながらも、思考を必死に落ち着ける。
(おばさんおばさんおばさん……。ってちがーう、そこじゃなくて…そういえば昨日は意識なかったから私たちのこと知らないのも当たり前か。とりあえず自己紹介からかしら。)
未だに頭の中でとあるワードが巡っているが、冷静に判断を下す。
「私はソフィアっていうの、そこの馬鹿はザイウス。私の隣にいるのはメギドよ。冒険者をしているの。」
「ふーん、俺はレイリーだ。で、そっちが弟のスーラー。」
顔を半分寝ている少年に向け目線でそちらを指す。
話を聞く限り兄弟であるという見立ては間違っていなかったようだ。
自己紹介を終え本題に入る。
「昨日キラースコーピオンの群れに襲われて倒れてたみたいだけど、どうしてあんな所にいたの?私たちが通りがからなかったら危なかったわよ。」
「あーえーっと、とりあえずここは教会でシュヴァイツ帝国内じゃないよな?」
確かめるように訪ねてくる。質問を質問で返されるとは思っていなかったが、答えないと先に進まない。
「ええ、ギール王国の南、エテジアの村だけど。」
「ふぅーよかったよかった。なんとか国を出れたか。」
安堵した声を漏らすレイリー。しかしソフィアにはさっぱり分からない。
シュヴァイツ帝国といえばフィファル大陸内でも、有力な国で王も良政を敷いている有名な国だ。
北はギール王国、南ではレオンハルト王国と接している。
特にレオンハルト王国とは友好な関係を築いており、大陸内ではレオンハルトに次いで大国である。
ソフィアたちも何度か行った事があり、他の国と比べての治安の良さに驚いたものだ。加えて人柄も良く国民は皆フレンドリーだった。
レイリーの口ぶりからして、シュヴァイツ帝国から逃げてきたのであろうが、あの国がこんな子供を追いまわすものだろうか?
(盗賊に追われたとしても衛兵に言えばあそこの国なら助けてくれるだろうし…)
他の要因も考えてみるがどれもイマイチピンとこない。
今代の王は民の事もよく考えていて、賢帝と名高い。そんな王が何かするとは思えない。
(なにか、国内で大きな事件があったとか?あの国に何かするような輩がいるとは思えないけど。)
結局いくら考えても埒が明かない。
(って、当事者に聞けばいい話じゃない。私のばーか。)
少し自己嫌悪に陥りつつも、質問を切り出す。「で、どうしてあんなところにいたの?」
今日何度目だろうか分からない質問。これが聞きたかっただけなのに随分時間がかかったものだ。
レイリーは少し困惑しながらも口を開く。
「まぁどこから話せばいいんだか、俺たちはシュヴァイツ帝国から逃げてきてキラースコーピオンに襲われた。そこでお前ら、いやあなたたちに助けてもらったわけだ。まずは礼を言う。助けてくれてありがとう。」
椅子から立ち上がりこちらに頭を下げる。その所作は、ところどころ服が破けた貧しそうな服装からは想像できない程にちゃんとしたものだった。敬語も使わない生意気なガキだと思っていたレイリーの評価を少し上方修正する。
「お礼はいいわ。倒れてる人を助けるのは当然の事よ。それより逃げてきたってどういう事?」
頭を下げるレイリーに一番の疑問をぶつける。
最初はなにか考えている様子であったが、やがて諦めたように喋り始めた。
「シュヴァイツ帝国は今戦争を仕掛けられている。もうすぐ帝都も陥落するだろう。レオンハルト王国によって。」
と余りにも信じられない内容を……




