第十五話
ええ、青年期スタトです。
クロノの出番がない?
そんな馬鹿な。
一応青年期では苦戦する相手も出す予定です。
殺風景な荒野。
茶色く削り取られたような切り立った崖がいくつも見える。草木は生えておらず、ただ無機質な茶色い地面だけが広がっていた。そこで鳴り響くのは木枯らしの風の音だけ――のはずだった。普段であれば生物の気配すらも感じられない、正に死の世界と呼ぶにふさわしい程に静まり返っているであろう。
しかし今日は、違った。辺りに響きわたる怒声と剣戟の音。
そこには、2mはあろうかという青い蠍の群れと男女数名の人間の姿があった。
「くそがっ!! いくらやっても減ってる気がしねーぞおい。」
がたいの良い赤い髪をした男が声を荒げる。
手にはとても大きい大剣。それを乱暴に振り回し、敵をなぎ払う。
「泣き事言ってる暇があったら、その分手を動かしてほしいね…っと」
そんな男の言葉に茶髪の細身の長い剣を持った男が、襲い来る針をよけながら答える。
「あんたらねぇ、こんな時まで喧嘩してる場合じゃないでしょう!?」
そう二人を咎める青い髪をした女性の手は青白く光っている。
その前には、やられたのか横たわっている二人組がいた。
「こっちは暫くかかりそうだから、その間持ちこたえてね」
「そんな奴ら放っときゃいいんだよ」
「分かったよ、何とか持ちこたえてみよう」
正反対の回答をする二人。
その間にも青い蠍は襲ってくる。それを息のあったコンビネーションで斬り捨てていく。
「そういうわけにはいかないでしょうが、この馬鹿!!!」
顔だけを向けながら赤い髪の男に対して、怒声を上げる。
「誰が馬鹿だ誰が」
こちらは顔を向けずに答える。しかし、手を止めることはない。
「あんた以外いないでしょう?」
この二人のやり取りを聞いていた茶髪の男は、心で溜息をつきながら目の前の敵を斬っていく。
徐々に蠍たちも無闇に襲ってくる回数が減っていった。目の前にいる人間たちが自分たちの手には負えないと判断したのだろう。
ついには、一匹が北へと逃げ出して行った。それを皮きりにどんどん同じ方向へと逃げて行く。追うことはせず、過ぎ去った脅威に人間たちは安堵した。
只一人の馬鹿を除いてだが。
「はぁー? なんでキラースコーピオンの後を追わねぇんだよ。いまなら連中も怯えてるし一掃するチャンスだっただろうが」
「こっちには二人の怪我人がいる。深追いして彼らを危険に晒す気?」
赤い髪をした男の問いにさらりと答える青い髪の女性。
「なら俺とメギドだけで行けば済・・・」
「俺はパーティリーダーの意見に従うさ」
メギドと呼ばれた茶髪の男は言葉を遮ってそう告げた。
「リーダーとして、勝算のない所へパーティーメンバーを向かわせるわけにはいかないわ」
「っち、わーったよ。深追いはしねぇ」
渋々ながらも頷く赤髪の男。
「んじゃあ、これからどーすんだ? ソフィア」
青い髪の女性ソフィアは凛とした声で言った。
「とりあえず、エテジアの村に戻ります。二人の治療もしなければいけないしね」
ちらりと横たわっている二人の方を見る。意識のない幼い少年たち。二人とも所々服が破けており、激しい戦闘の跡を色濃く残していた。
「ザイウスとメギドは二人を背負って行ってね、村に戻れば早く良くなるでしょう」
めんどくさそうに背負うザイウスと淡々と背負うメギド。
三人は荒野から北の方に向かいエテジアの村を目指す。
三時間後
辺りは夕陽に照らされていた。そんな中歩き続ける三つの影
未だに殺風景な荒野が続いていたが、もうエテジアの村は近い。
(まあ後一時間ってとこかしらね)
そう思った時、地面からズドドドという轟音が聞こえてくる。嫌な予感がする。音はどんどん近付いてきていた。
「みんな!! 今すぐ足元から離れてっ!!!」
そう叫んだ瞬間――大地が割れた。
声にいち早く反応したザイウスとメギドは、人を背負いながら間一髪で逃げることができた。
その様子をみてほっとしたのも束の間、地面からなにかが出てきた。
「ジャイアント・ワーム・・・」
10mをゆうに超える巨大なミミズのような生物がこちらを見る。獲物をみつけた目だ。
――ジャイアント・ワーム
SSランクに指定される強大な魔物だ。
今日戦ったBランクのキラースコーピオン等とは比べ物にならない。
討伐には最低でもAランクの冒険者が四人は必要といわれる。
ソフィアとザイウス、メギドは全員がBランクの冒険者。圧倒的に戦力が足りなかった。
そもそもこんなところにジャイアント・ワームなどいるわけがないのだ。そんな事までは想定していない。
しかし、やらなければ殺される。
ちらりとザイウスとメギドの二人をみる。二人とも既に背負っていた人を地面に置き剣を抜いていた。どうやら同じ考えのようだ。私も杖を構え臨戦態勢に入る。
しかし、どうしても震えてしまう。レベルが違う。そう本能が叫んでいるようだった。
そうしていると、大きな影がこちらへと信じられないスピードへ向かってきた。
ジャイアント・ワームがこちらに突っ込んできたのだ。
(速っっ!!)
咄嗟に光の防御壁を張る。そのまま突っ込んでくるジャイアント・ワーム
防御壁の先端がジャイアント・ワームとぶつかった。
衝撃で防御壁が跡形も無く砕けた。
(そんなっ!?)
敵は意にも介さず突っ込んでくる。
もうこの距離では逃げられない。
死んだ。そう思った。
次の瞬間目の前にジャイアント・ワームの死骸が見えるまでは。
「大丈夫か?」
死骸の上にはフードを被り奇妙な細い剣を携えた男? が目の前に立っていた。




