第十三話
朱美さんの口調が定まらないのは仕様です
この世界の文字は英語ではないですが雰囲気の為に使わせていただきました
まあ橙子さんがアクセサリー屋に作らせたんですけど
修練場を静寂が支配していた。
普段であれば兵士たちが訓練し活気ある声が響いているであろう空間。
声を出せない。出したら目の前の現実を認めてしまうような気がして。
そんな重苦しい雰囲気を打ち破ったのは間の抜けた声だった。
「さっすがー。クロノなら殺さずに嬲ってくれるって信じてたわよ」
「かーさん…嬲ったとか人聞きの悪いこと言わないでよ…」
親子二人の物騒な会話が修練場に響き渡る。
その言葉を聞いてその親子以外の全員は状況を理解した。
幼い子供に騎士団長ギルフォードが負けるという信じられない事態を。
(あー、疲れた)
クロノはあれから二時間後ようやく修練場から出ることができた。
(全員と試合するとか聞いてないよ。)
騎士団長を倒した後全員から試合を申しこまれたのだ。
律儀にその全員を相手にした疲労感でいっぱいだった。
ただ、この疲労は疲れは疲れでも精神的なものである。
(手加減しながら戦うのはもう勘弁だね)
そう、殺さないようにセーブして戦ったがゆえの疲れ
それでも全員分の鎧と剣を砕いたのだ。
クロノと騎士たちの間にはそれほどの力量差があった。
(あっ、全員まとめて試合すればよかったんじゃ…)
そんなことを考えながら歩いていると客室についた。
綺麗な作りをした黒い木製の扉をあける。
「あークロノお帰りー、疲れた顔してるねー?」
かーさんは騎士団と僕が試合している間に修練場を出て行っていた。
おそらく飽きたのだろう。
「あの後騎士団全員と試合したからね」
「騎士団長との試合みて力量差分かんなかったのかな? 私の息子が負けるわけないじゃん」
椅子に座り、誇らしげに胸を張りながら僕を出迎える。
かーさんは全く悪びれた様子もない。
「もとはといえば、かーさんがやる仕事だったのに…」
思わず不満が口に出てしまった。
「あらー? 私がやったら彼らは死んでたわよ? 主に私とクロノに剣を向けた罪で」
かーさんの目は本気だ。それで済めばいいとさえ思う。
僕はそれ以上の追撃を諦め、ベッドへと倒れこむ。迷いの森にあったものとは、寝転んだだけで質が違うと分かるような高級感の漂うベッド。
「そーだクロノ、明日この国を出るわよ。まだまだ、回らなくちゃいけないところは山ほどあるんだから」
(そういえば国を回るって言ってたっけ)
「わかった」
二つ返事で了解する。
どちらにせよ僕に選択権などないのだ。
「出発は明日の昼前にしましょうか、寄るところもあるしね」
かーさんの寄るところというのが気になったが、疲れていた僕はそのまま眠りについた。
翌日
僕たちは王城を出て街に来ていた。
一昨日回った人の多い通りではなくひっそりとした通り。今日は注目を集めることはなさそうだ。
「さてここに入るわよ」
そういって入ったのは、色々なアクセサリーが置かれているこじんまりとした店だった。
アクセサリー店だろうか?
かーさんにそんな趣味があったとは。僕はにわかに驚きつつ、かーさんの跡をおって入っていく。
狭いカウンターには店員らしき若い女性が立っている。
かーさんは店に入ると真っ直ぐにカウンターへと向かって行った。
なにやらかーさんが店員と話している。なんであろうか。
少し会話した後店員さんは奥に引っ込んでしまった。
その間僕は店内を興味深く見て回る。色鮮やかなアクセサリーに日光が反射して、店内は色んな光に照らされている。
しばらくすると店員が奥からなにか持ってきた。
「ご注文の品はこちらでございます」
「うっわー、超素敵ー」
そこには朱色と黒で装飾された指輪が二つ。
よく目を凝らして見るとkurono kageuraと彫られていた。
「ありがとう、いい店ね」
そう言ってかーさんはその指輪を受け取り店を出て行った。
僕もその後を追う。
「ほいっ、クロノプレゼント」
店を出てすぐかーさんに指輪を渡された。
よく見ると表にはkurono kageura 裏にはakemi kageuraと彫ってあった。
意味を聞くとかーさんの国の言葉で表が僕の名前。裏がかーさんの名前らしい。
それはとても綺麗で神秘的な輝きを放っていた。
なによりかーさんからのプレゼントだ。
一生大事にしよう。
「これで私とお揃いね、二人で一つずつのものよ。」
「ありがとうかーさん。」
とてもうれしかった。
かーさんとの絆が強くなったような気がして。
早速右手にはめようとすると、かーさんに止められた。
「はめるなら、左手の薬指にしなさい。」
「なにか意味があるの?」
「私の国の風習でね、大切な人との指輪は左手の薬指につけることになってるの」
かーさんに言われるがまま、僕は左手の薬指に指輪をはめた。
大きさは丁度よく、反射する紅い光は炎のようにすら見える。
それからすぐ僕たちはテレポートで次の目的地へ跳んだ。
お互いの左手に光る指輪をはめながら。
指輪が朱色と黒色なのはとても単純な話です




