第百三十一話
3年ぶりに書いた
短め
次のお話は翌日の夜から始めます
でも何時になるかはわかりません
街はいつもと変わらない朝を迎えていた。人の行動が多少変わることはあっても、大きく変わるなんてことはそうそうない。きっと誰もがそう思っているし、思っていなくても疑うような人間はきっといない。そもそも、こんな爽やかな朝にそんなマイナスなことを考える人間なんている方がおかしな話だ。
クロノは憂鬱な朝を迎えていた。宿に帰ってきて2時間ほど経った。一睡もしていない。体力は人よりもある。1週間ほど寝なくとも体調に異変をきたすことはない。だからこの憂鬱さは決して、睡眠不足から来るものではない。だからといって2時間ほど前のように、言いようのない焦燥感に駆られているわけでもない。
ただ、冷静になったのだ。冷静になって現状を考えたのだ。リルの立場になって。
夜になっても部屋に帰ってこず、どこに行ったのかも分からないまま、起きて帰りを待っていたのだろう。帰ってきた頃にはもう朝だ。リルは自分の顔を見てきょとんした途端安心したのか眠りについた。今はもうすっかり寝息を立てている。
まず罪悪感が生まれる。自分のせいで丸一晩寝かせていないことに対して。
ただ、憂鬱の原因の主たる要素は別にある。
考えてみれば、朝方憔悴した様子で帰ってくるなり、4歳も年下の14歳の子を何も言わずにいきなり抱き締め、乱れた呼吸を整えるなんて、字面に起こしただけで危ないやつ以外の何者でもない。自分の中でどんな感情の起伏があったのかなんてことは分からないにも関わらず、黙ってそれを受け入れているリルに甘えている自分が情けなくなる。
その上眠りに落ちる直前に、リルはリルで何かを察したのだろう。耳元で「大丈夫だよ」と囁いた。その言葉に何より安堵した自分が情けない。これではどちらが年上か分からない。
大きなため息を吐くクロノの耳に何やら物音が飛び込んできた。顔からフッと表情をかき消し耳を研ぎ澄ませる。ここの部屋は突き当り、入り口から一番遠い部屋だ。そしてこの音の距離からして、既に他の部屋を通り過ぎたであろう足音の主が来るのはこの部屋しかない。
来訪者が来るときは大体ろくなことがない。足音が小さく、華奢な身体の持ち主であろうことが想像できればなおさらだ。コイツが吉報を持ってきたことなど一度もない。
いつも通りの仏頂面で迎え入れたクロノだったが、発せられた言葉を聞いたその顔は普段とは様子が違っていた。
「日程決まったよ。明日の夜決行だってさ」
うっすらと笑顔に。頬を醜く歪ませた汚い笑顔に。
⇔
勇者は憂鬱な朝を迎えていた。疲れや心労といったものはまったくない。十分睡眠もとった、食事もした。身体の調子は快調そのものだ。健康診断をしても何の異常も見つからないだろう。だから、だからこそ、気だるい。何度あくびをかみ殺したか分からない。
この移動時間が何よりも憂鬱だった。集団の中心になって移動しているわけだ。最初の頃は気分が良かった。人の中心に立って集団行動をするという経験は今までの人生ではなかったし、ピクニック気分程度で楽しんでいた。
しかしこうも長い間移動に費やすと、そんな気はどこかに失せて飽きてしまう。
これが目的地に向けて必要な適切な移動時間であるならば、致し方ないことだが、自分にとっては決してそうではない。一人で走ればここからなら1時間程度で着いてしまう。
そんなに必要もない、特に役にも立たない戦力にもならない人間を無駄に引き連れて、行軍しているからこんなにも遅くなっているのであって、必然性の欠片もない移動時間だ。車で行けばいいところを、わざわざ歩道を匍匐前進しているくらいの感覚だ。
やはり自分には集団行動が向いていないと痛感せざるを得ない。
――まあ、そろそろ最後になるんだろうけども
この辺りが潮時な気配はしている。先日何やら不穏な動きを目の前で見てきたことを考えると、この時間もそう長くは続かないだろう。
きっとこれが最後なのだからこの時間を楽しもうと、意を決して心を引き締め直した彼に声がかけられた。
「このペースで行くと明後日の朝には目的地につくかと思います」
この日一番のあくびが彼の口から漏れ出た。
ふと更新情報を見たら他のと違って唯一携帯投稿ってあったけど、モバイル版なくなるから最後になるのでは?




