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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
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第百二十七話

適当

「これも駄目、こいつも駄目、こっちも駄目ー、駄目駄目駄目駄目駄目のオンパレード!」


 ヒステリックな色を含んだ叫び声を上げ、身体を目の前の机に投げ出してみる。だからといってまったく事態が好転するわけではない。ひたすらに堅い感触が身体を襲うだけ。分かっていながら、こうせさざるを得ない。こうでもしないとやっていられない。

 

「何叫んでるんですか、外まで声、響いてますよ」


 何時の間にやら部屋に入ってきていたらしいユウが宥めるように言った。

 その姿を認めながらもユイは一向に机から身体を起こそうとしない。


「傭兵の選定ですか、目ぼしい方は……」


「いたら苦労しませーん。ブラム兄弟には拒否され、ミランも拒否、クリークに至っては敵側につきましたー。その他二百を越える数も、大体おんなじ。みーんな根性ないんだよぅ」


 正式に傭兵でも雇おうかとリストを眺めて、接触を試みるものの、どれもこれも拒否拒否。ユイがうんざりするのも無理はない。


「そりゃあ、どう考えたって敗色濃厚ですから……。むしろ、こちら側についてくれる方のほうが異常かと」


「それにしたって全員拒否だよ!? もうやんなっちゃうぅ」


 口ではブーブーと文句を垂れるユイだが、ある程度この結果は予測していた。一応、必要最低限の戦力は回収してある。極端な話、クロノさえいれば後はどうでもいい。傭兵を探しているのは、念のため戦力を少しでも増やしておくか、程度の考えでしかない。


「余程のわけありじゃないと、中々難しいんじゃないですかね。あちら側に恨みを持っているとか、あちらにつけないとか」


「その線で探してはいるけど、恨みを持ってそうな敗戦国の将は大概役に立たないのばっか。私が個人的に期待してる子も、行方不明っていう」


「行方不明……? 見つけられないんですか?」


「いやー、治安維持に諜報隊かなりさいちゃってさ。そんなに人数残ってない上に、他の面子は敵側の諜報に回してて探れないの。それに優先度低いし。私はナナシちゃん面白いと思うんだけどなー。だって、全盛期ならリルちゃんクラスだよ? ロマン感じない?」


「ロマンというか、単純にそのレベルなら十分に強いと思いますが……。全盛期なら、ってことは今は」


「うん、そこが残念なところ。今どれくらいかっていうのは未知数。立場的にも敗戦国ギールのとこの人間で、結構いい線行ってるんだけどなぁ……。敗戦後の混乱で行方不明じゃなければ、駄目元で行ったのに」


 心底残念そうに口をすぼめる。

 果たしてナナシが使えるかどうかさっぱり見当もつかず、確実性の低いところに回す人員がいないのが残念なところだ。どうせこちら側についてくれる傭兵など、適当に穴を掘って温泉が湧き出る確立並みに見つけるのが難しいのだから、特攻覚悟で探してもいいと思うのだが、この状況では時間がかかりすぎる。

 ぐだぐだしていた身体をようやく起こし、冗談めかした口調で言う。


「どうせ仲間になってくれる傭兵なんていないんだから、別路線で攻めよう!」


「たとえば?」


「『ジェスター』さんとか!」


 『ジェスター』というのは、毎年行われる仮装大会の前年度優勝者であり、目下10連覇中のミスター大道芸人である。毎年毎年、どうやっているんだという奇抜なメイクと、斬新なパフォーマンスを見せ、圧倒的得票数で優勝を掻っ攫っていく。年齢性別共に不詳の謎の人物でもある。年度によっては仮装大会の登録名が『パノン』だったり、『ピエール』だったり名前もイマイチはっきりしない。当然、傭兵などではない。


「……疲れてるのは分かりました。少しお休みになっては?」


「いや、待とう? あんな派手な格好の一人旅だよ? 襲われやすいに決まってる。それなのに、やっていけてるってことはだよ? もしかしたらクリョニョンよりも強い可能性が!?」


 熱弁を奮うユイを見て、ユウは色々と諦めたのか眉ひとつ動かさず、それ以上何も言ってこない。

 

「それに、前回の仮装大会の後ふざけて後をつけさせたら、簡単に撒かれてしまったんだよ! つまり、これはかなりのツワモノの…………うん、私が悪かったから真顔止めて。ツッコもう? ツッコミ待ちなんだよ?」


 悪ふざけも大概にしろ、とユウが無言の非難を送ってくるので、これ以上の話は諦める。続ければ暫く酒場への出禁を食らいそうだ。慌てて話題の転換を図ることにした。


「あっ、そうそう、ギールで思い出したけど、あそこの再興が図られてるとかいう噂が出回ってるよぅ」


「よくある話ですね。……でも、あそこって跡取りいましたっけ?」


「いないよぅ、中心人物はクライス王の弟なんだってー」


「今はそんなことしている場合ではないでしょうに、あんまり騒ぐと完全に息の根を止められますよ。進撃が止まるまでは潜伏期間でしょう」


「弟の頭はあんまりよろしくないみたい。それとー、本日、「勇者」様がお国を出発したってさー」


「猶予期間無くなってきましたね。もう無謀な傭兵捜索をやっている場合ではなさそうですよ」


「むー、じゃあ今日はとりあえずクリョニョン呼んでプランの確認かな。ということで呼んでこよーっと」



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