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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
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第百二十五話

――こんなもんか。


 白井は拍子抜けしていた。何が襲ってこようが、特に手間取ることはない。事前の評価が高すぎたのか、がっかりしたと言っても過言ではなかった。

 途中の幻覚作用持ちの植物も、大したレベルではなく、少し慣れたら抗体が出来たくらいだ。

 森の中で戦っていると、昔行ったゲリラ戦が頭に浮かんでくる。もう少し亜熱帯気味の森の中で敵との遭遇に注意しながら、ひたすらに進む。確か民間のゲリラ勢力と軍の対立だったか。中々にスリリングでつまらない場所だった。なぜつまらないかというと、ほとんど銃撃戦だからだ。殺した感触が手に残らない。まあ、白井はどっちつかずで荒らしに行っただけなのだが。

 他にも白井はいくつかの戦争や紛争に旅行感覚で出かけたことがある。お陰で国際的機関からも狙われる羽目になった。荒らしすぎて一個小隊を相手にしたことが何度もある。うるさすぎて、しょうがなく建築工学を学び、拠点ごと爆破してやったこともある。本当に苦肉の策であった。

 いくつか戦場を歩き回って、思ったことがある。あそこは人殺しのいる場所じゃないということだ。あそこで行われているのは、人殺しですらない。相手を人として見ていない。殲滅すべき敵であり人ではない。そんなのは人殺しではないのだ。10何箇所の戦場を回って、白井は戦場に行くのをぱったりと止めた。

 あっちの世界に比べればこの世界の戦争なんてままごとみたいなものだ。きっちり人を人として見ている。

 

 ゲリラ戦を思い出し、匍匐前進でもしてやろうかと考えていたところ、木々の隙間に心躍る獲物が現れてくれたのでしないで済んだ。

 これを何と表現すればいいか、ゴーレムを想像してくださいと言って、石や泥で組み上げる者が多い中、少数派として機兵を想像する者がいる。その機兵を造ったらきっとこんな感じだろう。

 それは、シンプルイズベストを素で行くような簡素さ。大まかに上下二つのパーツで出来ているように見える。上下にそれらしき足と腕が二つずつ。余計な着飾りは見当たらない。

 銀のフォルムに、上パーツについた黄色い目らしき物体が特徴的だ。目のついた部分は見上げるほど高い。


「ロボットかよ」


 簡単にそう言ってしまったが、技術力として見ると元いた世界よりも高い気がする。稼働音がしないし、動きがやたら滑らかだ。人型というのが個人的には気に入るような、技術的には気に入らないような気がしたが。

 これは明らかにおかしい。この世界の文明レベルのものではない。

 そして――


「いいねェ! こういうのを求めてたんだよォ!」


 テンションの高まった叫び声に反応したのか、ロボットの上パーツが一瞬傾いた。無機質な黄色い目がこちらを捉え――閃光が煌めいた。

 銃口を向けられた時よりも遥かに重たい死の予感が全身を迸る。ガードという選択肢はない。判断するよりも身体が自然に動いた。

 右へと飛び退り着弾点を見ると、地面は線をなぞるように白煙を上げ消失していた。

 

――レーザー光線!?


 ふざけてる、としか言いようがない。こんなものをこの世界で見るとは思わなかった。

 これは誰のものだ? 誰が造った? なぜここにいる? この先に何がある? 

 疑問が沸々と湧き上がってくる。これだ。これこそが求めていた未知だ。

 まず一撃食らわそうと間合いに入る。フォルムは硬そうだ。何か作るよりも素手の方が壊せるだろう。

 だが、相手の反応が早い。こちらが攻撃の態勢に入るや否や、宙に浮きながら尋常ならざる速度で後ろに退いた。速度だけならこちらよりも速いかもしれない。そこに何かの発射音は聞こえなかった。

 身を隠すことにきっと意味はないだろう。サーモグラフィで人間を見つける機械が、自分の世界ですら実用化されているわけだ。技術レベルの違うこれにだって、それ以上のものがあるに違いない。そしてこいつはおそらく人間相手専用だ。こんなのが魔物を襲い始めたらこの森はさぞ綺麗な更地になることだろう。人間専用のこいつについていないはずがない。

 

――攻めるしかねェな。


 全速力で間合いに入る。レーザー光線を掻い潜り、懐に入った。瞬間。パカッと言う擬音が聞こえてきそうなくらい見事に銀の腹が開く。腹の中は穴だらけで、穴の中は――ミサイル畑だった。


――ミサイルゥゥゥ!!


 咄嗟に姿勢を低くしロボットの股を抜け背後に回ると、元いた場所はミサイルの雨。雨による爆風は波状の衝撃波となって轟音と共に森の中を駆け巡る。白井自身、煽りを受け遠くへと吹き飛ばされた。

 爆風を操って何とか地面に着地するも、身体は熱でところどころ火傷していた。それでも思ったより深くないのは、この世界に来て身体能力というか身体自体が強化されたからだろう。ローストにならないだけ上等だ。

 ミサイルは使わせた。懐に入る上での障害物は一つ除いたと言っていい。煙を強引にかき消し、目視で相手を確認する。距離は約30m。直線のレーザーを避けるのは容易い。自分より速かろうが避けるだけなら割と楽だ。


――このまま内臓武器削る安牌かァ?


 何度も潜り込んで中の武器を全て出させる。壊すのはその後。この身体能力ならば勝算はある。敵が複数でないこの状況で決定機に最善手を使わないやつは馬鹿だ。つまりあのロボットにはミサイルより速い近接戦闘武装はないと考える。そのミサイルを避けられたならば、他のも避けられるはずだ。

 黄色い発射口の直線上に立ち、一発目を誘う。瞬間。閃光と共に飛んでくるレーザー。

 まず、直線から一歩動きそれを避ける。避けた後もレーザーは照射され、元いた場所は綺麗な更地だ。

 一つ分かったことは、こいつは動作は速いが、次の動作に移るまでが遅い。そしておそらくミサイルは条件反射だ。

 動作と動作の間を縫って一気に距離を詰め、内側に潜り込む。

 

――さあ、次はなんだ?

 

 わくわくして次の攻撃を予見していた白井を襲ったのは、またもやミサイルだった。二度となると流石に芸がない。銀の腹が大きく開く。内部から顔を覗かせるのは、満タンに詰められたミサイルたち。

 ストックが内部にあった? この身体にまだまだ武器を貯蔵している? そう考えて、また別の可能性が浮かぶ。だがこれはあり得ない。あってはいけない。思考を必死に押さえつけてそれを否定する。

 そして発射された後の穴を見て、その可能性が夢でもなんでもないことを知った。


 空になった発射台。避ける直前、その中に見えたのは――先から再生していくミサイルだった。


 再び爆炎で吹きとばされるが、あらかじめ風を操っていたお陰で前回よりも被害は小さい。被害らしい被害は、持っていた少年の骨付き肉がこんがりしたくらいだ。

 二度飛ばされたことで頭は冷静だ。とても冷静にただ一つ、初めからやっておけばいいことを行う。

 

「じゃーな」


 このまま何カ月もここに籠れるなら遊んでいてもいいが、残念ながら明日には王都を出なければならない。全て終わった後で再びここに来よう。ここの全容解明はまた今度だ。

 早速立ち去ろうとするが、後ろの方はどうやら追いかけてくる気満々のようで、無機質な目がぎろりとこちらを見た気がした。

 ここからは地獄の果てまで追いかけっこだ。振り切れないようならしょうがない。その時は、属性魔法で直接的にぶち壊すだけだ。

 が、相手は途中で突然の急停止。故障ではなく、本当にぴたりと、そこに何かこえてはいけないラインがあるかのように。

 白井としては好都合だ。これ幸いと急加速し、相手の射程から出る。

 相手が見えなくなってから、念のため辺りを地属性で探ってみる。白井は「勇者」の能力として、どこになにがあるか、土の上に立っている物の感触や重さが半径数百キロ圏内までならば分かる。初めから使えば良かったのだが、それだとスリルが味わえない。


「どうなってんだ、これ」


 ロボットは依然、最後に見た位置で止まっていた。それはいい。問題は他の物体と生物の配置だ。重さからして、ロボットとまったく同じ物が他に9体、森の中を徘徊している。だが幸い、こちらの近くには1体もいない。一番近いのが先ほど相手したやつだ。


――これは偶然じゃない。


 頭の中で位置情報を組み立て、脳内の地図に配置していく。問題はロボットが先ほど止まったライン。あそこが活動範囲の端ならば、その奥には何かがある。活動範囲は基本的に四角では指定されない。多くは円状に指定される。そしてその場合は、活動範囲の中心に何かがある。

 先ほどのラインを含み、他の9体も含んだ円を頭で描くと、何が中心にあるかは簡単に見当がついた。

 

「山……? じゃねえな、これは木か」


 それは森に入る前に見上げた山。空を貫いてなお上に伸びる山は、しかし山ではなかった。探ってみると、しっかりと地上に根を生やした巨大な大木だった。木の肌に木が生え、全貌の見えなくなった大木。

 それを中心にあの兵器共は活動している。あそこには、人智を越えた何かがある。


「スゲェな! 良いよ! すっごく良い! ――ん?」


 子供のように笑っていた白井の意識に何か気になるものが入った。

 ロボット以外に、たった一か所、妙に重い場所があった。そこにだけ、何かが集まっている。地面についている数からして軽く二千は越えているだろう。重さもバラバラで、とても同じ生物の集まりとは思えない。特に動いている様子もない。殺し合ってるというわけではなさそうだ。

 基本的に動物は他の種と群れを組むことはない。きっと魔物だって同じこと。であれば――

 

「……まあ、いいか」


 ここじゃない。ここでやったところで、この先つまらなくなるだけだ。これはこの先を面白くする相手からの配慮だ。それを無碍にするのは忍びない。

 

「期待してるぜ?」


 白井は誰かにそう言って、魔境から引き上げていった。



 

 

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