第十話
少年期スタトです
クロノは成長して比較的喋るようになりました
性格も明るくなったようです
いつの間にか黒髪に!?
うっそうと木が生い茂る森の中に彼はいた。
目の前には金棒を持った赤いオーガ。二本の角が生えており、眼光は鋭い。醜く涎を垂らしながらもあふれ出る殺気。
普通の人間であれば逃げ出してしまうであろうが、黒髪の少年は殺気に臆することなくオーガと対峙していた。
オーガは少年目がけて金棒を振り下ろす。風切り音と共に少年に死が迫ってくる。
強い衝撃が辺り一面に広がる。地面に金棒が突き刺さり、跡には巨大な穴が出現した。
しかし、そこに少年の姿は無かった。
「遅すぎ」
そう呟いた少年クロノ・カゲウラは既にオーガの首を斬りおとしていた。
「おーい、かーさん言われた通りオーガキング狩ってきたよ」
空が夕日に染められた頃。木々の間から零れる陽に眼が眩みそうだ。
住み慣れた家のドアを開ける。ギィッという音とともに木でできた扉は住人を迎える。
森の中にポツンとたった小さな山小屋。簡素で雑な作り。その前には四角い畑があり、野菜の芽が顔を出していた。
そんな山小屋が彼らの住処。
「はっやーい、流石は我が息子ねー。いい子いい子してあげる~」
「いや、遠慮させてもらいます」
「急に敬語!? これが反抗期というやつなのかしら?」
他愛もない会話。こんなやり取りは日常茶飯事だった。
「でー、どうだった? オーガキング苦戦したー? 見た感じそんな風にはみえないけど」
「いや全然弱かったよ、遅すぎてお話しにならない」
この会話を聞けば多くの冒険者は卒倒するだろう。
オーガキングとはオーガの最上位種でSSランクの魔物だ。金棒を目にも止まらぬスピードで振り下ろす凶悪な魔物。その一撃は地面にクレーターを作る。
それを弱いという少年。
「だよねー。もうこの迷いの森には、オーガキングより強い魔物はいないしなー」
迷いの森。そこが彼らの山小屋がある場所。
これまた普通の人間であれば耳を疑うであろう場所。
凶悪な魔物がたくさん棲むといわれる迷いの森。
最低でもBランクの魔物が棲み、決して人が住めるような場所ではない。
しかし彼らは住んでいた。若い女性と、今まさに成長期を迎えるかという少年の二人で。
「正直かーさんと戦った方が何十倍も強いね」
「そんなわけないじゃない、何億倍の間違いよ」
「はぁ、いつになったらかーさんに勝てるんだか…」
「まあ、お母さんに勝とうなんて二百年早いわよ」
木でできた椅子に寄りかかりながら、かーさんはそういってあははーと笑う。この人には本当に勝てる気がしない。
かーさんに拾われてから三年。僕は確実に強くなっていた。
あの日からずっと迷いの森で生活している。
かーさんはもともとここで隠居生活を送っていたらしく、森の中にある山小屋で生活している。
最初こそ何度も死にかけたが、その度にかーさんに助けて貰った
人は何度も死の恐怖に直面すると成長するもので、特にあれが使えるようになってからは徐々に敵を倒すのも楽になってきた。
「でも、私以外ならあなたはなんにだって勝てるわ。流石は我が愛しの息子ね」
「母親を越えられない息子っていったい…」
「しょうがないじゃない、私はこの世界で一番強いんだから」
かーさんの口癖だ。
確かにかーさんは最強と自分で豪語するだけあって強い。
剣は超一流だし、魔法も規格外だ。世界最強かどうかは分からないが。
「で? これからどうするの? また別の狩ってきた方がいい?」
「うーん、今日はなななんちゃって重大発表があるからもう休んでていいわよー」
そういうと、かーさんは椅子から立ち上がりキッチンへと向かった。
(休んでてと言われてもなぁ)
寝るにはまだ早い。
この三年かーさんにスパルタな稽古を付けてもらっていた僕としては、なにかしていないと落ち着かない。
(勉強でもするか)
かーさんに教えてもらったのは戦闘の仕方だけではなく、世界の事についてや魔法学果ては料理まで。おかげで家事も出来るようになった。
机の引き出しからノートとペンをとりだす。
家の本棚でめぼしい本をみつけ勉強を開始する。今日は野菜についてだ。
この家には畑があり野菜を育てている。自給自足というわけだ。
パラパラとページを捲り内容を頭に入れながら、必要な場所をノートに写していく。
(うーん、今度このやり方も試してみるか)
色々な栽培方法があることに感心しつつ、書き写していく。
気づくと、窓の外は暗くなっており、キッチンからかーさんがこちらに向かってきていた。
「あらー、こんなときでも勉強なんて勤勉ねー」
「家の野菜の勉強だよ、もっと効率のいい栽培方法があるはずだからね」
かーさんの手には鍋。
中には色々な野菜や肉が切られた状態でお湯の中に散りばめられており、湯気が立ち込めている。
確かしゃぶしゃぶというかーさんの国の料理だったはず。
一度椅子を立ち、手元にあった本を本棚へ戻してから、ペンとノートをしまい再び椅子に座った。
「今日はしゃぶしゃぶよ。クロノ頑張ったからねー」
陽気にそういうとかーさんは鍋をテーブル置き、キッチンから黒っぽい液体を持ってきた。
(これにつけて食べるんだったな)
かーさんも椅子につき
「「いただきます」」
といってから食べる。
かーさんの国の風習らしい。これがこの家のルールの一つだ。
食事中は今日のオーガキングについて談笑したが、よく考えればそこまで話すほど戦っていなかったので、徐々に話は横道に逸れ、終いには好みの女性の話にまで発展していった。
食事を終え食器を片づける。ご飯を作っていない方が食器を洗うのがこの家のルールだ。
食器を洗い終え、テーブルへと向かうとかーさんが手招きしている。何とも怪しい。
不思議に思いながらも、椅子に座りかーさんの言葉を待つ。
頬杖をつきながらなにか考えているようだ。
「クロノ。もうこの森にいてもあなたは強くなれないし、旅にでるわよ」
「旅?」
思わず聞き返してしまう。確かにこの森にもう僕の敵はいない。
しかし、目的がそれだけのように思えなかった。
「そう旅よ、親子水入らずで旅行なんて素敵じゃない」
「かーさんがこの森を出たいだけなんじゃぁ…」
「断じて違うっ! 別に森の中の生活に飽きてきたとかじゃないから!」
やっぱりそっちが本音か。
自分の失言に気づいたのか顔を赤くしてうつむいてしまった。
可愛い。
正直かーさんは美人だ、世の男どもがみればこの姿にやられてしまうだろう。
「とっとにかく、旅にでるわよ」
「僕に異論はないけど? かーさんと旅にでるのも面白そうだしね。で、いつ出発するの?」
「今から」
「はやっ!」
椅子から立ち上がりそう宣言する。
かーさんはいつでも即断即決。ついでに僕に拒否権はないのだ。
「荷物まとめてくるからちょっと待っててよ」
「分かったわ、終わったら私のとこに来てね」
なぜだろう、昔誰かと同じやり取りをした気がするが、あの時とは違う気もする。
支度を終え、かーさんのもとへ向かう。三年住んだこの家に名残惜しさをかんじながらも。
こうして僕は家を出ることになった。
「ところでかーさんはどうして僕の手を握ってるの?」
「テレポートするからに決まってるじゃない」
「え…それって旅って言わないよね?」




