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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
128/150

第百十二話

くそみたいな会話パートの上まだ続く会話パート

予定通り行かない

やりとり書くのたるい

報酬関連は次回冒頭でテキトーにやったことにしとこう

 畳による独特の草のような匂いがする床。陽の差し込む方角では、障子が入ってくる光を和らげている。その向こうには、この館の日本家屋部分を取り囲むようにつくられた縁側、それと少し狭い日本庭園らしき庭。

 見るものが見れば、古風な日本家屋の一室だと思うかもしれないし、専門家が見れば部屋の中がどこかちぐはぐな印象を受けるかもしれない。

 それもそのはずで、ここを造ったのは何の専門知識もない人間なのだ。何となく、日本家屋ってこんな感じかな、と頭に思い浮かべたイメージを吐き出して製作しただけ。

 つまるところ――専門知識のない一般人が大雑把に思い描くような古風な和室――に似せて造っただけの部屋だ。

 

 そんな和室に通された三人は、和室の入り口で靴を脱ぎ、藍色の座布団の上に座っていた。三人が横並びで座り、正面にはメイが座っている。座り方は四人とも正座。ここに来たことがあるクロノ、リル、主であるメイが入るなり正座で座ったのを見て、同調意識でも芽生えたのか、アレクも慌てて正座で座った次第だ。

 この部屋の主とクロノは、アレクを憐憫の眼で見つつ同じことを考えていた。


――5分持てばいいな……。

 

 自分たちの正座初期段階を思い出して、二人は微かに同情を覚えた。

 使用人が熱いお茶を持ってきたのを確認してから、まずメイが軽く三人を見渡して尋ねる。

 

「自己紹介は必要?」


「……俺はいらん」


「私もー」


 全員と面識のあるクロノと、クロノ以外にあまり興味がないリルは首を振る。

 続いてアレクがメイに向かって口を開いた。


「いらないだろ。お前が誰かくらいは分かる」


 その言葉にメイは両手を叩いて含み笑いを浮かべてみせる。

 

「さよか、じゃあ早速本題といこか」


 そろそろ重要な話が始まるのかと、クロノは聞き入る姿勢をとるのだが――

 直後に聞こえた声は、現在の大陸情勢にも、一国の領主にも相応しくない暢気なものだった。


「はーい、まず質問ある人ー」


 どこぞの先生が生徒に訊くように暢気に右手を上げたメイを、ほんの少しの間ぽかんとした顔でクロノは見てしまう。アレクも同様だったようで、状況についていけず開いた口が塞がらないと言った様子だ。

 そんな中、動揺しない人間が一人。


「はいはーい」


「ほいリルちゃん」


「前から思ってたけど……メイさんって普段何してるの?」


「いい質問やね。ウチの仕事は、主に内政の処理と外国の動きを見ての貿易活動の方針決定。貿易はベイポートがメインで、主に東との貿易が盛んなんやで。ウチんとこは公に宰相とか置いとらんから、国の仕事は領主であるウチがしなきゃならへん。意外と忙しいんやで」


「へぇ~、ただお茶すすりながら毎日せんべい食べてたわけじゃないんだね。知らなかったー」


「ぐふっ……!」


 ナチュラルに毒を吐く少女に、一国の領主は口に含んだお茶を吹きだしかける。おそらくリルにそういった意識はないのだろうが。

 未だ精神的ダメージが大きいのか、俯いているメイに不機嫌そうに声をかける。


「ふざけてないで――」


 が、言いかけたクロノの言葉は遮られる。


「ならこっちから質問だ」


「ほいどうぞ」


「まず、お前らに勝算はあるのか? 無謀な自爆特攻でも仕掛ける気じゃないだろうな、そんなんなら俺は願い下げだ」


 客観的に見てこの国に勝ち目はない。それでも尚、戦いの意を示したということは何かあるのだろう。

 しかし、アレクの問いにメイは――首を傾げた。


「さあ?」


「……ざけてんのか?」


「やってみなきゃ分からない……なんて言う気はあらへんけど、本当に分からんよ。だって――」


 メイは視線をクロノへと移し、実に他力本願で無責任なことを言い放つ。


「一番重要な『勇者』の相手はクロノに任せるつもりやから、そこ次第なんよ。クロノが勝てないっていうなら、ゲームエンド」


 メイもギール同様に、勝利条件は『勇者』の撃破だと考えているらしい。そして、その役目はただ一人に任せようとしている。つまり、完全なるクロノ頼み。勝算があるかどうか分からないというのは、そういう意味だ。

 この時点で、アレクの投げかけた問いの答えを出す相手は、ただ一人に絞られる。その人物は、顔を俯かせ、喉の奥から無理矢理搾り出したような、無念と怒りの入り混じった返答を返す。


「……後、少しだったんだ……後、ほんの少し……一秒にすら満たない、そんな時間があれば……アイツを殺せたんだ」


「何の話だよ」


「ハイノ平原で『勇者』と戦った。……殺す手前まで行ったんだ。最後に、邪魔が入らなければ……殺せたはずだったんだ。後少し、後一秒、それ以下でも、僅かに背後からの援護が遅れていれば、殺せたんだよ、あの時に!」


 俯いていた顔は静かな怒りに染まり、好青年に分類される普段の顔の面影すら消し去りかけていた。

 豹変――とは行かないまでも、変貌を遂げたクロノの顔を見て、アレクは驚くことなく言葉を発する。


「まあ、流石にな、そんな顔で言う言葉を嘘だとは思わない。だとしたら大層な役者だが。とりあえず、信じてはみよう」


 言いながら、視線をメイへと移す。


「――だが、思い違いをしていないか」


「何をや?」


「お前が戦争での勝利条件を『勇者』の撃破と考えているのは分かる。確かに、今回の最重要人物はソイツだ。煽動役兼精神的支柱の『勇者』を殺したら勝ち。先頭に立つ『勇者』を失った敵の軍隊は、戦意を失い、和平でも何でも応じる。今までの国もきっと同じ考えだっただろう」


 正座がきつくなってきたのか、崩し始めたアレクの足は、痺れからうまく動いていないようだった。二人から憐憫の眼を向けられていることに気づかないまま、でもと付け加えて続ける。


「それはある程度の戦力を今までの国が保持していたからだ。戦意さえ失わせれば、どうにかなる程度の戦力を持っていたからだよ。引き換え、この国はどうだ? 戦意を失って錯乱状態の相手にすら負けそうな戦力じゃないか? 一人一人が強くても、絶対的に頭数が足りない。ユウとかいう優男ほど強いやつが何人いる? 片手の指で足りそうなくらいだろ?」


 戦力不足。アレクの言う通り、表向きこの国には軍隊はいない。今までの国とは違い、クロノが『勇者』を倒したとして、その先を任せられる力がない。もし、ユウのような人間が多くいるならば、そもそも傭兵の募集などかけないのだ。

 メイは神妙な面持ちで国家機密とも言える内容を口にする。

 

「……公にしてないだけで、諜報部隊はおるよ。たとえば、君の情報とかは彼らからのものやし。彼らは危険な場所に潜入することもあるから、ある程度は戦闘も出来る」


「具体的に何人いる?」


「八十八」


「言うまでもなく足りないな。敵は万を超える、桁が違いすぎる。『勇者』を殺ったとして、数の暴力で潰されるだけだ。戦力の足りなさをどう補う? 傭兵で、なんて馬鹿なこと言うなよ? ここにこんだけしか集まってない時点で、これから10人も集まれば良い方だ」


 淡々と並べられていく変え難い現実に、この国の領主は顔を暗くし、一瞬俯いた後――待ってましたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。


「ウチだって、勝算のない戦いはせんよ。名誉や愛国心から玉砕覚悟で戦うなんて下らない。そんなんなら、最初っから傭兵なんて呼ばへん」


「勝算があると?」


「あるから戦うんや。簡単な話、士気の下がった敵を制圧できる程度の戦力を保持するか、相手にこれ以上戦闘できないくらいの壊滅的被害を与えればええ。そしてウチが選ぶのは後者」

 

「馬鹿かお前は。壊滅的被害を与えられる戦力があるなら、制圧だって出来る。むしろそっちの方が簡単だろ」


「制圧するには、自らの戦力を誇示しなきゃならへん。それがウチには出来ない」


「この期に及んで諜報部隊の存在を隠せると思ってるのか? そこまでして神聖の名の通りクリーンなイメージを保ちたいのかよ」


 アレクの眼には、軽蔑にも似た色が浮かんでいた。

 分かってないな、といった表情でメイは首を振った。話についていけていないリルは、興味がないらしくぼんやりと庭を眺めている。


「そっちやない。公に出来ない戦力を使う、ってこっちゃ。諜報でもない、『汚い戦力』を」


「『汚い戦力』……?」


「戦力差はそれで埋める。そこら辺は、クロノに任せるつもりやけど」


 メイの顔は確信を持って、『汚い戦力』でどうにかなると思っているようだった。

 突如として飛んできた流れ弾に、ここまで黙っていたクロノも怪訝そうな表情で、聞き慣れない単語について尋ねる。


「なんだ、それは?」


「一応、クロノも知っとるはずやけどな。ああでも、間接的にやね。直接は関わってないか」


 他言無用とでも言うように長い人指し指をピンと立てわざとらしく口元に当てて、不敵な笑みを持って領主は語り出す、『汚い戦力』について。

 それは、世間一般では汚い――と言われるであろうこと。人によっては、人道に反するとか罵るかもしれないこと。

 戦争にだって暗黙のルールくらいある。始める前に宣戦布告するとか、勝った場合の敵国領地の扱いとか、大陸の中でいつしか作られたそれら。

 を、完全に無視する作戦。してはいけないとは決められていないけれど、間違いなく掟破りの範疇に入るものだ。

 クロノは確かにそれを知っていた。メイの言うように、間接的に。

 聞いたクロノが真っ先に発した言葉は、返答次第では侮蔑の混ざる問い。


「お前らがやったのか?」


「いや、微塵も関係あらへんよ。たまたま見つけただけやって、空き家で。使えるなら使うってだけの話や」


 続いてアレクからは純粋な疑問が飛んでくる。


「出来るのか? それは」


「出来るから、勝算があるって踏んだわけやけど」


「そうかい。ただ、成功したとしても非難轟々だな。国の評判が地の底まで落ちてくぞ」


「大丈夫やって、ウチとの関連性を決定付けるものは何もない。神風が吹いたような自然現象だと思わせればええ。騒ぐようやったら、少し黙殺するだけの話や」


 最後の少しにどれほどの意味が込められているのかは、メイ以外には測り知れない。

 アレクは納得したように一度頷いてから、話題をがらりと変える。


「さて、ここまで誰も未だ参加するとは言っていないわけだが、そんな中でこんだけベラベラと作戦を喋るなんて迂闊だな。誰かが裏切って敵に情報渡すとは考えなかったのか?」


「愚問やね。もし、クロノが敵側につくならどちらにせよ詰み。リルちゃんはクロノのいる側につくに決まってる。そして君は――あの国につけない。だから別に話したところで、影響はない」


「……見透かされてるようで気持ち悪い」


 


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