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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
126/150

第百十話

クロノはロリコンのようです。

短め

次回はユウ君無双ぶっこんでスタト

 何とかといった体で、ビッグマウンテンにたどり着いたクロノは、中に入って真っ先に目についた人間に困った顔で声をかけられた。


「早くないかにゃぁ……。明日って言ったけど、まだ10時だよぅ?」


「おはようユイちゃん!」


「むぅ……おはよぅ」


 外見だけならユイは、リル以下なので、リルにはちゃん付けで呼ばれている。

 二人の少女のやりとりを見ていたクロノは、後でリルにユイの年齢でも教えようか、などと考えたが、ふいにユイの視線がおそろしさを増した気がして止めた。

 周囲を見渡すと、人の影どころか気配すらも感じられない。クロノだって、この宿屋が混んでいるという事実は聞いている。だが、これはどういうことか。

 宿屋に入ってすぐのユイのホームポジション――受付のカウンター奥の椅子に座りながら、ここの主はクロノの疑問を見透かしたように言う。


「……他の人なら結構出てったよぅ……。根性ないにゃぁ。てわけで、今はかなり空き部屋があるのです。泊まってくぅ? まあ、元々クリョニョンとリルちゃん用の部屋は、通常客とは別に用意してるんだけどねぇ」


「……有り難くない特別扱いだな」


 クロノはそう言葉を吐き捨ててから、顔を黒いフードで覆ったまま無愛想に続ける。


「……今日まで待ってやったんだから、早く詳しいこと教えろ」


「急いてはことをし損じるよぅ?」

 

「……下らん問答に付き合う気はない」


 ぴしゃりと会話を終わらせようとするクロノに、ユイは口をすぼめ不服そうに声を漏らす。


「むぅ……なんというぶっきらぼう……。どっちにしろ『試験会場』はここじゃないんだよぅ」


「『試験会場』?」


 聞き慣れない単語に素で訊き返した。

 してやったりと言わんばかりに、メイが微笑む。


「にゃはっ、良い顔が見れたよ。『試験会場』はユウ君の所。まっ、クリョニョンとリルちゃんは試験するまでもないけどさぁ」


 おちょくられているな、だからユイは苦手だ。

 と、そんな憂鬱を隠し、露骨に舌打ちをした後、ユイに背を向けて早速宿屋を出ようとした。訊きたいことは山ほどあるが、今はユウの所に行くのが先決だ。

 ―――が、どうにも右手に握ったリルの手が動かない。何やら不安そうに俯いている。

 眼を合わせて見ると、これまた不安そうな顔を覗かせて言った。


「私、勉強苦手だよ……?」


 数秒後、大笑いするユイを尻目に、リルの手を強引に引っ張って、酒場――センターフィールドへと向かった。




 建国からずっと存在しているなどという、眉唾な噂が残る酒場は、朝方ということもあって、寂々としていた。夜中の騒がしさはどこにもない。少なくとも――一階は。

 煤けた色の一階建ての木造建築。度々改修はしているので、おそらく当初の面影はないだろう。

 通常、この酒場は一階しか見えない。客が立ち入れるスペースは、更にその中の一部。一階の半分だけ。奥の厨房には入れない。

 だが――この街の住人には密やかに噂される。『教育』はどこで行なっているのか。実は、隠されたスペースがあるのではないかと。

 

 クロノは、『試験』という単語に怯えたリルを引き連れて、人のいないはずの酒場に来ていた。

 入り口にある両開きのドアを開くと、軋んだような音が誰もいないであろう暗い店内に響いて、言い知れぬ不気味さを覚えた。

 暗い室内に入り口から差し込んだ光は放射上に広がり、中にいるこの店の主を照らす。

 

「こんにちは、ぐらいですかね時間帯は。クロノさん」


 柔和な笑みを携えたユウは、大仰に頭を下げ、手でこちらに来てくださいと促す。

 促されるまま近づいていくと、今度は背を向けて店の奥へと入っていった。どうやら、ついてこいということらしい。

 夜中とは違うホールは、まるで違う空間のように思えた。

 ほとんど光のない店内を奥へ進み、厨房らしき場所へついたと思ったところで、ふいにガタンと重く低い音がした。音の発生源は足元から。

 足元からは光の穴が見えていて、平べったい石のようなもののシルエットが映った。穴を何かで塞いでいたらしい。

 

「ああ、踏み外さないように気をつけてください」


 言いながら、ユウが光の穴の中に入っていったので、二人も中に入った。

 下っていく石段の途中には、壁際にランプがついていた。これが光の正体のようだ。

 

「地下室か?」


「ええ、そうですね」


「ちょっと怖いかも……」


 不安そうなリルの手を軽く握り返すと、途端にリルの鼓動が早くなり顔を赤らめる。

 そうして数十秒下りたところで、質素な扉が見えてきた。

 先導していたユウが扉を開けると、まず階段に比べて眩しい光が飛び込んでくる。

 地下室の下は土の地面。広さは地下にしてはかなり広く、四方20mほどはありそうだ。高さは5mくらいか。天井が丸いことから、ドーム状になっていることが想像出来た。

 入ってきた扉とは反対側にも扉が二つほどある。内装は殺風景なもので、一人用の椅子が唯一つポツンと置かれているだけ。

 中には20人ほどの男女(というかほぼ男)がいた。空気はなんとも殺伐としていて、多くの人間が新たに入ってきた二人を舐るように見てくる。

 特に視線を浴びるのはリルだ。どう見ても、この場には似つかわしくない少女。

 多くの視線を感じたその時――クロノにはなぜか、微かにある感情が浮かんだ。

 それは――怒り。本当に微かなものだが、確実に腹の底が煮えるのを感じた。

 自分で不思議に思った。視線なんて今更の話だ。もう受けなれているはず。

 しかし、次に心中に浮かんだ言葉は、怒りの理由はそうではないと言う。


――汚い目でリルを見るな。


 自然にそんな言葉が出てきて、クロノは心中で首を更に傾げる。なんだろうか、これは。

 クロノが自分自身に混乱していると


「大丈夫クロノ?」

 

 という声が聞こえて、ようやくクロノは我に返った。

 

「大丈夫」


 何とかといった様子で答えを返し、平静を保つ。

 そんなクロノを無視して、ユウは笑顔のまま、二人から視線の注目を奪うかのように、集団の中心にある椅子の前へ。

 

「さて、そろそろ説明でも始めましょうか」


 ここでクロノは思い出す。そういえば、戦争の傭兵募集場所に来ていたのだと。

 もう頭は冷静だ。何となく、リルを覆うようにして前に立ち、ユウを見つめた。一斉に皆の注目がユウにひきつけられる。

 

「本日は第一次募集にお集まりいただきありがとうございます」


 ユウはいつもより恭しく頭を下げて説明を語り出――さない。それよりも先に質問を投げかける。


「説明を始める前に一つ、皆様に御聞きしたことがございます。この中で――『勇者』と戦いたい方は、挙手をお願いします」


 最初にどよめきが集団に広がった。

 どういう意図があるのかは分からないが、クロノはおそらく多くの人間がそれが目的であろうと踏んでいた。

 客観的に見て、この国に勝ち目はない。軍事力だけを見てもその差は歴然で、いくら傭兵を雇ったとしても勝ちの目はない。

 つまり――参加するメリットがない。むしろ、大国を敵に回すことによって死ぬ可能性は高まる。

 ではなぜ、ここにいる人間は参加しようと思ったか。

 おそらく彼らは有象無象の存在で、『勇者』を殺すことによって名を上げようとしているのだろう。または、単純に馬鹿か。

 そんな読みが正しいのか、おずおずと手が挙がり始めた。

 途中でクロノも手を挙げて、周囲を見渡すと、リル以外に手を挙げていない人間は一人しかいなかった。

 

「俺は興味ないんだが」


 短く切りそろえた茶髪をめんどくさそうに搔きながら、言い切った男。

 どこかで会ったなと、記憶を探ると、何週間か前、盗賊団壊滅を手伝った男だった。名前はアレクだったか。本日は、銀髪の女性――アンナは連れていない。

 ユウは周囲を見渡して、ほぼ全員の手が挙がったのを確認してから、笑顔のまま言う。


「手を挙げなかった方は、とりあえず見ていてください。挙げた方は今から少々『試験』を受けていただきます」


 『試験』の単語が聞こえた瞬間、集団に疑問符が浮かんだ。つまりどういうことなのか。

 

「『勇者』相手に、何人もいてもしょうがないんです。人が多ければ多いほど良いってわけじゃないんですよ。ある程度の実力に満たない方がいては、邪魔になりますので」


 確かにその通り。力のない人間が無駄によってたかっても、『勇者』には敵わない。むしろ邪魔になるだけ。

 今度は怒りが集団に見える。自分たちでは力が足りないと言われているようなものだ。

 クロノは、器用に感情表現を見せる集団を背後から見て、冷静にユウへと視線を移し、問いかける。


「で、『試験』内容は?」


「そんなに難しくありません。とっても簡単」


 ユウは笑顔を崩さず、自らの背後にある只一つの椅子に腰かけて、実に簡単な合格条件を告げた。


「私に一撃加えて下さい。そしたら合格です」


 

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