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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
123/150

第百七話

久々短め

考えてみたら少年がぼこられてる間、クロノはリルとイチャついてたわけで、勇者の方がよっぽど善人だね。

正直、クロノが一番何言ってるのか分からないキャラ。書いてて気持ち悪い。

一応百五は修正しておきましたけど、まだ微妙。もっと依存しろ。もっと壊れろ。

少年は、多分昨日辺りヘンリーに見つけられてそう。

 コンコン


 宿屋に泊まっていたアレクは、そんな音で目を覚ました。

 ダブルベッドのもう一つには、相方であるアンナが、昨日寝たときと微塵も変わらない位置で上品に寝ている。寝相が悪く、シーツが乱れているアレクとは大違いである。寝顔だけを見れば、おっとりとした印象はどこにもない。まるで綺麗な人形のようだ。

 窓から見える太陽の位置からして時間は7時、8時くらいだろう。

 

――いや、8時か。


 すぐさま不確かな時間を確定させる。彼が8時だと断定したのは、自らを起こしたノックの音からだ。昨日ユイに朝食の配膳を指定した時間が丁度8時だった。個人的な来客など二人にはあるわけもないので、ノックの音はそれ以外あり得ない。というより、それ以外だったら逆に困る。

 

「朝食か?」


「はーい。そうですよぅ」


 特徴的な幼い猫撫で声。この宿屋には、数えるのもめんどくさくなるほど従業員がいるが、朝食を持ってきたのは幼いユイらしい。

 ユイの声を確認してから、部屋の内側から鍵を開ける。

 

「昨日ぶりですねぇ。朝食どこ置いときます?」


「適当にそこら辺のテーブルにでも置いといてくれ」


「はーい」


 ユイは、アンナには負ける間の抜けた声を上げ、テキパキと鉄製のカートに乗った、ただ二つの食事をテーブルに置いていく。挙動の端々からは慎重さが見られ、音を立てないように配慮してくれているようだった。

 配膳を終えたユイは、部屋の扉の前で立ち止まり、アレクへと振り向く。


「昨夜はお楽しみでしたね。ではではー」


「はいはい、しつこいぞ」


 流石に二回目となるとツッコミも控えめになる。

 適当に受け流すと、ユイはつまらないといった表情で、部屋の扉を閉め、最後に頭を下げ出て行った。

 ユイが去ってすぐに、アレクはチラリとアンナを見る。相変わらず夢の中にいるようだ。

 それを確認してから、部屋の扉を開ける。当然、そこには部屋を出たばかりのユイがいた。その前にはキャスター付きの何も乗っていないカート。

 

「何かありましたぁ?」


「やっぱ、おかしいよなぁ……」


「? 何がです?」


「おかしいんだよ。こんなサービスがあるんなら、あんなに食堂は混まないだろ? 大体の人間が配膳を選ぶはずなんだ。それに、この部屋は別にフロアの奥ってわけじゃあない。なのに、カートには他の食事は乗ってない。つまり、俺ら以外にはこのサービスを使っている人間がいない。いや――本当はこんなサービスはないんだ。まさか、フロアの中で階段から近くも遠くもないこの部屋に最後に運ぶ意味はないだろ」


 アレクとアンナが泊まっている部屋は、二階にあり、南北に広がった廊下の真ん中に位置している。階段には近くも遠くもない。

 昨日、食堂は混んでいた。人が多すぎて暑さを感じるほどに。わざわざ、あんなところに行くくらいならば、運んで貰おうと思う人間は多いはずなのだ。

 アレクは更に、感じた違和感をぶつける。


「サービスだけじゃない。お前は俺の見た限り、一々他の宿泊客に声をかけていない。俺たちだけだ。ここに泊まる時だって、なんでこんなとこが空いてんだよ。偶然、それもたった一室だけ」


「ようするに、何が言いたいんですぅ?」


「――お前は何者だってことだよ。アンナの名前を知っていることを含めな」


 本当のところは、アレクにとって一番最後の事実が重要だった。アンナという名前を知っていることが。

 ユイは、小さく息をついたかと思うと、顔から幼さを消して、続けざまにもっと深い情報を喋った。


「だって、お客様はバードレール家の『銀人形シルバードール』様なんですから、VIP待遇は当たり前でしょう?」


 言葉を聞いた瞬間――アレクの心に静かな怒りの炎が滾った。眼が変わる。幼い少女を見る眼ではなく、敵意が剥き出しの眼。大きく見開いた眼に、赤い血管が奔る。


「……アイツをその名前で呼ぶな」


「安心してくださいよ。別に売るような真似はしませんから。そんなんでこの国が助かるんだったら、とっくに問答無用で貴方を殺して、彼女を送ってますって」


 言い換えれば、アレクなどいつでも殺せると言っているようなもの。その上、必要とあらばアンナを売り飛ばすことをもいとわないということ。

 

「なんで知っているかって? 私たちは、各国の要人くらいは把握してますよ。こんなご時勢ですし、重要な戦力になりそうな方もね。その両方を兼ね備えたアンナさんなんて、知らないと不味いでしょう?」


「……お前がこの国の関係者だってことは分かった。しかも、この国が戦争の算段をしてることもな」


「理解が早くて助かります」


「でもな、参加するしないは俺の決めることだ。勝算のない勝負は受けないんでね。それにだ、参加したとしても、アイツは前線に立たせない」


「殺したい相手もいるでしょう? 普段ではありえないチャンスですよ? 三姉弟の一人を殺せるチャンスなんて、中々あることじゃない」


「ガキの下らん挑発には乗んねえよ。そんなんで焚きつけられるのは馬鹿だけだ。ようするに、お前は戦力を集めてるわけだろ? お前は頼む側だ。人にものを頼む態度じゃねえな」


「こんないたいけで可愛くて可憐な少女に、貴方の靴でも舐めて誠意を見せろと?」


「生憎そんな趣味はない。言ったはずだ。勝算のない勝負は受けない。勝算はあるのか? 軍事のぐの字もないようなこの国に。それとだ、雇う側の誠意ってのは、行動でも態度でも言葉でもねえよ。俺みたいな屑は、相手がどんな下衆だろうが屑だろうが畜生だろうが、それが可能なことならば、貰えるものさえ貰えりゃやるんだ」


 アレクはここであえて、「俺」と言った。自分だけを屑だと表現した。彼自身、自分は屑であると自覚はある。そして、アンナが自分などとは比べ物にならない純粋さを持っているということも分かっている。その純粋さが、一般的に良いことかどうかはおいておいて。

 ユイはアレクの言葉を聞いて、顔に幼さを瞬時に戻し、踵を返す。


「そこら辺はまた後日ですぅ。後日募集が大題的にかかると思うので、その時にでも話しますよぅ」


 こちらを見ることすらせずに言ったユイの口調は最初の頃に戻っていた。

 そのまま、鉄製のカートを押してユイは階段へと歩き出した。

 

「あぁ、そうそう、推理は中々よかったですけど、穴も多かったですよぅ。配膳サービスはしっかりありますし、私だって普段は声をかけてます。最近は人が多くて、現在重要な方にしかかけてないだけです。配膳サービスも、限られた方にしか提供しないだけですぅ。そんな都合よくこのカート用意できません。それに、全員8時に指定するとは限らないでしょ?」


 色々と喋りながら歩いていくと、階段のところに辿りついたところで、一旦こちらを振り返り、不敵な――おおよそ少女とは思えない、微笑を浮かべた。


「最後に一つ。私はガキじゃないですよ、ボウヤ」


 最後にそんな不気味な微笑みを残して、ユイは階段を下りていった。

 残されたアレクは、暫く――アンナが彼を探そうと部屋を出てくるまで、じっと階段の先を見つめていた。



 天気、晴天。気象予報士によれば、空を覆う雲が一割以下ならば快晴らしいので、この三日は快晴にあたる。三日連続でここまでの快晴だと、次に来るであろう雨の日が一段と恨めしく思えそうだ。

 クロノはいつも――といってもここ来て三日ほど、同じ場所にいた。裏口の石段の上――滅多に人が通らない裏庭の前に立っていた。

 普段であれば、探検でもしている子供しか通らない場所。

 だが、どうやら今日は違うらしく、クロノは背中越しにいつもより大きな足音が近づいてくるのを感じていた。子供ではなさそうだ。

 扉が開く音が聞こえ、直後に飛んでくる野太い声。


「よう」


 声からすらも、どこかゴロツキではないかと疑わせる。これはある意味で彼の宿命なのか。

 クロノは振り返らず素っ気なく答える。


「……朝方頼まれた仕事なら、もう終えたが」


「早いのは結構なことだ。……って、別にそんな話をしに来たんじゃねえ」


 身体のありとあらゆるパーツが、初見の人間に悪人だと思わせる男――ユリウスは、ずかずかとクロノに近づき、クロノの横に座った。

 

「今日見た感じ、リルはある程度立ち直ったみたいだな。礼を言う」


 目の前に広がる統一性のない、緑生い茂る庭を見つめながらユリウスはそう言った。


「別に……お前に礼を言われることじゃない」


 一瞬、二人の間に沈黙が生まれる。間が持たない。二人は依然、視線を一切合わせず、目の前の緑を見つめ続けている。

 

「……昔な、孤児院なんて作る前、クロノってガキがいたんだよ」


「偶然にも、俺と同じ名前だな」


「そうだな。偶然だ。そのガキは、どっかの貴族の生まれで、才能がないから捨てられることになってたんだ」


「まあ、よくある話だな」


「俺は行く宛てのないそのガキにいいとこ紹介してやるって言った。正直、同情してたんだろうな。でも、当時の俺は先に行くとこがあった。そこにガキは連れてけない。だから、宿屋に預けて待ってろつったんだ」


「そうか」


「で、ガキを預けた街に戻ってみるとよ、そこにはいねえの。血眼になって探したね。探してる途中で、奴隷組織潰したりしてよ。それでも見つかんねえの。聞いたらさ、迷いの森に入ってたってよ。知ってるか? 迷いの森って」


「有名どころだな。少なくとも、人間が入る場所じゃあない。死亡確実だ」


「本当そうだ。あそこは人間が入っていい場所じゃない。俺は今でもあの時のことを後悔してる。どうして、用事なんて放り投げてガキと一緒にいなかったんだろうってな」


 長々と独白したユリウスだが、その間も互いの視線は緑の中だ。


「――で? そんな話を俺にしてどうする? 俺がそのクロノだとでも言う気か?」

   

「そんなことは言わない。お前は色々な場所回ってるんだろ? なら、クロノに会う確立も0じゃない。会ったら言っといてくれ」


「言う? 死人に何を言えと言うんだ?」


「俺はアイツが生きてると信じてる。勝手な話だけどな。どっかで生きてるんじゃねえかって信じてる。だから、もし会ったら言っといてくれ。あの時、一緒にいてやれなくてごめんな、って」


「知るか。自分で言え」


 吐き捨てるように言うと、クロノは座ったままのユリウスに背を向け、裏口の扉に手をかけた。

 が、そこでふと足を止める。


「お前がそんなに覚えてくれているってことは、多分ソイツは幸せなんじゃないのか。死人だろうが、なんだろうが、誰かが自分を知ってるっていうのは、幸せなもんだ。家族に見捨てられたソイツにとっては、特にな」


「そうかな」


「そうだろう。まあ、多分……だがな」


 結局、最後まで二人は視線を合わせることがないまま、クロノはどこかへと消えた。

 クロノが裏口の扉を開け、どこかへと去った後で、ユリウスは震える声で一人呟いた。


「んだよ………見ねえ内にでかくなりやがって………」





新規厨二ワード「銀人形」適当に思いついた。アレク君の相手は、多分ディルグになりそう。


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