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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第三部
116/150

第百一話

短め

クロノの姉の名前初登場


 フィファル大陸の中央に位置する大国――レオンハルト王国。

 大陸全土を見渡しても規模は最大。人口も資金も他の国とは比べ物にならない。軍事規模も三姉弟を筆頭に最高クラス。欠点としては海に面しておらず、別大陸との貿易がしづらいことくらいだろうか。

 歴史の中で、最大の危機といわれた二百年前の王都壊滅を乗り越えて復興した以降は、目立った危機もなく、名実共に大陸の盟主として君臨している。

 そして今回、大陸全土を巻き込んだ戦乱の中心でもある。

 

 この国の世論も上層部も戦争に傾いてはいるが、決して上層部は一枚岩というわけではない。大まかに分けて三つの種類に分類される。

 『勇者』の言う事を盲目的に信じきっている者。『勇者』への嫉妬から反発を強めている者。どちらにも属さない中立的立場の者。

 挙げた順番の通りに人は多い。

 当然、表向きにはこんな分類は存在せず、城の噂好きの兵士たちの間でだけ囁かれるゴシップのようなものだ。

 その中で最も少ない中立的立場と目されている女性が、最近心変わりしてきたのではないかと噂が立っていた。

 三姉弟長女――マリア・ユースティア。

 魔法の名家に生まれた彼女は全ての才能に溢れていて、実質三姉弟の中で最高の天才と呼ばれている。魔法だけの話ではない、卓越した政治手腕も彼女は持ち合わせていた。直情型の弟とも、無口な妹とも違うオールラウンダー。

 彼女が表舞台に立つようになってから、元々大きいユースティア家は更に権力の階段を一つ飛ばしで駆け上がっていき、有数の名家から、筆頭の名家にまで上りつめた。

 唯一の欠点としては、完璧な彼女に相手が萎縮して、結婚相手が見つからないことだろうか。

 そんな彼女は、国が戦争へと傾き始めた頃は、立場を明確にはせず、中立的立場をとっていた。

 『勇者』如何に関わらず、女性である彼女が軍のトップに立つことはなく、現在のポストも予定通りの立ち位置であって、弟のディルグと違って怨む要素がなかったというのがそういった噂の根拠となっていた。

 だが最近、彼女が戦争に反対しているという噂が流れ始めている。『勇者』への嫉妬からではなく、単純に戦争反対派。

 元になったのは、彼女の戦争での振舞い。どこかやる気がなく、億劫そうな姿。終いには『勇者』が見ていなければ勝手にどこかに消えてしまう。

 最初は怯えかと言われたが、嫌々そうに戦場に立つと、敵を一切寄せ付けない力を振るうので、その噂はたちまち立ち消えた。

 決め手となったのは、どこかから流れてきた噂。彼女は近しい人間にこう漏らしているらしい。

「戦争は外交の手段であって、実際に行なうものではない」

 不確定な噂は、まるで真実のように誇張され、瞬く間に城内の兵士に広まった。

 それがどこから流された噂かを確かめることもしないまま。

 


 マリア・ユースティアは、ギール王都事変後、いち早く自らの家に戻っていた。水属性である彼女は、水さえ流れていれば、それを辿って誰よりも早く移動できる。

 自らの家と言っても生家ではない。与えられた領地に建てた彼女だけの家だ。王都の貴族街にも個人の家はあるが、あまりそちらにはいかない。

 そちらに行くと、自分に媚を売ってくる人間が鬱陶しくてたまらないのだ。やれ、婚姻だんなだと急かされるのもあまり好きではない。別段彼女は結婚する気はなかった。しなくても、十分やっていけるからだ。どうせ当主になるのは自分の弟なのだし、自分の結婚はそこまで多大な影響を与えない。

 シンメトリーを意識した豪奢なレンガ造りの門を抜け、堂々と家の主は中へと入った。

 内部も外観も全て彼女の趣味で左右対称を意識されており、丁寧に整頓されている印象を受ける。家具自体が、家を飾り付けている。

 入ってきた主に対し、使用人の女性たちは皆一様に頭を下げ、真夜中だというのに欠員なく出迎えの意を示している。 

 その中の一人の女中に何事か囁くと、そのまま二階の書斎へと入っていった。

 書斎の中は当然誰もおらず、静寂だけが流れている。

 暗き静寂に包まれた書斎のランプをつけると、ふと、赤銅色の机の上に白い紙が置いてあることに気づいた。

 見てみると、外面は真っ白で封筒にも入っていない。宛名も差出人も書いていない。

 何かの手紙であろうが、それにしてもおかしい。彼女への手紙は使用人を介して伝わるもので、決してこんなダイレクトに置かれるものではない。

 先ほど、使用人に手紙はないかと訊いたところ、ないと答えたので、これは正規のルートを通った手紙ではない。おそらくここに忍び込んだ何者かが、ついさっき置いたもの。

 明らかに不審な手紙。

 頭の中で政敵の頭を思い浮かべるが、こんな手段は使わないだろう。

 しょうがないので、とりあえず中身を開いてみる。

 綺麗に折りたたまれた紙の中に書かれていたのは、過剰な修飾語と敬語の山。

 公式の文章とは得てして無駄に長いものだ。例えば、5行に渡る言葉が羅列されていたとして、内容だけを簡単に置き換えてみると案外1行で済んでしまう。

 効率より礼儀を重視した文章。この手紙もそのタイプらしい。つまり、そこそこ学のある人物か、国が書いたということ。

 クリスマスツリーの装飾を丁寧に剥がしていくように、無駄な言葉を省くと、やはり簡単な内容で事足りた。

 どうやらこれは告発文らしい。それは聞くものによっては、衝撃的な内容。


「ディック・レオンハルト王は、『勇者』に隷属の首輪をつけられ、奴隷として扱われている」


 事実だとすれば、それは許されない行為。一国の王を操っているという不敬極まりない行為。

 手紙の内容を把握した彼女は――それでも平然とした口調で、紙をびりびりに引き裂きながら呟いた。


「そんなこと、とっくに知っているのだけれど」

 

 

次回は賢者モードクロノ君をお送りします多分


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