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追放された少年  作者: 誰か
戦争編 第二部
114/150

~エピローグ~

大勢に影響はない話

エピロですらない。

次回からラスト第三部



『勇者の夢』



「……権力者の最期ってのは往々にして醜いもんだ。マフィアのボスだろうが、どこぞの中東の大佐だろうが、権力者の死の間際ってのほど醜いもんはねェ」


 足元に転がった首でリフティングしながら、誰もいない幕の中で『勇者』は感慨深げに語る。

 

「案外難しいなッ…と。その点、お前の最期は大分マシだった。誇っていいぞ。ちっと無謀だったけどな」


 今現在、リフティングの球となっている相手に言い聞かせるように言うも、足を止めることはない。

 外から足音が聞こえる。おそらく、中のちょっとした騒ぎを聞きつけた部下だろう。流石にこんな場面見られるわけにもいかない。

 つまらなそうにリフティングを中断し、慌てて椅子に腰をかける。


――それにしてもあのトカゲも大概だったなァ…。壁を一万ちょっと割るとか、正気じゃねェ。

 

 自分でも光の壁の頑丈さに自信があったが、まさかあそこまで割られるとは考えてもいなかった。自分の考え通り一枚割るのに対戦車ライフルが必要であれば、あの太陽もどきの威力は単純に考えてそれ一万発分ということだ。

 

――おお怖ェ。アイツみたいなのも人間とみなすと、人間全部殺すにはどんだけ殺せば足りるんだか…。


 感心したと同時に憂鬱な考えが頭を支配しかける。

 しかし、きっと明日になればクライスのこともドラのことも詳しくは思い出せないだろう。それ以前に思い出すということをしない。

 彼はあまり、終わったことに興味がないからだ。印象に残れば別だろうが、今回は別段印象に残るような殺し方をしたわけでも、相手でもなかった。快感も普通の人を殺した時とあまり変わらなかった。

 殺人が彼にとって食事だというのなら、そこには上手い不味いの区別もある。そしてドラとクライスは、無難な味だった。それだけの話だ。

 彼が印象に残っている殺害相手は生涯で三人だけ。彼ですら感心する執念を持った女性と、自分が殺した中で最も快感を得られた最初の二人。

 未だその三人を越える極上の食事にはありつけてはいない。

 彼の『夢』は抱いた時から永遠に変わってはいない。

 あちらの世界で人間を全部殺すことは不可能ではなかった。ただ、殺し方が彼にとって不満だった。核や、ウィルス――どうしても兵器に頼らざるおえない。自分の手に感触が残らない殺し方しか方法がなかった。感触が残らなければ実感も得られない。それでは意味がなかった。

 仮に手に感触が残る殺し方をしつづけたとして、あちらの世界の住人は70億人。頑張って5秒に一人殺すとして、一時間で720人。すると、全員殺すのにかかる時間は約972万時間。一年は8760時間。単純に計算して全員殺すのに1000年以上かかる。人間の寿命を考えると絶対的に不可能だ。

 彼はその事実に絶望し、殺すことを止めた。だがこの世界は違う。彼には超人的な肉体があり、5秒に一人だって夢じゃない。それ以上だって出来る。一箇所に奴隷として集めれば、1秒で十人だっていける。人口も、肥大しすぎたあちらの世界よりは明らかに少ない。

 今の彼は『夢』への挑戦で希望に満ち溢れていた。可能だと信じそれに向けて努力する。全ては――夢のために――。



『火事場泥棒とピエロ』


 王都壊滅後数日――廃墟と化した王都にその男はいた。格好はレオンハルト王国の兵士用の服を着ているのだが、どこか落ち着きがなく挙動不審。

 瓦礫の中を、キョロキョロと周囲を見渡しながら何かに怯えるようにひっそりと進む。

 崩れて瓦礫に塗れた商店の跡を掘り返し、金目のものがあれば大胆にも手持ちの手さげ袋の中に入れる。

 そう、彼は正規の兵士などではなく、俗に言う――火事場泥棒だった。

 着ている服は泥棒らしくくすねた。この服を着ていれば瓦礫撤去などと言えば、大体のことは誤魔化せる。

 しかし本職ではない。普段は行商をやっているしがない商人だ。たまたま、滅亡の噂を聞きつけたのと、自分の収入が芳しくない時期が重なった。所謂モグリ。

 真面目に瓦礫の撤去をしているであろう兵士の横をビクビクしながら通り過ぎ、どこかいい場所はないかと探してみる。

 聞くところによると、領民は迅速に避難したらしいので、金目のものはしっかりと持ち出されており通常時と比べて見つかりづらい。

 ここで彼が本職であれば、研ぎ澄まされた勘により莫大な収入になったのであろうが、残念なことに彼はモグリだった。ここまで得たのは、子供の小遣い程度のはした金だけだ。

 だが彼にも宛てはあった。自分の店を持っている商人仲間から聞いた話だが、店によってはいざという時のために、秘密裏に店の中に地下金庫を作っているらしい。それは当然他人には見つかりづらい場所にあるのだろうし、一般の人間は知らない。

 つまり、そこさえ見つければ、どこかの商店の隠し金庫にたどり着けるはずだ。

 そういった邪な考えを胸に抱いて、彼は商店の跡を中心に瓦礫の中を探し回っていた。

 ただ、残念なことに彼は忘れていた。金庫なのだから、簡単に開けられるわけはないということ。それと、既に避難するときに持ち出されているという可能性を。

 そこまで考えつかない辺りが、商人として損をしてしまう彼の残念なおつむの弱さかもしれない。

 彼はひたすらに瓦礫を掻き分け探ってはみるものの、中々地下への入り口は見つかりはしない。その姿は奇しくも、傍から見れば真面目に瓦礫を撤去している兵士の姿そのものであった。


 そうして陽が傾きかけ、10軒ほど回り諦めかけたところで、ようやく地面の下に扉を見つけることが出来た。地図からして、この街でも有数の規模を誇る商店だった場所。

 高鳴る鼓動を抑え、周囲に人がいないことを確認してから、慎重に両開きの扉を開いて中へと入った。

 中は暗くじめっとした空気が漂っているように感じる。

 薄暗く細い階段を慎重に下りていくと、見えてくる黒い大きな扉。入り口と同じ両開きのタイプ。

 問題は――鍵穴が見えること。扉には明らかに鍵穴がついていて、当然ないと入れないだろうことが容易に想像出来た。

 かといってここまで来て引き下がる理由はない。行商で背負った借金の返済は待ってくれないのだ。

 駄目元でとりあえず、重そうな扉をゆっくりと引いてみる。

 すると――微かだが動いた。


――もしかしたら鍵かかってない?


 見えた一筋の希望に、藁にもすがる思いでかけてみる。

 慎重に扉を引く。扉は軋むような音を響かせながらも開き始め、中からは光が漏れ出していた。

 少し開けたところで一度大きく息を吐き、わずかに開いた隙間から中を覗き込む。

 中では――人が、宙を舞っていた。それも一人ではない。何人かの顔が円を描くように上がっては下がり、上がっては下がりを繰り返していた。

 先客がいたかと男は落胆しかけたが――

 よくみると、それが異常な光景であることに気づいた。

 宙を舞っているのは顔だ。顔だけだ。顔から下など、端から存在していなかった。

 生首。

 あまりにも恐ろしい二文字が頭を占める。

 顔には生気が宿っておらず、虚ろな眼が開きっぱなしという、最早生首にしか思えない条件が揃っていた。

 声を出すことすら憚られた男の視界が、突如として一つの顔で覆われた。扉の向こうから逆に覗き込まれている。

 

「…ヒッ……」


 情けない声しか出すことが出来ない男。

 扉が開かれる。その先にいたのは――顔面を白いクリームで塗りたくったような赤鼻の怪人。

 手は、いくつもの生首をキャッチしては放り投げるという、何かの儀式かと思わせるような狂気的な行動を行い続けている。

 男は腰を抜かし、扉の前にへたりと座り込む。

 白化粧の怪人の表情は笑っているようにみえるのだが、それすらも男には恐ろしく思えた。


「君は……ああ、火事場泥棒か」


 何も言っていないはずなのに、ピタリと当てられる。

 未知の存在。

 目の前の人間はきっと人間ではないとさえ思う。人間の皮を被った何かだ。

 

「酷いな…これでも人間なんだけど」


 思ったことをずばずばと当てていく怪人。

 それが男の恐怖を更に加速させる。

 

「ジャグリングの練習をしてただけなんだけどなぁ……。ほら、首ってジャグリングの練習には丁度よく歪でしょ? まあ、見つかったならもういいや。十分やったし」


 あの行為が何の練習だというのか。 

 男はその考えを口に出せず、黙るだけだ。

 そんな男に怪人はまるでボールでも投げるように、一つの生首を放り投げた。慌ててそれをキャッチする男。


「その首さ、ナナシって子に渡しといて。ああ、誤解がないように言っとくけど、殺したのは僕じゃないからね? ちょっと首を拝借しただけだよ? じゃあ、またいつか」


 顔を精一杯歪ませた笑顔を残して怪人は、始めからそこに存在しなかったかのように姿を消した。

 後に残された男は、いきなり渡された30前後であろう男の首を抱えたまま、ようやく意味のない言葉を呟いた。


「……俺にどうしろと……?」


 この後、男は先の部屋で莫大な金を発見し、これが幸運の首だと信じて、言われたとおりナナシを探すことになるのだが、それはまた別の話。


次回クロノ出てこないかも

最期に訊きたい、ファンタジーってなんだっけ?

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