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追放された少年  作者: 誰か
幼年期
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第九話

朱美さんの頭の中は割とお花畑です

クロノを拾ったのも実は可愛かったからというだけだったり

「あっ、あの、大丈夫でしゅ」


 突然話しかけられたので噛んでしまった。

 僕は恥ずかしさを抑えながらも状況を整理していた。

 ピクリとも動かなくなった黒いオオカミ。先ほどまで僕を襲いに来ていた。

 そして、それを切ったと思われる目の前に立つ女性みると、見た事のない黒髪黒眼で手には細く奇妙な形をした剣? を握っている。

 髪は長く束ねているようだ。歳は二十代前半くらいだと思う。

 あんな剣みたいなものであのオオカミを斬ったのだろうか?

 斬ったのだとしたら相当の使い手だろう。あんな細い剣で斬るなんて、僕もこんな風に強くなりたいと思った。

 そんな僕をしり目に女性はこちらに顔を向けようとしない。なにやら木に顔を向け、手で木を叩きながら何かを言っている。


「・・でしゅって、可愛すぎだろ・・・・・・」


 小声過ぎてよく聞き取れなかった。

 目線を女性に向けていると、こちらに気づいたのか顔を向けてきた。


「そ、そう大丈夫ならよかったけど」


 お腹に手をあてながら何かをこらえるようにそう答えてきた。お腹が痛いのだろうか?

 不思議に思いながらも、お礼を告げる。


「助けていただいてありがとうございます。お強いんですね」


「まあねーあんなのに負けないし 今回は魔物が騒がしかったからさー、気になって来てみたらこんな場面に遭遇しただけよ。それはそうと、キミはなんでこんなところに居たの? 遊びで来るようなところじゃないわよ」


 手を離した所を見ると、どうやらお腹が痛いのは治まったようだ。良かった良かった。

 僕は自分が奴隷商人に攫われたことを話した。追手から逃げるためにここまできたことを。


「ふーん、じゃーあそこにある死体はその下衆なやつの死体ってわけだ。

よかったーそんな下衆なら死んでも心が痛まないわ。キミの親とかだったら、もうちょっと早くくればよかったーって罪悪感に苛まれただろうけど」


 そういって笑いながら女性は頭部が無くなった男の死体を見た。僕もそれに合わせて死体へと眼を向ける。

 不意に吐き気がした。

 先ほどは混乱していたため大丈夫だったが、落ち着いてみると凄惨な死体だ。頭部はごっそりと抜け落ち、そこから首の骨が露出している。見るだけで吐き気がしてくる。

 そんな僕の状態を察したのだろうか、女性は違う問いを投げかけてきた。


「まあキミはこんな場所に長く居るべきじゃないわ、森を出るまではついてってあげるから早く親の元へ帰りなさい。両親も心配しているでしょう?」


「いえ僕に両親はいません、捨てられたんです」


 ふと、こんな言葉が出てしまった。

 女性は不味い事を言ったと思ったのか、うつむいてしまう。先ほどあのオオカミを斬った人とは思えないような仕草だった。


「お気になさらないでください、僕が悪いんですし」


「キミが悪いってどういうこと? なにか悪い事でもしたの?」


女性はうつむいた顔をあげ僕に聞いてくる。


「僕が魔力を持ってなかったから、いけないんです。他の兄妹はみんな持ってたのに 僕が落ちこぼれだから」


一瞬嘘をつこうかと考えたが、不思議と本当のことを喋っていた。

 同時に僕は蔑まれることを覚悟していた。今までこの話をした途端皆僕のことを蔑んだからだ。今まで仲良く遊んでくれた友達も家族も。まるで別人のように。唯一冒険者のユリウスさんとマルスさんは違ったがあれは依頼だからだろう。

 しかし、女性の返答は全く違うものだった。


「はあー? そんなことでこんな可愛い子を捨てるなんて最低な親だね。その親は今すぐ死んだ方がいいよ間違いなく」


 この話をした後も女性の態度は変わらなかった。

 それどころか、僕を捨てた親を貶し始めた。

 僕はなぜだか涙が出てきた。自分の存在を初めて認められたような気がして。


「どっ、どうしたの? やっぱり怖かった?」


 女性は慌てていた。斬った人物と同じには見えない。

 僕は思った。

 この人のようになりたいと。

 この人みたく強くなりたいと。


「どうやったら、あなたみたく強くなれますか?」


 いつものように考えて出した言葉ではない。

 自然とそんな言葉が口から出ていた。

 女性は何事か考えたあと僕に問いかけてきた。


「キミは強くなりたいの?」


「はい!!」


 まただまた反射的に言葉が出てしまう。

 だが、同時に疑問はあった。剣士にしろ格闘家にしろ多少なりとも魔力を使う。魔力の無い僕がつよくなれるのだろうかと。

 そんな僕を見透かしたかのように女性は言った。


「別に魔力がないからって強くなれないわけじゃないわ。なくたって強くなれる。さっきのブラックレイ・ウルフくらいなら倒せるくらいには」


 ブラックレイ・ウルフとはあの黒いオオカミの事だろう。

 僕はその言葉に希望を持った。彼女が嘘をついてるようにも思えなかったのだ。


「それに、キミに魔力がないっていうのも怪しいしねー。あなたはきっと魔術師の素質もあるわよ」


「ど、どうしてそう思うんですか?」


「女の勘よ」


 ビシッと言われてしまった。

 その言葉に少し落胆したが、僕の気持ちは変わらなかった。


「よしっ、そこまで強くなりたいなら私が鍛えてあげるわ」


「本当ですか?!」


 嬉しさのあまり声が裏返ってしまった。


「ええ、この年になって初めての弟子を持つなんてねー。そういえば名前を言ってなかったわね。景浦じゃなかった・・・朱美景浦よ」


「クロノです」


「あーそういえば、くそ親に捨てられたんだったわね」


 そういうと、アケミさんは考え込んでしまった。

 何やら呟いている。


「・・師匠とお母さんどっちに・・・」


やがて、なにかをおもいついたように顔をあげこちらを見てきた。


「わかった、これからあなたはクロノ・景浦よ。そして私のことはこれからお母さんと呼ぶように。私たちはこれから親子よ。」


「お、おかあさん?」


 これからお母さん? つまりアケミさんが母上になるということだ。

 なぜだか嬉しくなった。もう一人じゃないのだと。

 アケミさんの方をみると


「お母さん、お母さん、私がふふふふ・・・・」


 などと呟いていて一抹の不安を覚えたが。












 この日クロノとしての人生は終わった。

 これからはクロノ・カゲウラとして新たな人生が始まる。

 








幼年期はこれで終了です

次回からは少年期が始まるかも

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