プロローグ
よろしくお願いします。
この世界の人類には、五つの種族がある。
竜人族、馬人族、鳥人族、狼人族、魚人族。
各種族にはそれぞれ信奉する神がいる。
鋼のごとき銀の竜鱗にて万物を防ぐ皇竜ドラゴン。
純白の角にて一族を癒す聖馬ユニコーン。
紅焔にて敵を焼き尽くす霊鳥フェニックス。
黄金の雷を纏いて災厄を打ち払う天狼フェンリル。
津波を引き起こしてあらゆる危険を呑み込む帝魚リヴァイアサン。
五つの種族は、それぞれの神獣を模した半獣化という特殊能力がある。普段は人間の姿だが、信奉する神の一部が自らの身体に顕現する。半獣化すれば神の力を行使できるのだが、誰でもできるわけではない。
各種族ともに、半獣化できる人材は一割にも満たなかった。
五種族は各々の国を興し、繁栄していた。
竜人族は盆地、馬人族は草原、鳥人族は高山、狼人族は森林、魚人族は群島。世界各地へ散っていた。
それぞれ独自の文化を築き、他国との交流はあまりなかった。
しかし、関わらざるを得ない事態が発生した。
天空に浮かぶ城のような外観の物体が動き出したのだ。
それは真下から仰ぎ見れば、超巨大な岩のよう。しかし、山脈の山頂から眺めば岩は下部だけで上部は城壁で覆われていることが分かる。
いずれの視点も遠目で確認するしかない。半獣化した鳥人族の翼をもってしても、そこへ到達することは叶わない。それほどの高度であった。
それは遥か昔からそこにあるが、不動の存在だった。
いつからか超古代遺跡、天空都市と呼称されるようになった。
どうやって浮かび続けられるのか不明。中がどうなっているのかも不明。全てが謎だった。
今まではそれでも問題なかった。実害がなかったから。
しかし、それは突如として動きを見せる。それも生命の危機を感じさせるほどの脅威をまき散らしながら。
都市自体が何らかの攻撃を開始したわけではない。ただ、都市の最下部である岩石の部分から地上へ向けて、一条の光が放たれた。
その光は地上へ到達すると門へ変化する。
光輝く門から、大量の魔獣が押し寄せてきたのだ。
その異常事態にいずれの種族も一斉に腰を上げた。魔獣は見境なく襲ってくるため、対応に追われたのだ。
各種族から戦士団が次々に送り出され、魔獣の討伐が開始された。
幸い、魔獣同士で連携することはなく、各個撃破していくことが可能だった。
やがて、激闘の末に地上の魔獣は駆逐された。
しかし、門は魔獣がこの地へ侵入してから駆逐されるまで、一度たりとも消失することはなかった。
勇敢な挑戦者が門の中に入ると、天空都市に転送された。挑戦者はすぐに戻ってきた。
門に入れば天空都市に転送され、天空都市の門に入れば地上へ転送されることが明らかとなる。
それから、慎重に調査を重ねていく。天空都市には魔獣が残存していたため、駆除に乗り出しながら徐々に活動範囲を広げていった。
そして、天空都市の大半を制圧した頃、新たな事実が判明する。
この世界は地上だけではなかった。天空都市を起点とする天界が発見された。
天空都市には、地上以外へ繋がる門が複数見つかったのだ。試しに入ってみると壮大な大地へ降り立った。
地上からだと雲に隠れて見えないが、天空都市まで高度を上げれば、それが仰ぎ見れる。この都市のさらに上空に大陸があったのだ。
地上は新天地の発見に沸いた。新天地を冒険するという心躍る未来が待ち受ける。
それから数か月が経った。
天界を調査するための組織、五芒星が設立された。五つの種族が対等に連合するという意味で名付けられた。
数多の星覇者を擁している。
星覇者とは天界を調査するための五芒星の構成員である。
その仕事は天界を調査し、魔獣と遭遇した場合は速やかに倒す。個人でやるも、複数人でやるのも自由だ。
新天地を夢見て、数多くの志願者が名乗りを上げた。予想を遥かに超えた志願者の数に、五芒星の幹部も驚きを隠せなかったとか。
すでに数多の星覇者が四方に散らばっていることだろう。
天空都市へ至る門の周辺は、居住区だった。住民は一人としていなかったが。
居住区から魔物を一掃し、天空都市そのものを拠点化した現在――
とある竜人族の青年がその居住区へ足を踏み入れた。星覇者となるために。一匹の猫を連れて。