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いずれは最強コンビ  作者: HAL
第一章 美女に絡まれた
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第十二話

 なぜか俺の部屋で二人だけの宴会が始まることになった。どうして、そんなことになったのか分からない。なんかノリでそうなった気がする。

 相当酔ってることを自覚していたけど、せっかくパートナーになったんだから祝おうって言われたら断れないしな。

 酒をとってくると、フェリシアは一旦部屋に戻ったのに、なかなかこっちへ来ない。

「あれ?これは一晩中焦らす作戦か?」

 不覚にも寂しくなって独り言が漏れた。酔いが覚めてきて、少し冷静になってきた。

 故意だったら、焦らし作戦だよな。やりそうだから、怖い。

 故意じゃなかったら、泥酔しているか。ありうるな。でもなぁ。そうだったとすると、どうにもなんないな。女性の部屋に踏み込むなんてできないし。

 いくら向こうが勝手に入ってきたことがあっても、こっちが逆のことをしていいって理屈にはならないだろうし。

 フィンは机の上で丸くなってる。部屋に入った時は顔を上げたけど、またすぐ寝入ってた。

 結局、フェリシアは来ないのかなぁと思っていたら、ノックの音が鳴る。

「はーい」

 来た!

 これで開けてみると、別人だったりして?

 うれしいことにそんな事態は発生せず、ドアを開けるとフェリシアが立っていた。酒とグラスを携えて。

「お待たせ」

「はいはい。いらっしゃー」

 言葉を最後まで言えなかった。

 フェリシアの服装がさっきまでと違っていた。

 薄着だし!なんか谷間見えるし!思いっきり自己主張してるし!生足だし!真っ白な美脚だし!

 つまり、エロい。この一言に尽きる。

「どうしたのよ?」

 俺の反応を面白がってる。

「いやぁ、いつも会ってる美人を、違う角度から見たらやっぱり美人でした」

 酒の力を借りて素直に感想を述べ、彼女をリビングに案内する。

 フェリシアの顔が少し赤い。まぁ、間違いなく酒のせいだけど。

 お互いのグラスを満たす。

「本日、二度目の乾杯ね!」

「カンパ~イ!」

 軽くグラスを鳴らし、口に含む。

「おー、うまいし」

「でしょ?」

 俺の率直な感想に、上機嫌になるフェリシア。

 魔獣と戦ってる時とは比べようもないほど無防備な姿をさらけ出していて、目のやり場に困っちゃうって。

 でも、チラチラ見るとやましい感じになりそうだ。ガン見しよう!

「何よ?」

 フェリシアが気づかないはずがない。面白そうに手で胸を隠す。

「あぁ……」

 分かりやすいくらいに俺の口から残念そうな声が漏れただろう。

「何よ?見たいの?」

「それはもう」

 我ながら、こんなに正直になったのはいつ以来だろう?なんて真面目だか不真面目だか分かんないことを考えたり。

 それにしても、フェリシアの顔をぼんやりと眺める。

 フェリシアがよく笑顔になるようになった。

 初めて会ったときは険悪。底冷えするような冷笑なら何度も見たけど。

 それからも仏頂面というか不機嫌ばかり。

 不思議なもんだ。

 自分の何を気に入ってくれたのか分からないけど、しばらく付き合ってみるか。

「これから、よろしくね?」

「こちらこそ。よろしくです」

 またグラスを打ち鳴らし、ひたすら飲み続けた。

 それからいつ記憶をなくしたのかさっぱりだ。

 翌朝。というか翌昼。

 目覚めは最悪だった。

 何だかんだで深夜まで飲んでた気がする。頭がガンガンする。完全に二日酔いだよ……

 フェリシアが隣で寝ている。たまに呻き声が漏れ出ているから、彼女も似た状態だな。きっと。

 俺がベッドから起きてすぐに、女将が部屋に入ってきた。

「あのフェリシアが男の部屋で寝るなんて、長生きはするもんだねぇ」

「はぁ」

 女将がにんまりと笑う。

「ま、残念ながら色っぽい展開にはならなかったみたいだがね」

「どーも、すいませんね」

 二日酔いの辛さもあって、つい声に棘が出てしまう。

「レヴィ、あんたに真面目な忠告をするが」

「……何ですか?」

 言葉通り、女将が真面目な顔になる。

「あんたの当面の宿泊代はフェリシアが払ってくれた。弟子として養っていくためにってね」

 は?

 この人は何ておっしゃいました?今。

「すみません。二日酔いのせいであまり聞き取れなかったんですが……」

「そんな無茶できるのも若いうちだよ。あんたとその猫ちゃんの宿泊費はフェリシアからもらってるって言ったのよ」

 聞き違いじゃないらしい。

 この都市の宿は無料じゃなかったっけ?

 なのに、女将は宿泊代をもらってるなんてのたまう。

 どういうことだ?

 俺は必死に思考を巡らせる。今だけは二日酔いも頭から締め出して。

 とある仮説を立ててみた。

「ああ、そいや、ここは五芒星が提供している宿泊施設とは別でしたね?」

「ええ。五芒星の無料施設だったら、基本的に相部屋だからね。だから、あんたはついてるんだよ」

 残念でならないけども、予想通りの返答に俺は内心で膝をついた。

 迂闊だった……

 隣で寝ている女が気づかないように仕向けたんだろうけど。

「そうだったんですか。相部屋は知らなかったんで、確かにその通りですね」

 相部屋以外も知らなかったけどさ。空室って時点で疑問に思うべきだったんだな……

 今になって激しく後悔する。

 おかしいとは思ったさ!

 無料でこんないい部屋に滞在できるなんて話がうますぎるし。

「でもね、いくら師匠が出してくれるからって、甘えちゃいけないよ。ダメ男になるから」

 支払い済みなんて聞いてない。

 やられた!既成事実を作られてしまった。もう数日経ってるから、挽回しようもない。

 あー……俺のバカ。フェリシアのことをただの暴力女だと甘く見ていたってわけだ。全然違った。この女は策士だ。魔女だ。女狐だ。

 強くて、しかも狡猾って最悪の組み合わせじゃん!?

 後悔しても後の祭りだけどで、それでも悔やまれる。

 女将の背後で、フェリシアが悟られないようこっちへ向いている。極上の笑顔付きで。

 思わず呻こうとしたが、頭が痛んで中断した。ドッと疲れが出てきたので、締め出してた頭痛が舞い戻ってきていた。二日酔いに抵抗する気力もないし。

「まさか、ヒモじゃないわよね~?」

 女将が真意を見抜こうと目を細めている。顔は笑ってるけど目が笑ってない。俺に意識を向けているから、狸寝入りしているフェリシアに気づかない。

 多分、フェリシアを気遣ってるんだろう。変な男に引っかかったんじゃないかと。

 だから、彼女が寝ている今、本人に直接問いただそうと思ったんだろうな。それなりに付き合いが長いっぽいから心配だとかじゃないかね。

 本当は気遣う必要がない女だけどな。

 さて、どうするか?

 弟子であることを否定すれば、ヒモ確定。それは男としてプライドが許さない。周りに言いふらされたりしたら、心が折れる。生きていけない。

 そもそも否定したところで、混乱した頭でうまい答えが出るわけもない。

 答えは一つしかなかった。

 乾いた笑みを浮かべながら、

「違いますよ。俺はフェリシアさんの弟子ですから」

 言ってしまった。

 詰んだな。俺の未来、確定。

 嘆息した。回らない頭で、今のため息がヒモに間違われたからになればいいなぁと思う。

 さりげなく相棒から弟子に格下げされてるけど、金を出してもらっている以上、俺の口から「相棒です」なんて言えない。

 フェリシアの狡猾な罠に嵌められたわけか。

 女将は俺の返答に満足してくれたようだ。

「あんたも一人前に見える年頃なんだから、ちゃんとしなさいよ」

「はい……必ず恩返しします」

「ならいいさ。これからもがんばりなさいよ」

 疑惑が氷解したのだろう。一転して笑顔を見せる。女将は退室しようとするが、何かを思い出したように振り返る。

「そういえば合鍵なんだけど」

 女将がフェリシアに俺の部屋の合鍵を渡した理由を瞬時に悟る。謎が解けた。

「あー、そういえば、師匠に渡しておいてくれたんですよね?」

「ええ。お金や鍵の管理はフェリシアがやるんでしょ?」

「その通りです。はい」

 もちろんそんなわけないが、そう言わざるを得ない。

 納得だ。そりゃ金を払ってる方に合鍵も渡すでしょうよ。はぁ。もっと深く考えればよかった……

 女将が今度こそ退室した。

 すぐに、フェリシアがわざとらしく起き上がる。

「ん~おはよう。我が弟子」

「白々しー。狸寝入りしてたでしょ?お師匠様」

 フェリシアは笑おうとしたが、二日酔いのせいで顔をゆがめる。そのままベッドに突っ伏した。

 俺もこれ以上文句を言う余裕もない。

 床で寝転んで、これからのことを考えた。

 弟子発言したことによって、俺の退路は断たれた。弟子をやめるなら、少なくともここを出てかなきゃならないし。

 ヤバいことにならないよな?

 今後の展望に不安しか見出せない俺だった。

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