第七話
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ありがとうございますm(._.)m
翌朝。
眠気をこらえて部屋から出ると、フェリシアも出てきた。図ったかのように。
「おはようございます。フェリシアさん」
「あら?奇遇ね。おはよう、レヴィ」
ちょっとわざとらしいような?
ホントに奇遇かどうか怪しいと感じたが、眠いからスルーした。
「これから朝食ですか?」
俺が歩き出すと、彼女もついてきた。
「ええ。そうよ。あんたは初めてだから、案内してあげるわよ」
フェリシアが親切になってる。昨日と同一人物に見えなくなってくる。
「あー、ありがとうございます。フェリシアさん」
朝食を食ったら、もう一眠りするか。昨日の激闘のせいで全身筋肉痛だし、今日はお休みにしよう。
あくびを噛み殺す。
「フェリさんでいいわよ」
「はぁ、そうですか。フェリシアさん」
眠いからよく聞いてなかった。
ぼんやりと頭の中で吟味するが、まぁ返事は変わらなかったな。
正直、あんまり深く関わりたくないってのが本音だ。美人だけども、美人と関わる代償が命、もしくは寿命数年分とか遠慮したい。
なにせ巨神兵とか……俺は自殺願望者ではないし。
仰々しい名前だが、決して大げさじゃない。以前、大勢の星覇者が数に物を言わせて巨神兵を撃破しようとしたが、ろくに損傷を与えることもできずに返り討ちにされたらしい。
その名に恥じぬ巨躯から繰り出された一撃は、地震と錯覚するほどの衝撃をもたらしたという。
僥倖というべきか、死者は出なかったらしい。幻獣ということで、管理者がきっちり制御してるんだろう。
ただ、その時の圧倒的なまでの戦闘力をまざまざと見せつけられて、何人かの星覇者はトラウマになって引退したとか。
セシルから絶対に挑んではダメと口を酸っぱくして注意された。あれは、かなり真剣な目つきだったよなぁ。
まったく。そんな大敵に挑むなんて、頭おかしいんじゃないか?
……いや、おかしいんだよな。だって、バトルジャンキーなんだから。
漫然とそんなことを考えていると、冷気が漂ってきた。その原因を作ってるのは言うまでもなくフェリシアだ。昨日と同じのバトルジャンキーは底冷えする声音で、
「喧嘩売ってると受け取っていいのよね?一度、死んでみる?」
「フェリさん、今後ともよろしくお願いしますッ!」
元気よく返事した。眠気が完璧に消えた。勢いよく敬礼したせいで、身体中が悲鳴を上げたが、気合で無視。
「うん。よろしい」
フェリシアが満足げに頷いてまた歩き出した。
そんな彼女の後ろについていきながら、ホッと安堵する俺。
殺気が目覚まし療法に最適だなんて。そんなことに気づく日が来るとは思ってもみなかったよ。俺は。
はぁ。建物の中ってことで、完全に油断してたな。彼女に対しては、細心の注意を払わなきゃ下手すりゃ灰にされちまうんだった。
あー、危なかった……
何とか乗り切った。何ていうか、生きてるって素晴らしい。
とりあえず、朝食をご一緒することになった。
直前に殺気を醸し出された手前、断るなんて不可能だった。だって怖いし。
ってなわけで、食堂に直行。
食事はビュッフェ形式で好きな物をとってくる。皿をいくつも用意して、ようやくテーブルの前に座る。
フェリシアはすでに着席していた。
「朝からよくそんなに食べられるわね」
「生きるために食えるうちに食う。それが我が家の鉄則なんで」
が、フェリシアも小食というわけではない。俺よりは少ないが、成人女性分くらいにはなっていると思う。
「いただきます」
「いただきます」
食べる前に両手を合わせるのはマナーだ。
それぞれの種族は合掌し、信奉神に感謝の祈りを捧げる。
俺は銀皇竜に。フェリシアはおそらく紅霊鳥に。
飯を食べてると、フェリシアが話しかけてきた。
「あんた、何でここへ来ようと思ったの?」
あぁ。きっと閉鎖的な種族だから、不思議なんだろうなぁ。
「うーん。外の世界が見たかったから」
「へぇー。望んで来たのね?誰かに強制されたとかじゃなくて」
肯定を示す。竜人族の中でも変わってるっていうことは自覚している。
俺の方からも折角の機会なので尋ねてみた。
「フェリさんは何で?」
彼女は悪戯っぽく微笑む。
「何?私のことが知りたくてたまらないの?」
「あぁ。興味はあるけど、交換条件とかあるなら別にいいかなと」
「ないわよ!ただ、家族とうまくいかなくてね。結婚させられそうだったから、家出したのよ」
……何ですと?
「結婚したくなかった?」
「当たり前じゃない。親の都合だけで決められた結婚だし。弱いし。そのくせ、態度はでかいし」
親の都合で決められる結婚か。ひょっとして良家の出身だったりするのかな?
ただヒートアップしそうだったので、慌てて話題転換を試みた。
「うわぁ、それは確かに。ただ、家出して、ここに来るって発想がすごいですね」
「別に大したことじゃないわ。家で退屈しているよりはよっぽど楽しいし」
言葉通り、今の彼女は生き生きとしている。
昨日は荒々しかったが。もちろん、口には出さない。返事が暴力の可能性があるし。
俺は昨日の教訓を活かさなければならない!
「じゃ、ご家族やそのお相手がフェリさんを探してたり?」
「するでしょうね。というか、婚約者を気取っている雑魚ならもういるわ。ここに」
大丈夫かなとあえて話題を戻してみたら、普通に返事が返ってきた。さすがにその内容は予想外だったけど。
「五芒星職員として?それとも、星覇者として?」
「後者よ。しかも、護衛付き」
うわぁ。俺が言うのもなんだけど、情けなくないか?フェリシアが単独で活動してるのに。まぁ個人の自由だけど。
「まぁ、それほどフェリシアさんと結婚したいってことなんでしょうね……」
「いい迷惑よ。それ以外の何物でもないわ」
無難な答えを返したつもりだったが、フェリシアには一蹴された。
「あんたの家族はどうなの?」
「俺ですか……」
少しだけ口調が重くなる。
「俺はフィンだけですよ。血の繋がりがある人はいません。孤児なので」
フェリシアが申し訳なさそうな顔をする。
俺の方こそすみません。あなたのことをただの傍若無人女と思ってました。気遣いができるんですね。
「気にしなくていいですよ。物心ついた時からこんな感じなので」
フェリシアは少し悩んだ様子の後、
「聞いてもいい?今までどうやって生活してたのか」
「いいですよ、別に。って言っても、そんな話すことはないと思いますけど」
俺は物心ついた時には、とある竜人族の青年に拾われていた。
それ以前の記憶はないから分からないし、青年もあまり語ろうとしなかった。
多分、その青年も変わり者だったんだろう。人里離れた奥地に家を建てて、一人で住んでたみたいだから。
それ以来、俺はその青年と二人で暮らすようになった。たまに生活用品を購入するため、村に立ち寄ることもあったが。
性格は穏やかですごく優しかった。赤の他人である俺を育ててくれるくらいだし。だから、二人での生活は楽しかった。
そして、十五歳になる頃、青年はフラッと旅に出た。そして、戻ってくることはなかった。
村に立ち寄るたびに仕送りが届いたので無事だと思う。彼はフェリシアと比べても遜色ないほど強いので、あまり心配しなかったが。
ただ寂しいとは感じたな。
ということを話した。
「そんなわけで、俺の家族はその人を別にしたら、フィンだけですね」
彼女がある程度過去を話してくれたので、礼儀としてこちらも話した。
「なるほどね。それで独り立ちして、こっちに来たってわけね」
「ってわけです」
フェリシアがホーッと長い息をついた。
それから会話がないまま、食事を続ける。
やばいな。重たい雰囲気になっちまった……後悔するけど、どうにもならない。
あまり他人と関わってこなかったから、こういう時どうすればいいか分からない。
食事が終わると、また彼女の方から話しかけてきた。
「これからどうするの?またエリア探索?」
興味津々な感じだ。おーい。絶対ついて来る気だよ、この人。が、残念だけど、
「全身筋肉痛なんで、今日は部屋で休みます」
「そう。分かったわ」
フェリシアはやけにあっさりと納得して立ち上がる。
その様子に疑問符を浮かべながらも俺も立ち上がる。
食器を返して、二人ともそれぞれの部屋に入っていった。