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いずれは最強コンビ  作者: HAL
第一章 美女に絡まれた
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第五話

 天空都市に戻ってきて、油断していた。気が緩んでて、あの女がここに来るという可能性をきれいさっぱり忘れてた。

 そりゃ、あの後一番近いここに戻ってくるよなぁ。

 ここの門を起点として、様々なエリアに迎える。そして、その先にもいくつか都市があるらしい。

 だけどなぁ……

 まさか、その日にソッコーで見つかるとは思ってもみなかった。しまった……

 マズい。明らかに誰かを捜している。俺の可能性が限りなく高い。

 いや、落ち着け。俺。

 これは、きっと自意識過剰というやつだ。向こうが捜しているのは別人だ。ただ、数時間前にあんなことがあったから意識しちゃってるだけだ。

 そんな結論に至って安堵した直後に目が合った。ニンマリと笑う彼女のおかげで、俺の結論は粉々に砕け散ってしまった。

 ゆっくりと歩み寄ってくる。

 昨日とは違い、長い赤髪をまとめてはいなかった。後ろに流している。

 そんなどうでもいいことを考える、絶賛現実逃避中の俺。

「捜したわよ」

 美人からそんなことを言われたら普通は喜ぶだろうが、生憎とそんな感情は浮かんでこなかった。むしろ、二度と関わりたくなかった。当たり前だけど。

 誰が好き好んで死闘を演じた相手と関わりたいと思う?

「はぁ。それはなぜでしょう?」

 できるだけ他人行儀に問いかけた。

 周りからの視線が痛い。客の大半が女を見ていた。ひょっとして有名人?

「お願いがあって」

 問答無用で昨日の続きをやるぞ、と言われる可能性も考慮してて密かに身構えていた。

 お願い。どんなお願いなのか聞かなけりゃならないのか?可愛らしい言い方だったが、無理難題な気がして、本音としては聞きたくない。

 そんな俺の心情を察したのか、

「悪かったわ。さっきは」

 バツが悪そうに、いきなり謝罪された。

 え?え?え?

 今何て言った?

 俺は不覚にもマジマジと女を凝視してしまった。もはや、暴虐の化身とさえ思っていた女が自分の非を認めるなんて。夢にも思わなかった。

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はフェリシア。分かってるでしょうけど、鳥人族よ」

「レヴィです。同じく分かるでしょうけど、竜人族です」

 種族については、まず外見的特徴で明らかだ。昨日の激闘でお互い半獣化しているし。

 しっかし、掲示板で見たあの熾天使様ですか。そうですか。そりゃ、強いわ。

「レヴィね。覚えておくわ」

 覚えなくていいです。むしろ速やかに記憶から削除してください。

 怖くて言えなかったけど。

「ちょっと場所を変えたいんだけど」

 確かに、何人かが聞き耳を立てている奴らがいる。

 断るにしろ、こんな環境で話したくはないので了承した。

 飯も食い終わっていたから、ちょうどいい。代金を払うと、先導する彼女の後について宿屋を出た。睨んでくる男もいたけど無視した。

 目的地は不明だが、あまり近くないようだ。しばらく歩き続ける。

 あー、何でこんな展開になっちゃったんだー?宿見つけて、さっさと寝るつもりだったのに……

「有名人ですね」

 さっきから振り向く人数が多い。なかにはついてくる奴までいた。フェリシアの一睨みですごすごと退散していったが。

 最初は彼女の美貌に振り向いているのかと思ったが、ここまでくると有名人であるという結論にならざるを得ない。

「ええ。だから、私のことを知らずに、対等に話されたのは新鮮だったわ」

 あれ?怒ってらっしゃる?急に落ち着かなくなった。

「着いたわ。ここよ」

 あれこれ考えているうちに俯いていた頭を上げると、喫茶店みたいなのがあった。

「ここは全席個室だし、防音もしっかりしてるのよ」

「へ~」

 今日来たばかりの俺が知るはずもない。

 ところで、喫茶店殺人事件を起こすつもりじゃないよな?

 我ながらバカなことを考えながら、案内されるままに席に着く。

 注文した飲み物を受け取ると、フェリシアが口を開いた。

「まずは改めて謝罪するわ。八つ当たりをしてしまって、ごめんなさい」

 頭を下げられた。さっきも思ったけど、フェリシアはプライドが高そうだから意外に思える。

「はぁ。まぁ、もういいですよ。俺もこの通り無事ですし」

 見るからにホッとしている。

 俺としてはいつまでも負の感情をズルズル引きずりたくない。普通に受け取ってしまおう。

「それで、私が何で苛立っていたのか、説明させてくれない?」

「はぁ。それがお願いにかかってくるんですよね?」

 フェリシアは首肯する。

「ええ」

「分かりました。どうぞ」

 フェリシアは一息ついた。

「私はソロで星覇者をやってるの。たまに誰かとパーティーを組むことはあっても、どこかのチームに入ってるとかじゃない」

「はい」

 なるほど。ま、あれだけの実力があれば、そりゃソロでもやってけるでしょう。

「そうやって今までやってきたけど、一人じゃきつい強敵が出てきて」

 その言葉に、俺はげんなりする。

 マジかよ。この女の強さは嫌っていうほど思い知った。その女が単独で倒せないような化け物がいるのか。

 戦慄が全身を駆け巡るが、何食わぬ顔で尋ねる。

「普通に誰かに援護を頼めばいいんじゃないんですか?」

「パーティーを組んだのは、向こうから請われて仕方なくよ。こっちから頼んだことは一度もない。なのに、そんなことしたら、見返りに何を要求されるか分かったもんじゃないわ」

 彼女は吐き捨てるように言い放つ。

 何となく納得した。

 そんな態度になるからには、仲間になれとか、自分の女になれとか、そんなことを平然と要求する連中なんだろうな。

 性格はアレだけど、彼女は相当な美人だし。

 そんな理由があってムシャクシャしていた時に、バッタリ俺と会ったわけだ。

「私と互角に渡り合える実力を持ちながら、誰も目をつけてない初心者。しかも、ここでは多分ただ一人の竜人族。あんたがほしいの」

 にっこり笑うフェリシアに対して、顔面蒼白の俺。

 互角は過大評価だ。あの時のフェリシアには戦いを楽しむ余裕があったみたいだが、俺にそんなものは皆無だった。

 何より、俺は初心者だ。その強敵とやらと戦って、生き残れる自信がない。

 なので、かける言葉は一つ。

「がんばってください」

「そこを何とか。私が知ってる天空都市や敵の情報は全て提供するわ。あんたにとっても悪い話じゃないはずよ?」

 彼女は諦めようとしない。

「そこだけ聞けばいいと思いますけど、フェリシアさんが手こずるような化け物と戦って生き残れる保証が全くないし」

「そこは大丈夫よ。いきなりそいつと戦いにいくなんて危ない真似はしないわ」

 あ、違うの。

 じゃあ、何するんだ?

 頭に疑問符を浮かべていると、

「まず、私の剣術を教えるわ。嫌味と受け取らないで聞いてほしいんだけど、あんたは身体能力は申し分ないけど、技は未熟でしょ?技を鍛えれば、同時に精神力も鍛えられるからちょうどいいし」

 思ったより魅力的な提案だった。彼女の下で修業すれば着実に強くなれる。色んな情報が手に入る。いいことづくめだ。

「ちなみに、その強敵って?」

「巨神兵よ」

「無理!」

 即答した。

 何気なく聞いてみたら、とんでもない言葉が返ってきた。九割方フェリシアのお願いを受け入れようと思っていたが、方針は百八十度転換だ。

 巨神兵。

 セシルから聞いた幻獣の中でも最強クラスだ。冗談じゃない。

 どう考えても無理だ。命がいくつあっても足りない。

 でも、そう返されるのは想定内なんだろう。諦める気がまるでないのが手に取るように分かる。彼女は、なかなか『うん』と言わない俺に対して、根気よく説得を続ける。

「お願いよ。あんたしかいないの!あんた以外に頼りたくないの!」

「でも、俺としても、死なない程度に稼げればって感じですし」

 問答が止まらない。

 埒があかないので、思いきってとんでもないことを要求した。

「俺だって要求しますよ?俺の女になれとか」

 これで嫌われる。平手打ちくらいは覚悟した。

 なのに、予想外の返答をされた。

「いいわよ。あんたなら」

 そう言ってくれると非常に嬉しいけど!マジでドキッとしたけど!諦めてくれないかな?俺の安全のために。

「はい?」

「私にそういうこと言ってくる男は、口だけなのよ。その点、あんたは実力を示したし」

 美人で、しかも強い戦士にそんなこと言われると、もう落ちてしまいそうだ。

「あんたがお願いを聞いてくれるなら、真剣に考えるわよ?もちろん、私と同等以上の実力者になってからだけど」

「じゃあ、永遠に無理ですね」

 フェリシアに強く否定された。

「あんたなら多少時間はかかるかもしれないけど、間違いなく私と肩を並べる」

 断定された。驚きが隠せない。

「フェリシアさんとの戦いで生き残ることはできましたけど、あれは完全に運ですよ?俺の長所は、半獣化できるくらいですけど」

「本人が自分の可能性を分かってないのね」

 何故か深いため息をつかれてしまった。

「はぁ?可能性?」

「まあ、いいわ。私が正しいことは、行動を共にすればいずれ分かるわ。それでどうするの?私の頼みを引き受けて、最終的に私の男になってくれる?」

 全く自信が揺るがないフェリシアの姿に、俺はもしかしたらと思ってしまった。

 強くなって、天空都市に詳しくなって、フェリシアの男になる。

 たまらなく魅力的だ。

 でも、生物としての本能がさっきから警鐘を鳴らし続けている。無視できないレベルで。

 あー、どうしようかね?

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