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いずれは最強コンビ  作者: HAL
第一章 美女に絡まれた
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第三話

 熾天使フェリシア。

 星覇者の最高位である王の称号に変わってから、そう呼ばれるようになった。

 最初期から星覇者として活躍している、自他ともに認める超一流の星覇者。それが私だ。

 孤高の星覇者とも言われているが、単に独力で成し遂げることができただけだ。

 今まで誰かに頼ることなく、様々なエリアを探索できた。魔獣との戦闘も勝利してきた。

 だが、壁に突き当たってしまった。

 今の探索しているエリアにおいて、一人では敵わないと思える強敵が待ち受けていたのだ。

 何でも一人でできると自惚れているわけじゃない。

 ただ、今まで一人でやってこれたから、誰とも深い付き合いがなかった。

 すでに他の星覇者はチームを結成していて、そこに割り込む余地はなかった。

 彼女を勧誘してくる輩もいたが、彼女の名声か身体目当てが分かるほど露骨だった。そんな奴らの誘いに乗るわけもない。

 心から信頼できる仲間がいない。

 このままじゃ私は先へ進めない。誰も見たことのない景色を見ることも、誰も到達したことのない高みへ登ることも。

 現状、仲間として迎えられそうな候補は見当たらない。

 寄ってくるのは、変わらず勧誘に来るウザいアホどもばかり。

 冷たくあしらっても、強制的に排除しても一向に減らない。

 いい加減イライラが最高潮に達しそうだ。

 ストレス発散のために、魔獣に八つ当たりしていた。一人になろうと荒野を歩いていたら、魔獣が群がって来た時には獰猛な笑みを浮かべたと自分でも思う。

 そんな感じでイライラしていると、竜人族の男と出会った。あまりいい出会いじゃなかったけど。

 最初はストーカー紛いの星覇者だと思った。

 だけど、出てきたのは見知らぬ男、しかも銀髪、驚くべきことに竜人族だった。

 最初期から星覇者として活動してきたが、一人目の竜人族と関わることはなかった。どんな容姿かもぶっちゃけ分かってない。

 改めて、その竜人族を見つめる。

 若い。おそらく、一人目とは違うだろう。

 剣や銃を所持していることから、間違いなく星覇者だ。ただ、竜人族が五芒星に入ったなんて聞いてない。

 少年というよりは青年といえるかな?

 イラついていたことも手伝って、突っかかってしまった。

 私のことを知らないのね。じゃなきゃ、あそこまで言ってくるはずがない。もっとも、熾天使なんて恥ずかしすぎて、自分からは絶対に名乗らないけど。

 この二つ名をつけた管理者には、殺意さえ湧いたわね。そういえば。

 最初は、こんなものかと物足りなさを感じつつも、納得する。

 素人がいきなり私と対等に渡り合えるわけがない。当然と言えば当然だけど、一縷の望みを抱いていたことに気づいてしまった。

 少し、焦ってるわね。

 舐めた口をきいてくる竜人族に引導を渡してやろうとしたら、予想外の事態に発展した。

 そいつの実力は、私の予測を遥かに超えていた。半人前だと思ってて、見抜けなかった。

 まさか、この若さで半獣化できるなんて思わなかった。

 さっきまでは憎まれ口を叩いていたものの、何とか凌いでいた感じだった。間違いなく余裕なんてなかった。

 それなのに、半獣化した竜人族の青年は、先ほどまでとは同一人物と思えないくらい変貌した。

 それは姿の話ではない。外見なんて角が生えただけだ。問題なのは、中身の方だ。

 人格が変わったのかと思える。

 さっきまでのヘタレっぷりが幻かと錯覚するほどの変貌だった。

 上に君臨し、周囲を睥睨する王者。纏っている雰囲気は、まさにそれだ。

 覇王の威圧にさらされながら、私は高揚を感じてきた。

 私もすぐさま半獣化した。

 我が身に宿りし紅霊鳥よ。秘められし力を解き放て――

 背中に一対二枚の紅い翼が生えてた。

 少年が疲れたように首を振る。

「できるのか……」

「ええ。正直、する必要がないと思ってたけど、見くびってたようね。謝罪するわ」

 私の半獣化もこの男にしたら面倒といった程度なのか。少し嫌そうに顔をしかめただけだった。

 動揺を微塵も見せずに、泰然としている様は、こっちの感嘆を引き出させた。

 さっきまでの評価を百八十度転換する。もううなぎ上りだ。

 半獣化したものの、敢えてさっきまでと攻撃方法を変えずに戦闘を続行してみる。

 竜鱗に阻まれても一切気にせず、無数の斬撃を生み出し続ける。

「無駄だ」

「どうかしらね?」

 相変わらず竜鱗を突破できない。

 でも関係ない。

 続けるうちに、本気を出してもいいと確信していく。

 次第に加速していく。常人なら目で捉えることも不可能な速さで、竜人族の前後左右から刃を浴びせ続ける。

 次第に笑みを浮かべるようになる。

 楽しい。

 ああ。戦いを心から楽しめるなんて何日ぶりだろう。

 私がこれだけ攻撃しても、まだ相手は倒れない。まだ続けられる。戦いを楽しむ時間がある。

 弱すぎず強すぎず、対等な相手。

「……楽しそうだな?」

「ええ!心からね」

 苦笑されちゃったけど、気にならない。戦いに夢中になってるから。

 しばらくすると、さすがに疲れてきたので休むことにした。

 結果は変わらず、私の斬撃は悉く防がれた。これが竜人族の特殊能力、竜鱗の防御力ってわけね。

 竜人族の彼は、徹頭徹尾動かなかった。私だけ動き回って道化を演じてたように見えてるけど、楽しいからどうでもいい。

「見事ね。私の攻撃がまるで届かないなんて」

「俺の不可視領域はまだ破られたことがないからな」

 呼吸を整えながらも、笑みを深める。

「なら、私が最初の破壊者になってあげるわ!」

 剣の刃を解除する。

 私の最大最強の攻撃をお見舞いしてあげる!

 竜人族に竜鱗があるように、鳥人族にも特殊能力がある。

 鳥人族の特殊能力。紅焔。

 フェニックスの荒ぶる火焔が敵を焼き尽くす。

 私は両手をかざし、紅焔を創り出した。

 私の胴体を覆えるほどの火の玉が浮かび上がる。

 さすがに相手の顔色が変わる。

 でも、私に殺す気など毛頭ない。ただむしゃくしゃしてただけ。

 まぁ、何度か憎まれ口に頭が沸騰して、ぶっ飛ばしてやろうと本気を出したけど

 でも、今ではもう苛立ちは霧散している。

 ただ、残念ながらこの楽しみは共有されていない。

 それに若干の切なさを感じながらも、相手を狙い定める。

 この男なら受け切るだろう。なぜか、そんな確信があった。

「もう十分じゃないか?」

「いーえ!」

 満面の笑みを浮かべて返答すると、彼は天を仰いだ。眼差しを私に向け直すと、達観した顔つきになってた。

 いい顔ね。覚悟を決めた彼は、まさに精悍だった。

「いくわよッ!!」

 竜鱗に直撃した。

 次の瞬間、大爆発が起きた。

 私のとこにまで爆風が届く。予想してたことだから、踏ん張ってこらえたけど。

 辺りに煙が立ち込める。

 ふと違和感を覚えた。少し考え、その正体に気づく。

 さっきまでの威圧感が消えている。半獣化は解除したのか?

 紅焔によって生じた煙に紛れて、どこからか攻撃してくるのかしら?剣だけじゃなく、銃の警戒も必要ね。

「さて、どう出るかしら?」

 気配の消し方は完璧だ。私に居場所を全く悟らせない。会った時には気配がダダ漏れだったというのに、この短時間で気配の消し方を覚えたわけ?

 只者じゃないわね。もしかして、天才?

 終焉を迎えるかと少し危惧していたけど、まだ楽しみは終わらないようだ。

 これから、あの男がどう奇襲を仕掛けてくるか、ワクワクしてくる。

 煙が晴れてきた。

 まだ攻撃してこない?攻撃のチャンスがなくなってくわよ?

 相手の意図が見えなくなって、少し不安に思ってきた。

「ちょっと!どこ行ったの?」

 あの男の姿が見えない。もちろん、どこかに倒れ伏しているわけでもない。影も形もない。

 つまり、結論は一つしか残っていない。

 逃げられた……。

 さっきまでの高揚感が消え失せ、代わりに湧き上がってくるのは激情。

 抑えきれない怒りの感情に任せて体が震える。次の瞬間、絶叫した。

「あんの野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 私は一人虚しく戦場に取り残されていた。

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