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第一章 -36-

「ところで、今日、柳沢さんは? 一緒じゃないんですね?」


Happy-Go-Luckyの活動方針が決まった後、美穂が東野先輩に話し掛けた。


美穂の言う“柳沢さん”とは東野先輩の彼氏・柳沢賢悟やなぎさわ けんごさんの事だ。


そう言われてみれば、ライブハウスでも柳沢さんの姿を見かけなかった。




「それがさー……」


先輩の代わりにシンが口を開く。




(この意味有り気な口調は……)




「あの人、今ウィーンに留学中なんだよ」




「ほぇ? 留学?」


シンの口から出た言葉に俺は思わず拍子抜けした。




「それで、その事でちょっとお前に頼みがあってさ」


さらにシンが俺に向かって言う。




「頼み?」




「そ。超遠距離恋愛な上に、時差であんまり電話で話す事が出来ないで寂しい思いをしてる


 姉貴とデートしてやってくんねぇ?」




「ちょ、ちょっと慎くんっ?」


流石の東野先輩もこれには驚いていた。




「詩音、今付き合ってる子とかいないんだから別にいいんじゃない?」


千草はそう言うけれど……、


「昨日も一年生の女子に告られてたみたいだけど断ったんでしょ?」


さらに美穂が言った言葉に俺は目玉が飛び出そうな程驚いた。




「待て待て待てぃっ、何故俺が告られた事を知ってるんだっ?」




「あは♪ アレ、やっぱ告られたんだ?」


美穂がしれっとした顔で言う。




「おい……今の、鎌掛けたのか?」




「そうだよー」




「……」


俺は美穂の誘導尋問にまんまとしてやられたのだ。




「詩音てわかりやすいから楽だよね~♪」


美希が笑いながらコロッケを口に入れる。




「……」


俺はもう返す言葉もなかった。




「まぁ、“デート”って言っても要するに気を紛らわせてやって欲しいって事」


そんな俺にシンが笑いながら言うと、


「なら、別に“浮気のススメ”じゃないんだな?」


愛莉はシンに確認するように言った。




(つーか、“浮気のススメ”ってなんだよっ?)




「もちろん」




「じゃあ、みんなで遊びに行くのも有り?」


更に続けて確認する愛莉。




「あぁ、俺はただ姉貴の気が紛れればいいんだ。毎回俺が相手じゃつまんないだろうし」




「そんな……っ、別につまんないなんて思ってないよ?」


東野先輩が慌てたように否定する。




「でも、たまには違う相手と遊んでみたいだろ?」


シンは意味深な顔を先輩に向けた。




「それは……いろんな人と遊ぶのも楽しいけど……」




「じゃ、決まり。姉貴、再来週は空いてるらしいから、さっそくその日にデートって事で」


シンは俺の予定も聞かずにどんどん話を進める。


もちろん、再来週もバイトは入っているがなんとかならない訳でもない。




「みんなはどう?」


だが、流石にいきなり先輩と二人きりでデートとか緊張するから、みんなにも付き合って貰うつもりで訊ねた。




しかし――、




「あたし、バイトが入ってて今回休んじゃったから無理かも」


「私も」


「……あたしも無理だな」


千草と美希、愛莉はもうすぐ受験体勢に入る為、バイトを辞める。


しかも、今日のライブの為にバイトを休んだからこれ以上休めないらしい。




「私はバイトしてないから大丈夫。でも、詩音と香澄さんと私の三人だと、なんだか私、お邪魔虫になりそう」


美穂はみんなが来られないと判明し、苦笑いした。




「なら、俺も行くよ。そうすれば“お邪魔虫”にはならないだろ?」


すると、シンが意外な提案をした。




「ダブルデート?」


美穂がクスッと笑う。




「うん」


シンはニッと笑って頷いた。




こうして――、


どういう訳か俺と東野先輩、シンと美穂の四人のダブルデートが決定した。






     ◆  ◆  ◆






そして、二週間後――、


ドキドキダブルデートの日。




正直、俺は佐保とデートする時よりもドキドキしていた。


昨夜から何を着て行こうか、靴はこれで変じゃないかな? なんて迷ったし。




(こんな風に思うって事は、俺、まだ先輩の事が好きなのかなぁ?)


そんな事を思いながら待ち合わせ場所の駅前でシンと先輩、美穂を待っていると駅の改札から


佐保が出て来た。




「え……?」


(そんなバカな……っ)


佐保がバイトをしているファーストフード店はここより一駅隣のはずだ。


だから、この駅を利用するはずがないと思って油断していたのに……。




(なんで、いるんだ?)


なるべく怪しまれないようにゆっくりと方向転換しながら佐保に背を向ける。




(……つーか、佐保の方も実はバイトじゃなくて友達とかと待ち合わせだったらマズイなー)


俺がここにいるのが彼女にバレてしまうとやっかいだ。




「詩音?」


佐保がいる方向に背を向けたまま、ごちゃごちゃ考えていると不意に後ろから声を掛けられた。




「っ!?」


(見つかったかー……)




「なんで詩音、不自然にそっち向いてんの?」


だがしかし、振り返ってみるとそこに立っていたのは美穂だった。




「なんだ、美穂か……脅かすなよぉー」




「どうしてそんな焦ってるの?」


美穂は不思議そうな顔をした。




「あー、えーと……」


――と、言葉に詰まっていると美穂の後ろを通り掛った佐保とバッチリ目が合ってしまった。




「あ……っ」


小さく声を上げて驚く佐保。




(最悪だ……)




「詩音、こんな所で何してるの?」


ちらりと美穂に目をやる佐保。




「……」


そして、何も答えられない俺。




「バイトは?」


佐保が不思議がるのも無理はない。


時間は午前十一時。


佐保と付き合っていた頃は、だいたいいつもこれくらいの時間にデートを終えて『God Valley』に


向かっていた。


それなのにこんな時間に俺が美穂と一緒に居たらおかしいと思うのは当たり前だ。




「おぃっす」


「おはよう」


しかも、そこへ今度はシンと東野先輩が来た。




「おっはよー♪」


にっこり笑う美穂。




「お、おぅ……」


俺はこの最悪な状況に顔が引き攣っていた。




「……」


シンはすぐに佐保の存在に気付き、あまり表には出ていなかったが、怪訝な顔をした。




「詩音、今日はバイトないの?」




「あぁ、うん……てか、佐保の方こそ、なんでこんな所にいるんだ?」




「今日はこの近くにある別のお店から応援を頼まれたの」




なるほど。


それでこんな所にいるのか。




「……それじゃ、また明日ね」


佐保は何か言いた気な顔をしながら東野先輩を一瞥してその場を後にした。




(明日またいろいろと訊かれそうだなぁー……)


楽しいはずのダブルデートなのに、のっけから蹴躓いた気がした。




「今のお前の元カノじゃん?」




「え?」


シンが佐保の正体をバラすと東野先輩は少し驚いたような表情をした。




「一瞬、お前が呼んだのかと思ってたけど、違ったんだな」




「う、うん……偶然」




「ねぇ、詩音がさっき不自然に背中を向けてたのって天宮さんに見つかりたくなかったから?」


美穂が鋭い質問をぶつけてくる。




「ま、まぁ……見つかるといろいろと面倒な事になりそうだったから」




「けど、さっきの様子じゃそんな事なさそうじゃん?」




「……」


美穂はそう言うが、俺は明日佐保からの怒涛の質問攻撃に遭うのが目に見えてわかっていた。




「……同情するよ」


シンは同じ様な経験があるからか、苦笑いしながら俺の肩を軽く叩いた。




「それより、今日はどこに行く?」


美穂は可愛らしい笑みをシンに向けた。




「遊園地とかはどう? 姉貴、行った事ないって言ってるし」




「わぁ、賛成♪ 私も行った事ないの!」


美穂が嬉しそうに答える。




「え、美穂も行った事ないのか?」




「うん、だって家が商売やってるから連れて行って貰った事がなくて」




「はは、俺と一緒だ」


美穂の家も俺の家も正月以外は営業している。


だから、その辺の事情については同じなのだろう。






     ◆  ◆  ◆






「ちょっと早いけど、先にメシにするか」


待ち合わせ場所の駅前から移動する事三十分。


遊園地に着くとシンが腕時計を見ながら言った。




「そうだな、もう少しすると店が込み始めるし」


俺達は目の前にあるレストランに入った。






「ところでさ、俺、前から訊きたかったんだけど……、美穂ってなんで軽音部に入ったんだ?」


食事を終えて、食後のコーヒーが運ばれて来た後、俺はずっと疑問に思っていた事を口にした。


……と言うのも美穂は結構“お嬢様”だし、今までずっとクラシックをやっていたと言っていたから、


そんな子が何故それまでずっと習っていたピアノを突然止めてバンドに興味を示したのか疑問だった。




「別に好きでピアノをやってた訳じゃないから」




「それって強制的に習わされてたって事?」




「うん、音楽は好きだけどね」




「でも、ご両親はよく反対しなかったな?」


それまで習っていたピアノを突然辞めて軽音部に入るなんて言ったら、いくら同じ音楽系だとは言え、


普通は反対するだろう。




「お兄ちゃんが家業を継ぐ代わりに私は自由にさせて貰う事になったから」


美穂が言った言葉がいまいち理解が出来なかった。




「兄貴って事は長男なんだろ? 別に普通の事じゃん?」


そう思っていたのは俺だけではなかったようだ。


シンが俺が抱いていた疑問を口にした。




「うん……“普通の家庭”ではね。でも、うちはちょっと複雑でね。


 実はお兄ちゃんはお父さんの愛人の子供なの」




「「「……っ」」」


俺とシン、東野先輩は一瞬、言葉を失った――。

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