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第一章 -27-

――数日後。




「最近いつもお弁当食べ終わったらすぐいなくなるけど、どこ行ってるの?」


昼休憩の終わり頃、本鈴が鳴る直前に教室へ戻って来た俺に佐保が不思議そうな顔で言った。




「1スタ」




「……もしかして……あたしがいるから……?」




「へ?」




「だって……あたしと詩音が付き合ってたのを知ってる子が教室で隣同士の席に


 座ってるのを見たら……」




なるほど、そういう意味か。




「違うよ、俺は佐保が嫌で1スタに逃げてるんじゃないよ。


 実は今、新入部員の子にギターを教えてるんだ。その子、初心者だから」




「……女の子?」




「うん」




「どうして詩音が? ギターなら他にもいるでしょ? 真部先輩とか、相沢くんとか」




「六月のスポーツ大会の後の打ち上げで俺達と一緒に出る事になったから、Happy-Go-Luckyのメンバーで


 面倒見てるんだ」




「じゃあ、みんなで集まってるの?」




「いや、昼休みに1スタに行ってるのは俺だけだよ。みんなで練習するのは放課後の部活だけ」




「……詩音、その子の事……」




「違う違うっ、そんなんじゃないよ? 確かに一生懸命ギターの練習とかしてるし素直でいい子だけど、


 俺はそんなつもりじゃないから。それに昼休みに1スタ行ってる事は他のメンバーは知らないから」




「どうして知らないの?」




「この間、昼休みに1スタに行ったら、その子がいて、訊いたら毎日昼休みにも一人で練習してるって言うから、


 それなら昼休みくらいは俺が教えようと思って。


 部活の時は千草が教えてるし、曲を通してやるとまだついて来られない所もあるから」


陽子が俺達と一緒に打ち上げに出る事が決まった翌日の昼休憩、彼女がやりたいと言った曲を練習しておこうと


第一スタジオに行った。


すると、陽子が一人でギターの練習をしていたのだ。




「どうして他のメンバーに言わないの?」




「別にわざわざ言うような事でもないからだよ」




「でも……」


佐保がまだ何か言いたそうに口を開いた。


だが、それを遮る様に五時限目の開始を告げる本鈴が鳴った。




(助かったー)


別に佐保の事が嫌な訳ではないが、やっぱり元カノが隣の席っていろいろ面倒臭い。






     ◆  ◆  ◆






それから数週間が過ぎ――、


スポーツ大会当日。




「うぉっ、いきなり対決かよー」


俺達の一回戦の相手はシンのクラスだった。


しかも俺とシンはスタメンの中に入っている。




「ぜってぇ、負けねぇー」


シンはそう言ってにやっと笑った。




だが、しかし――、


実は俺達のクラスにはバスケ部が三人もいたりする。


もちろんスタメンだ。


バスケ部三人 + とりあえず背の高い奴・上田 + 俺、の五人。




俺と上田はともかく、バスケ部の三人は絶妙なコンビネーションを披露し、次々とゴールを決めていった。


おかげで俺は回って来たパスをそのままバスケ部三人の誰かへパスしたりする程度で、


たった一本だけシュートを決めて第一クォーターの終了と同時に出番は終わった。




「お前等んトコのあの三人、何っ?」


第二クォーターが始まり、コートの外で試合を観ているとシンがやって来た。




「はは、アイツ等バスケ部だから」




「どうりで動きが早ぇはずだわ……」




「けど、その動きにしっかりついていってたじゃん」


シンは運動神経もいい。


最初のうちは軽く動いていたけれど、バスケ部の三人の動きを見て途中から本気になった。




「てか、てっきり第二クォーターも出るんだと思ってた」


シンは俺と同じ様に第一クォーターでメンバーから外れていた。




「だって、突き指とかしたら嫌じゃん」




「確かに……て、愛莉、今年は大丈夫だろうな……」




「あたしがなんだって?」


すると、突然後ろから愛莉の声がした。




「「うわぁっ!?」」




「なんだよ? 二人共お化けにでも遭遇したようなリアクションして」


振り向くと愛莉が仁王立ちしていた。




「いや、今年は愛莉、突き指とかしてないだろうな? って、話してたんだ」




「大丈夫、まだしてない」


愛莉はそう言って両手を握ったり開いたりして見せた。




「“まだ”ってこれからする予定みたいな言い方だな」


シンはククッと笑った。




「こ、今年はしないもんっ、去年でもう懲りた」


愛莉は去年、突き指をして二週間もの間ドラムが叩けなかったのが余程辛かったらしい。




「ところで愛莉、なんでここにいるんだ?」




「暇だから応援に来たんだよ」




「どっちの?」


俺は態と意地悪く訊いてやった。




(『シン』って答えるかな? それともここは『俺』って答えるかな?)




「どっちも」


だが、愛莉は意外にもそう答えた。




(そうきたか)




「けど、二人共第一クォーターしか出なかったんだな?」


愛莉はどうやら最初から試合を観ていたらしい。


だが、ちっちゃいからどこにいるのか全然わからなかった。




「俺は元々こういう行事は好きじゃないからな」


……と、シンは言ったけれど、さっきまで真剣にバスケをやっていたのはどこのどいつだろうか。




「俺は“専門家”に任せたから」




「なんだ? その“専門家”って」




「うちのクラス、バスケ部がいるんだよ」




「あー、なるほどね」




それから結局、俺達のクラスは例の三人のおかげであっさりと一回戦を突破した――。






昼休憩を挟み――、


順当に勝ち進んで次の試合まで時間があった俺達は同じ二年生と対戦している女子の方の応援に行った。


すると、佐保が試合に出ていた。




(佐保、頑張れ)


声には出さないが心の中で応援をする。


だが、彼女には必要以上にマークが張り付いていた。




(なんであんなに?)


佐保は中学時代も帰宅部だって言っていたから特にバスケが上手いとも思えない。


自分でも運動はあまり得意ではないと言っていたし。






しかし、しばらく試合を観ていると相手チームの一人が佐保を小突いた。


さらに彼女がよろけた瞬間、別の子が足を引っ掛けた。




「きゃっ!?」


床に倒れ込む佐保。




(な……っ!?)


ボールの行方とはまったく関係のないところで起こった出来事に俺は目を疑った。


うちのクラスからタイムが要求され、クラスメイトの女子数人が佐保に駆け寄った。




「ちょっと何すんのよっ?」


佐保の友達でもあるクラスメイトの花本さんが謝る事もしないでいる相手チームの女子に食って掛かる。




「何って、別に何もしてないわよ? 天宮さんが勝手にコケたんじゃないの?」




「とぼけてんじゃないわよっ! 佐保の背中を押して足まで引っ掛けてたじゃない!」


周囲の注目の的になる花本さん。


だが、ほとんどの生徒がボールを目で追っていたからうちのクラスの女子ですら


彼女が言い掛かりをつけているような目で見ていた。




「佐保が神谷くんの隣の席なのが気に入らないのか知らないけど、言いたい事があるんなら


 直接言えばいいでしょう?」


花本さんが俺を引き合いに出したのは、佐保を小突いたのと足を引っ掛けた人物が以前、


俺のファンクラブに入っていた子だからだろう。




「知らないってば! それとも私達が天宮さんに何かしたところを見てた人がいるの?」


「そうよっ」


あくまでシラを切るつもりらしい。




「俺、見てたよ」


コートの中で揉めている彼女達に俺が近づくと佐保は驚いたように顔を上げた。




「花本さんの言うとおり、この二人が佐保を小突いたり足を引っ掛けたりしたのを見てた。


 佐保も勝手にコケた訳じゃなくて、何かされた感触はあるんだろ?」




「う、うん」




「「……」」


黙り込む二人。


その横で花本さんとクラスメイトの女子が俺の登場に驚いている。




「佐保、大丈夫か?」




「うん……」




「でも、歩くのは無理そうだな、俺がおぶるから保健室に行こう」




「……えっ?」




「ほら、早く」




「で、でも……」




「そのままじゃ歩けないだろ?」




「うん……」


佐保は小さく返事をして、そっと俺の背中に体を預けた。




「今度から俺絡みの事でなんか言いたい事があるんなら、佐保じゃなくて直接俺に言ってくれ」


俺は二人にそう言ってその場を後にした。






「……詩音、ありがと」


体育館を出たところで佐保が小さな声で言った。




「いいよ、気にしなくて」




「でも……詩音て、やっぱり優しいね」




「どうして?」




「だって……普通、元カノにこんな事しないと思うよ?」




「……そうだとしても、俺は態と佐保に怪我をさせたアイツ等の事、許せないし、


 佐保の事も放っておけなかったから」




「……」




「……もしかして、他にも何かされてた?」




「ううん」




「本当に?」




「本当……でも、陰ではみんなコソコソ噂はしてるみたい」




「やっぱり、席変わった方がいいのかな?」


俺と佐保が隣同士の所為ってだけじゃないとは思う。


しかし、席が離れる事で少しでも佐保に対する陰口がなくなるのなら――。




「嫌」


だけど、佐保がはっきりと俺の耳元で言った。




「あたしは、詩音の隣がいい。噂なら気にしなきゃいいだけだもん」




「でも……」




「詩音は、嫌?」




「ううん、そんな事ないよ。ただ、佐保が傷付くんじゃないかと思って……」




「あたしは平気……だから、席、変わんないで?」




「うん、わかった」


俺がそう返事をすると佐保は嬉しそうに微笑んだ。




(つーか……花本さん達がいるのにこんな会話は小っ恥ずかしいんだが……)


かと言って、自分からおぶると言っておいてなんだけど、こんな姿で保健室に向かっている光景は


彼女達がいないと余計に恥ずかしい気がした――。






     ◆  ◆  ◆






スポーツ大会が終わって――、


結果、俺達のクラスは男子は五位、女子は七位と先ず先ずの成績だった。




そして去年同様、体育館に併設されている十二畳の広い和室を楽屋にして貰い、そこに軽音部の


部員達が集まった。


一バンド三曲だからすぐに出番は来るけれど、またしてもトリになった俺達は少々退屈だ。




打ち上げが始まり、まずは新入生バンドの演奏。


袖からこっそりステージを覗くと前列の方に彼等のクラスメイトらしき生徒がいて


そこそこ盛り上がっていた。






次はTylorの出番。


去年、このバンドで出た時の事がちょっと懐かしく思える。






出番が近づくにつれ、陽子の表情が硬くなっていった。


三バンド目の三年生バンドがステージに上がると、ギターを弾いて指慣らしをしていた手が止まっていた。




(俺も初めてのライブの時はこんな感じだったんだろうなぁー……て、なんとかしてやらないと)


そう思うけれど、一体何をどうすればいいやら。






しかし、そうこうしているうち、あっという間に俺達の出番になってしまった――。

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