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秘密の女子会

案内された座敷では、相変わらず骸骨たちがカタカタと忙しなく動き回り、お茶や先ほど買ったばかりの菓子を並べていた。


「いやー、雛ちゃんがこういう美の権化みたいなお姉様と知り合いだったなんて。マジで見直したよ。やっぱり、ぜんちゃんと付き合ってるだけあるよねー」


滝姫が茶を啜りながら、爆弾を投げ落とす。私は、口に含んだ団子を噴き出しそうになりながら、必死に首を振った。


「ですから、あんなドブ川みたいな性格破綻者とは、そんな仲じゃありませんってば!  ただの仕事上の……その、腐れ縁みたいなものです!」


「あら、でも雛ちゃん。さっきお香を選んでる時、あの旦那のキセルの匂いの話が出たら、なんだか少しだけ顔を赤くしてなかった?」


お菊さんまでが、悪戯っぽい笑みを浮かべて参戦してくる。彼女は襟元を少し寛げ、猫又を膝に抱きながら、私をじっと見つめていた。


「そ、それは……あの人がいつも、無神経に煙を吹きかけてくるから、その、怒りを思い出して……!」

「ぎゃははは! それ、マジで好きの裏返しじゃん! 超ウケる!」


滝姫が扇子で畳を叩いて笑い転げる。伝説の姫君としての威厳は、今日もどこか遠い異界へと置き忘れられてきたらしい。


「というかさ、ぜんちゃんってマジで女心とか一ミリも分かってないでしょ? こないだも、雛ちゃんに鼠を懐に入れさせたとか聞いたけど、普通、そんなことする相手、囮に選ばないし」

「そうなの? あの旦那、意外と過保護なところがあると思ってたけど、やり方が致命的に不器用なのねぇ……」


お菊さんが、感心したように、あるいは呆れたように溜息をつく。


「……本当ですよ。この間だって、私の刀が折れた時、助けに来てくれたのかと思えば……」


私は、あの夜のことを思い出していた。榊が自分の手のひらを爪が食い込むほど握りしめて、私の戦いを見守っていた、あの痛々しい血の跡。


それを口にしようとして、なぜか急に気恥ずかしくなり、私は言葉を飲み込んだ。


「……あ、あの。お菊さんこそ、さっきお店の人にお土産なんて言ってましたけど、あれ、誰に買ったんですか?」


私の拙い話題転換を、二人の大人の女性はすぐに見抜き、さらに追い打ちをかけるように笑い声を上げた。


江戸の空は既に濃い藍色に染まり、庭の墓石の間には、どこからともなく集まった人魂がぼんやりと灯り始めている。


女子会は、これからが本番のようだった。


「お土産? ああ、これね」


お菊さんは、膝の上で喉を鳴らす猫又を愛おしそうになでながら、横に置いた包みを指先でつついた。


「吉原の置屋にいる禿かむろたちにね。あの子たち、いつも一生懸命働いているでしょう? たまには甘いものでも食べさせてあげないと、いい女になれないわ」


大人の余裕を感じさせるその言葉に、私は自分の幼さを突きつけられたような気がして、少しだけ背筋を正した。吉原という厳しい世界で生きる彼女なりの、慈愛の形なのだろう。


ふと、胸の中にあった「トゲ」のような疑問が、口をついて出た。


「……あの。お二人は、その……榊さんと、どれくらいのお付き合いなんですか?」


なるべく平静を装ったつもりだったが、二人の大人の女性は、獲物を見つけた鷹のような鋭い視線を私に向けた。


「おや。雛ちゃん、もしかして……ぜんちゃんの過去が気になっちゃうお年頃?」


滝姫が、扇子の隙間からニヤニヤと笑いながら身を乗り出してきた。


「なっ、違います! 私はただ、あの性格破綻者の正体を知っておかないと、今後の仕事に支障が出るというか……!」

「あら、いいじゃない。嫉妬は香辛料よ、独占欲は白米も一緒。隠さなくていいのよ、雛ちゃん」


お菊さんまでが、襟元から色香を漂わせながら追撃してくる。


「嫉妬なんてしていません! 第一、あんなキセル臭い男、誰が……っ!」


顔が沸騰しそうなほど熱くなる。自分の頬が真っ赤に染まっているのは、鏡を見なくてもわかった。


「ぎゃははは! マジでおいしいわ、雛ちゃん! ……まあ、そんなに怖がらなくて大丈夫だよ」


滝姫は、ひとしきり笑った後、ふと真面目な顔をして茶を啜った。


「うちはね、自分の居場所をなくして、ただの怨霊になりかけてた時に、あいつに拾われたんだよ。あいつ、伝説の姫君相手に『うるせえ、酒が不味くなるから、化けて出るのは後にしろ』なんて言い放ったの。……おかげで、死にぞこないの毎日が、少しだけ楽しくなっちゃったってわけ」


伝説の滝夜叉姫を、ただの「うるさい女」として扱ったという榊。いかにもあの男らしい不遜な振る舞いだ。


「私も似たようなものよ」


お菊さんが、遠くを見つめるように言葉を継いだ。


「私が吉原へ沈む前の話よ。……夫がね、とんでもない大罪人だと奉行所に捕まることがあったの」


その意外な告白に、私は息を呑んだ。


「ただ、当時はそれが妖に魅入られた仕業じゃないかって説も出てね。もし妖の憑き物なら無罪、人でなしの所業なら死罪……裁きは五分五分。そんな時に現れたのが、あの旦那だったわ」

「……っ。それで、榊さんが旦那様の無実を証明してくれたんですか?」


思わず身を乗り出した私に、お菊さんはどこまでも穏やかな、けれどひどく冷ややかな微笑を向けた。


「いいえ。……妖の仕業じゃないと証明して、見事に死罪を勝ち取ってくれたの」


……無言になった。私だけでなく、さっきまであんなにはしゃいでいた滝姫までもが、扇子を握ったまま固まっている。


やがて、夜も更けて女子会はお開きとなった。お菊さんは猫又を連れて吉原の灯りの中へ、私は滝姫の骸骨たちに見送られながら、静かな墓地を後にした。


——今ごろ、あの男は何をしているのだろう。


ふと、そんな思いが頭をよぎった。江戸の町外れ、あの埃っぽい廃屋で、ろくろ首に煙を吹きかけながら退屈そうに欠伸でもしているのか。


同じ藍色の空を見上げながら、私は無意識に、腰にある神の打った仕込み杖に指を触れた。


女子会の余韻が江戸の夜風に溶けていく中、私の心は、ここにはいない男の気配を、闇の向こう側に探していた。

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