ココロ編15
その後水族館へ行き、現在ゲームセンターへ向かっていた。
しかし、このコースは……
「やっぱこれって俺が前立てたプランと同じじゃないか?」
「ふっふっふー、その通りなんだよー」
「確かにお前もあの時は楽しんでくれてたとは思うけど、今日もそれでよかったのか?」
「んー、よかったのは当然なんだけど、なんて言うのかな。お兄ちゃんと二人でデートするならやっぱり、初めて来た時と同じ、このプランで前よりずっと強い思い出を作りたいなーって」
「あー、なるほどな」
確かに前よりずっとキズハとぴったりくっついて動いているし、そこで起きた出来事にしても思い出に残るものだった。
プラネタリウムのキス。
中央美術館のウェリベについて語り合ったこと。
水族館で起きた、アレ。
いやまぁ、水族館のアレはキズハの狙いじゃないんだが。
結果的にえらい印象に残る出来事ではあった。
思い出したくはないが。
「まぁ、ちょっと水族館は驚いたけどねー?」
「アレについてはまた明日コノカと話しながらでも考えよう……」
「そだね。あんまり今考えたくないねー」
お互い肩をすくめながら笑う。
不安な案件であるがゆえに考えないわけにはいかないのだが今日はスルーしておきたい。
「しかし、ゲーセンに向かうってことはあれか、駅西のあのゲーセン?」
「あー、えっとね、あそこ潰れたみたいだよ。だから、別のとこ」
「潰れた?あー、やっぱ場所が悪かったしコストパフォーマンス的に採算取れなかったのかな」
「たぶんそうみたい。建物は残ってるらしいから見に行くことはできるんだけど、まぁそれより他のところ行った方が楽しめると思うから今日は別のとこにしちゃった」
駅西のゲーセンはゲームの値段が安めに設定されており、子供が遊ぶのに適しているようなゲーセンだった。
そのため初めて二人で来た時にできるだけ無駄遣いせずに遊べるように、とそこを選んだのだ。
ただ、場所が路地裏なために目立ちにくく、安いと言う謳い文句だけでは客を呼び寄せ続けることが難しかったのか。
残念なことだがまぁ、仕方のないことだろう。
そう言えばあの時キズハはプリクラがないことだけは残念がっていたな。
その辺も女子高生などを集客できなかった要因かもしれない。
ゲーセンも大変なんだろうな、いろいろと。
どんどん新しいアーケードゲームなどが出るし、種類も多すぎる。
新台を入れるにしても客を呼べるものを選ばなければそこのように潰れてしまうこともあるんだろう。
「今回はちょっとやりたいことがあったから駅東で最大のゲーセン『RireAime』に行ってみようかなーと思ってるんだよー」
「あー、大体やりたいことわかったぞ」
「えっへへー、ずっとほしかったんだよー」
「へいへい、んじゃ案内してくれますか、お姫様?」
「りょうかーい♪ついてくるのです!」
しゅっぱつしんこー、と元気に俺の手を取って歩き出すキズハにまた俺の顔は緩んでいく。
キズハさえ楽しんでいてくれればきっと、俺はどんなところでも幸せな気持ちになれる気がした。
まぁ、今回は俺もとことんキズハと一緒に楽しもう。
そのためにキズハがこうして最初と同じプランでエスコートしてくれるわけだし。
あの時は本当にうまくお互いの楽しめるところに行けたわけだしな。
レイエムは結構有名なゲーセンで、俺があの時調べた時の候補にもなっていた。
ただ、レイエムに行ってしまうと駅東でもちょっと駅から離れているし、その次に映画を観ようと思っていたので却下したのだ。
駅西の映画館が大きくて有名だし、せっかくミヤトは駅の東西に広くアーケードが開かれているのだからどちらも行こうと思っていたのである。
今回のようにレイエムに行くのだとしたらその近くにある映画館に行く方がいいだろう。
わざわざ東側に歩く時間をとるより移動は最小限にした方が楽しめるはずだ。
いや、話をしながら歩くのも楽しいのではあるけどな。
だが映画は時間もあるものだし、それでゲーセンの時間を削るよりはその方がいい。
レイエムまでの道はやはりずいぶん人が多かった。
お昼前だし遊びに来ている人が多いのだろう。
やっぱり中も混んでいるんだろうなと思いつつ二人で扉をくぐる。
レイエムの中は外に比べると比較的空いているようだった。
ちょっとこの時間に人が少ないと言うのは心配になるが。
とは言え人がひしめき合っていないと言うだけで十分人は入っていた。
「あ、あれだよあれー!」
「オイオイ、そう急がなくても逃げはしないぞ?」
キズハが俺の手を引いたままとある一角へと走り出す。
そこはやはりプリクラの集まったコーナーだった。
前回も撮りたがっていたし、そうだろうなとは思っていたが。
今まで二人で撮ったことがない。
二人で来たときはあまりゲーセンに行かなかったし、行ったとしても他の人と一緒だったりで二人で撮ったプリクラはなかった。
「どれにするんだ?」
「んーとね、あ、あれあれっ!全身も入るやつー♪」
「あれか」
行ってみると女子高生が数人並んでいる。
きゃいきゃいとかしましく手帳を見せ合って騒いでいた。
全身プリクラはどうやらここでは二つしかないらしい。
おかげでどちらも結構人が並んでいる。
普通のプリクラより時間がかかるのか、回転が遅いのも原因なようだ。
どうやらつま先まで映る大きめのプリクラ一枚と、通常のプリクラサイズを六枚がセットになっているタイプのようで、撮影が七回あるため結構な時間がかかるということだった。
撮影後、外の機械で編集などを行い、その間に次の人が撮る、と言った感じなので中で編集などをしないだけましか。
中で編集する機械だと結構長いこと編集していたりする人もいるため、待ち時間が人によってかなり長くなる。
前キズハの友達と一緒に撮ろうと言われたことがあったのだが前の人たちがやたら長くて結局撮るのを断念したことがあった。
「お前も手帳とか持ってたっけ?」
「持ってるけど今日は持ってきてないよー」
「なんで持ってきてないんだ?」
「んー、だって、他の人と撮ったプリクラとお兄ちゃんと二人で撮ったプリクラを一緒にするつもりないもん」
「……それは俺喜んでいいのかなんなのかわからんのだが」
「特別なのです!」
「なら、まぁ、サンキュ」
こんだけ想われてて良いんだろうかと、少し、心配になる。
俺が本当に先に死んでしまったりしたら、キズハはどうなっちゃうんだろう。
それを思うと胸が苦しくなって、生きなきゃなと思った。
俺はそう簡単に死ぬわけには行かないのだ。
キズハのためにも。
笑い声とともに前の女子高生たちが中から出てくる。
そして編集機械に行ったところで俺たちも中に入った。
「こういうの久々だな」
「そういえばそうだねー。フレームどうしよう?」
「キズハが好きなの選んでいいぞ」
「えー、うー?」
そう言いつつ結構ノリノリでいろいろと見ていく。
ぱっと見ではスタンダードなものが多いように思えた。
あんまり変わったものはないがデザインとしてはまぁ、普通か。
全身撮るからあんまりフレームはこだわりポイントではないのかもしれない。
「これかこれ!お兄ちゃんはどっちがいい?」
「あ?このどっちかで選べと?」
「うんうんー、お兄ちゃんがわたしの好きなの選べって言ったんじゃん」
「まぁそうだけど、なぁ」
キズハが選び出したのはやはりと言うかなんと言うか、ピンクのリボンに囲まれて下の方でリボンがハートになったものと、ハートが雨のように降り注いでいるものだった。
これ選べってか……?
どっちにしろ残るものだしなぁ。
もう照れとか恥ずかしさとかは忘れるしかないのだろう。
「んじゃ、こっちのリボンのやつかな」
「はいはーい、わたしもこっちのがいいかなーと思ってたんだー♪」
「デザイン的にはやっぱそっちのが良さそうだしな」
キズハが決定ボタンを押すと撮影準備に入る。
どうやらフレームは毎度撮る前に設定する感じらしい。
「この辺かなー?」
「だな、この辺で二人入れるっぽい」
ちょっと後ろに下がるとアナウンスが流れ始めた。
三、二、一、
そう数えて、撮る直前にキズハの手が俺の腕に絡みつく。
驚きそうになった瞬間にシャッターが切られた。
「オ、オイ、キズハ……」
「えっへへー、良い感じだねー♪」
「最初からこれとかあとが思いやられるんだが……」
なんか嫌な予感しかしねー。
そんな感じでキズハに振り回されつつも順調に撮影は進んで行き、次がラストになる。
「ラストのフレームはこれー♪」
「やっぱりそのために取っといてたんだろうとは思ってたけどな?」
微妙にぐったりしつつ、なんだかんだで画面に映っている俺の顔は笑っていた。
あー、そうだよなー。やっぱ楽しめてるわ。
「始めるよー?」
「りょーかい」
そして撮影準備が始まり、アナウンス。
三、二、
「お兄ちゃん」
もうほぼ時間がないのになんだ?と思って少し顔をそちらに向けると、
顔がキズハの手に引かれて――
一、
――ちゅ
シャッターが切られて。
終了の案内が流れ出すまで、キズハは俺を離さなかった。
「お兄ちゃん、好き、だよ?」
「お、前、な……」
動悸がするなんてレベルじゃなく心臓がバクバク言っている。
プラネタリウムのときよりもっと、強い印象。
しかも、このタイミングでそれを言うかよ。
言うなよ、もう、俺耐えられなくなりそうなんだよ。
「終わってるみたいですけどまだですかー?」
外からの声に俺たちは飛び上がる。
「あ、すみません、今出ます!」
「ご、ごめんなさーい!」
キズハの頭をくしゃくしゃと撫でながら外に出る。
まだ後ろには結構人が並んでいて。
もしこのプリクラ見られたら、ヤバいんじゃないかと思った。
てか声聞こえてなかっただろうか?
キズハが耳まで真っ赤にしながら機械を操作しているのを後ろで見ながら耳を澄ます。
中で何か話しているのは聞こえるがあまり何を言っているのかはわからない。
これなら良いか、と少しだけ安心した。
キズハは微妙にこちらを気にしながらプリクラを編集していく。
キズハの友達と一緒に撮っていた時は結構編集に時間がかかっていたが今は特に時間も掛からずに編集を進めていっていた。
あまり描いていないというわけでもなさそうなのだが。
筆に迷いがないと言うかなんと言うか。
最初から描くことを決めていたのかもしれないな。
「終わった、よ」
キズハが取り出し口からプリントされてきた二枚のシートのうちの一つを俺に渡す。
「サンキュ」
「怒って、る……?」
ちょっとビクビクとした感じのキズハが上目遣いで俺の裾を引いていた。
「怒ってねーよ。驚いてるだけだ」
「ごめんね、やりすぎた、かも」
「別にいい、そんなの気にすんな」
もう一度キズハの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「うーあー、髪の毛くしゃくしゃになっちゃう~」
手櫛で整えようとするキズハの手を押さえて、俺の手でキズハの髪を整えてやった。
「うれしいんだよ、ホントはな。でも、俺はそれを口にすることができないだけだ。すまんな」
「……ううん、いいよ。お兄ちゃんはいつもわたしのこと考えてくれてるの、わかってるし」
「サンキュ。楽しかったぞ、プリクラ撮るのも。また二人で撮るのもいいかもな」
「いいの!?だったらお兄ちゃん専用のぶあっつい手帳買うよ!?」
「そ、そこまで来るのか……?」
自分で言って微妙に後悔した。
だがそれだけでこれだけ喜んでくれるキズハが愛おしくて、まぁ、いっか、なんて思う。
俺自身もなんだかんだでこのプリクラには全部、笑顔で映っていたわけだから。




