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浅葱の吟唱  作者: 九音さゆさ


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ココロ編11

心地よいぬくもりに満たされている。

自分が在るためだけにそこは存在しているのだと理解した。

すべては自分のためにあるとさえ思えてしまう。


しかしそれはただの錯覚で。

その心地よさは終わりを告げつつあった。

狭いところにだんだん押し込められていく。

苦しい、もうやめてくれ、そう叫びたかったが声すら出せない。

頭からだんだん冷たい空気にさらされていった。

まだ目覚めたくない。外に出たくなんかない。ずっとここにいたいんだ。


そう願っても押し出される力は強く、抵抗も空しく俺は外に出た。

あぁ、そうだったんだな。

これは、そういうことだったんだな。

すべて、そのために。だから、お前は――






「――っくしゅん!!」

自分のくしゃみに驚いて目を見開く。

また夢かよ。意味不明すぎてどう反応したらいいのかわからねぇ。

ため息を吐きつつ時計を探した。

暗くてよく見えない。


「暗い……?」

ぼんやりと窓の方を見る。

差し込んでくる光は少し離れた位置にあるコンビニや街灯の光だけだった。

つまりはどういうことだ?

いや、考えるまでもない。

寝ぼけた頭でもさすがにわかっていた。

まだ日が昇っていないような早朝だということだ。


目が慣れてきて時計が見えてくる。

暗闇で薄ぼんやりと光る針が指す時間は午前五時ほど。

二度寝するにはさすがにちょっと微妙な時間だった。

何時から出るかわからないが遠出するとすれば七時前には起こされるだろう。

今から寝てもあんまり意味がない気がする。


仕方がないので起きておくことにするか。

それにしてもなんでまたこんなに早く目が覚めたんだか。

俺にしては珍しいと言うかむしろありえないとさえ言えるほどだ。

まさかなんだかんだで俺ものすごく楽しみにしていたりするんだろうか?

自分ではいまいちよくわからなかった。

いやまぁ、確かに楽しみではあるのだが。


起き上がってとりあえず支度をしていく。

自分の中で一番気に入っている服に着替えてみた。

シルバーアクセなどが好きなので黒っぽいジーンズにチェーン、ジャケットもそれに合わせたもの。

胸のところの三連リングが個人的こだわりポイントだったりする。

髪の毛をテキトーに何度かセットして結局いつも通り後ろでひとくくり。

左耳に星のピアス、左に月のイヤーカフスを着けて鏡で確認してみた。

うむ、まぁこれなら恥ずかしくないだろう。


あとは財布と携帯とデジカメくらいがあればいいか。

しかし、どこに行くんだろうな。

俺の方は正直別に行きたいところがあるわけでもない。

キズハの行きたいところに付き合うつもりだが。

こういう時のキズハは行き先までしっかり考えてある場合とまったくのノープラン、二通りあるからな。

まぁ、楽しめれば別に細かいことはどうでもいいんだが。









しかし階段を降りていく間に何か違和感を感じる。

おかしい。

こんな時間だってのに下から何か物音がする気がするのだ。

気のせいだと思いたい。

しかし、明らかに感じる振動。

オイオイ、勘弁してくれよ。

なんだってこのタイミングで何かが起きるんだ?


せっかくこれからキズハとのデートだってのに、このタイミングで侵入者?

冗談じゃねぇよ。

どうする?下手に出て行って襲われたら俺に対応できるのか?

しかし、放っておいてキズハが巻き込まれたら最悪だ。

例の猟奇殺人鬼だろうか。

だとするともしかしたら一人しか殺さないかもしれない。


いや、それでも殺されてたまるかよ。

ただの強盗って可能性もある。

だがなんにしろ危険なのは間違いない。

じゃあどうすんだよ。

このまま様子を見るか?

それより先手を打った方が可能性は高いと思う。

一か八かで賭けてみるしかないか。



階段を静かに降り切って耳を済ませる。

音はどうやら居間の方から聞こえるようだった。

居間はまずいな。広すぎるのだ。

もっと狭い部屋だったら入ってすぐ飛び掛ればいい。

しかし、居間は位置を特定することすら難しいだろう。


じゃあどうすればいい?

考えろ、シズク。位置を特定できない危険な相手に対してどうすれば隙を突ける?

向こうは当然警戒しているだろう。

そんな相手を出し抜いて俺がなんとかできるとしたら。

動きを止められればなんとかなる、かもしれない。


動きを、止める……?

あぁ、それだ!その手があるじゃないか!

俺は運がいいかもしれない。

ちょうど俺は対応できる策を持っているじゃないか。

これならきっといける。



居間の扉の脇に立って息を整える。

行ける、行けるはずだ。落ち着いて行けば大丈夫だ。

そう言い聞かせて、扉に手を掛けた。

すぅ、と息を吸って、


「こっちを見ろ!!」


パシャッ、と室内にデジカメから放たれる激しい光が満ちる。

そして、俺は飛びかかろうとして、


ばふん、と攻撃を喰らって呆けたままその相手の姿を見つめてしまった。







電気がついている。

ぶっちゃけた話突入した瞬間変だなーとは思ったのだ。

うちの家はガラスが割れるとセキュリティで大きな音が鳴る。

しかしそんなもの鳴っていないし、玄関の鍵だって別に壊されたりしていなかった。


「……反省した?」

「猛烈に反省と後悔している……。すまん」

キズハによって床に正座させられた俺は苦渋をにじませながら真面目に謝る。


「理由はわかったけどさ、もうちょっと周りを見て考えればわかったことだよね。それに、一人でそういう突っ走ったことをしてお兄ちゃんが死んじゃったらどうするの?」

「返す言葉もない……」

簡単に説明すれば、キズハはもうすでに起きていて、居間で着替えをしている最中だったのだ。

そこに俺は突入した上キズハにこっちを向かせて写真を撮った。

気付いていなかったとは言え言い逃れようがないくらい最低な行為だったというわけである。


クッション一個と正座と説教だけで済んだのは俺の日ごろの行い故だそうだ。

俺が普段から理性によって兄としての意志を保ち続けてきたからこそ俺の言葉を信じてくれたらしい。

マジでわざとではなかったのだから本当にありがたいが日ごろの行いって大切だなと思い知らされた。

ちなみにカメラは取り上げ済みである。当然だが。

ちょっと惜しい気もする、と思ってしまう俺が情けない。

でも男なんだ……、しょうがないだろ。



「しかしお前えらく起きるのが早いじゃないか」

「お弁当作ってたからねー」

「あぁ、なるほど。なんかいい匂いがすると思ったらそれか」

「それよりお兄ちゃん、わたしが起こさなくても起きてくるとかもしかして寝てないの?」

そう来たか。いやまぁ、普段の俺を考えればそうなるわなぁ。


「いや、普通に目が覚めた」

「そんなわけないじゃん。なんでそんな嘘吐くのかな?」

ものっそい良い笑顔で聞かれた。

でも目が笑ってないよ。マジで怖いからやめて。

「すまん、これガチなんだ」

「そんなわけないじゃんそんなわけないじゃんそんなわけないじゃん!!大事なことだから三回言いました!で、本当はなんなの?本気で寝てない?」

落差が激しすぎてどん引きです。いや、原因は俺だけどさ。

因果応報とはこのことか。

日ごろの行いってマジで大切だなー。


「すまんなキズハ。本当に目が覚めたんだよ。俺もなんでかわからん」

「え?ホントにホント?あのお兄ちゃんが?自分で起きれたって?」

「自業自得ではあるんだがその反応は割りと傷付く……」

「だってお兄ちゃん自分で起きれたことないじゃん」

「休みの日は起きるぞ!」

「昼過ぎにね。それって起きれたって言えないし」

「ごめんなさい起きれたことありませんいつもありがとうございます」

平謝りだった。

自分のことながらマジで情けないことだが朝はホントどうしようもない。

いや、普段から俺って結構めんどくさがりだっけ。

ダメじゃん。


「起きれるなら普段もちゃんと起きてよねー」

「できれば俺も起きたい」

「できたんでしょー?」

「まぐれだ!」

「自分で言うなし」

「面目ない」

自分でも本当になんで起きれたのかわからないから再現は難しいしなぁ。

悪夢を見ていた、とか?

なんか夢を見ていた気はしたんだが結局こう、起きてからちょっと時間が経つともうほとんど忘れてしまう。

まぁ、夢ってそういうもんだが。



「もういいから朝ごはん食べよっか。予定外だけどお兄ちゃんが起きてくれたこと自体はいいことだからさ」

「そうだな」

キズハに手を差し出されてその手を取りながら立ち上がる。

「さっきは本当にすまなかったな」

「いいよー、わざとじゃなきゃね。お兄ちゃんはわたしを守ろうと思ってしてくれたんだろうし」

「あー、まぁ、無茶はしないように注意することにするわ」


あぁ言う場合はキズハを連れて一旦家を離れるとかが正解なんだろうな。

ガラスを割って入って来たなら警報ですぐに近隣の警察とかが来てくれるだろうし、そうでないなら俺自身が連絡すればいい。

自分でなんとかできるだなんて過信してはいけないのだ。

緊急事態の時人は冷静ではいられない。

そういう判断は命取りになる。

今回よく思い知らされた。


ちょうどこっちを見ていたとは言えキズハで反撃できてしまうわけだ。

そんなの例の猟奇殺人鬼なんかには絶対に効かないだろう。

俺は甘く見すぎていた。うぬぼれていたのだ。

俺に何か出来るだなんてそんな甘いことを考えていてはいけない。

それでは誰も守れるわけがないのである。

誰かが侵入していたのではなくキズハで本当によかった。



今日の朝食はスクランブルエッグとウインナー、オニオンスープにトースト。

オニオンスープは昨日の夜の残りである。

「いただきます」

「いただきまーす」

スクランブルエッグとウインナーをトーストにはさんでかぶりついた。


一瞬だけニュースを見ようか迷う。

しかし、今日はやめておこうと言う結論に至った。

きっとここで見てしまったら俺はまたふとした拍子に猟奇殺人鬼について思い馳せてしまうだろう。

キズハとのデートなのにそれはさすがにまずいと思う。


今日はそういうのなしでとことんキズハと二人で楽しんでやろうと思っていた。

だから、ニュースは見ない。

これからあの事件がどう発展して言ってしまうかもわからないのだ。

そうなれば次いつこうして休日に出かけることができるかわからなくなってしまう。

そうでなくともキズハが言い出してくれたことだからな。

やっぱり楽しませてやりたい。

もちろん俺も楽しみながら。



「そう言えば聞いてなかったが今日はどこに行くつもりなんだ?」

食事を終えて食器を片付けながらキズハに聞いてみる。

これまでその話をしてこなかったと言うことは俺に期待しているのか内緒にするつもりなのかどちらかだろう。

まともな返答は返ってこないだろうなとわかりつつも聞かずにはいられない。


「えっへへー、それはお楽しみなんだよー」

「そっか。んじゃ楽しみにしとく」

プランがあるならキズハに任せておけばいいだろう。

正直俺に期待されても困るのでこうしてキズハが考えてくれる方がありがたい。


さて今日俺はどんだけ振り回されるんだろうな。

きっとめちゃくちゃ疲れるだろうことは間違いなかった。


けど、それはとても幸せで、うれしいことだと思う。

振り回されることもたまにはいいじゃないか。

疲れることすら楽しんでやろう。

二人で目いっぱい、一日遊び尽くして、笑い倒してしまおう。

最近の陰鬱な空気すらふっ飛ばしてしまうくらいに明るい笑顔で。

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