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浅葱の吟唱  作者: 霧間ななき


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ココロ編01

――   ――


赤い。

紅い、赫い、緋い、赤い。

この世のありとあらゆる『アカ』をぶちまけたようなセカイ。

周囲には『アカ』以外の色などないとさえ思えるほどにアカかった。

『アカ』は好きだ。鮮烈で目に焼きつく。

オレの最初の記憶も『アカ』でできていた。


だが、これはやりすぎだ。

アカしか存在しないセカイと言うのはコレほどまでにキモチがワルいのか?

のどの奥からアツいものがこみ上げてくる。

思わず飲み込んで荒いイキを吐き出した。

「――かはっ、あが……」

うまくイキができない。

のど奥にに張り付いたナニかが呼吸を妨げる。


周囲の鉄が乾いていくような、ニクがこぼれオチたような、あまったるい匂いが鼻をつく。

キブンがワルい。

目を閉じようと思ったが思うように顔の筋肉も動かなかった。

仕方がないのでもう一度大好きな『アカ』を見る。


ソレらは時々ビクン、ビクンと脈動していた。

自分の体内にもこんなものがあると思うとキモチがワルくて笑えてくる。

笑おうと思ってのどを鳴らした。

酸っぱい味しかしない。嘔吐物が口の端からこぼれ落ちていく。

ソレを服で拭い取って自分の身体を見た。



「――くふっ」

楽しくなってくる。

自分の身体に巻きついたひも状のソレはヒトの内臓だった。

小腸や大腸、膨らんでいるのは胃だろうか。

目の前にいる人の残骸からオレが引きずり出したモノ。


「くふふふっ」

オレの全身で少しずつ乾いて行くのは血液だった。

人が最後に残すぬくもりをオレは全身に浴びながら、内蔵を身体に巻きつけて暖を取る。

「あったかい。人ってこんなにあったかいんだぜ?知ってたか?」

近くにやってきていた猫に声をかけた。

猫は驚いたのかびくりと身体を震わせて去っていく。

猫には理解されない趣味らしい。

けれど別にどうだってよかった。

ココロが満たされていく。


オレはヒトリじゃナイ。

このセカイでヒトのヌクモリをカンじながら、ジブンのカラダをダキシメる。

ソラさえもオレをシュクフクしてクレるかのようにアカいツキをヨウしてスベテをアカにソメあげていた。

サイコウのキブン。

コレイジョウにナイほどにオレはココロがミタされたまま、このアカのセカイでただヒトリ、ワラッテいた――
















                第一章

             《 『ココロ』 》



―― ○ ――


――ジリリリリリリリ

夢を見ていた。

目覚ましの音で意識が少しずつ浮き上がりながらよくわからない倦怠感に襲われる。

まだ眠い。今は十月後半。もうだいぶ布団が恋しい季節だ。

布団の外は寒いから出たくなかった。

意識はだんだんはっきりしてくるが起き上がる気力が起きない。

特に秋と春は血圧の変動が激しいのか体調がかなり悪かった。

元々朝は苦手である。低血圧らしくてどうにも身体が動かないのだ。


しかし不快なベルの音はずっと続いている。

アナログ式の時計で止めるまでずっと鳴り続けるタイプ。

妹の趣味で水色でハートのマークの入ったかわいいデザイン。

向こうはピンク色でデザインは左右対称になっており、くっつけるとひとつのハートになる。

オイオイと突っ込みたくなったが喜ぶあいつを見ているとなんだか止める気も失せてしまった。


「しゃーない、起きるか……」

うるさいし起き上がらないと止められない位置に置いてあるのだ。

そうしないと俺は二度寝してしまうからなのだが。

起き上がろうとしてうつぶせになって手を突き、力を入れた瞬間――


「お兄ちゃん、起っきろー!!」

ドーン、とドアを大きな音を立てて開き、一気に俺のベッドまで飛び込んできて布団に馬乗り。

おかげで俺は力を入れかけた腕が押しつぶされて無理にベッドに押さえつけられた。

「うぐっ」

「お寝坊さんなのはしょーがないかもしんないけど平日は起きないといけないんだぞー?ガッコもあるし早く起きてよー。起きないともっかい飛び込むよ!」

「キ、キズハ、起きて、る……」

ちょうど腹のところに乗られたため結構なダメージを受けつつ追撃されてはたまらないので布団の中からぽむぽむと妹、キズハの腕を叩く。


「……大丈夫?悪夢でも見た?」

悪夢はお前だ。口にはしないがそう言いたかった。

「大丈夫だから、退いてくれ……」

「なんか苦しそうだけど何かあったの?」

キズハは心配そうにぼくの顔を覗き込んでくる。

お前のせいだけどな。飛び乗るとか軽いお前の身体でもきついっつの。

しかしその顔を見ると結局なんでも許せてしまうのが不思議だった。


「なんでもねーよ。ふぁーあ、夢とか忘れちまったわー」

朝から衝撃的な目覚まし攻撃を受けたからな。

「わたしはお兄ちゃんの夢見たよー」

「そりゃよかった。じゃあ夢の中の俺がキズハにしてやったことを今からここでしてやろう」

「え?えぇ?ちょ、ちょっと待ってね?心の準備がっ」

心の準備がいるようなことなのか?

しかしそれならばその期待は叶うことはないな。


キズハにゆっくりと手を伸ばしていく。

緊張した面持ちで目を瞑ってしまうキズハ。

何を期待しているんだろう、こいつは。

そう思いつつキズハの頭をつかむようにして――

「とりゃっ」

「へぁっ?」

すぱっと俺の手がキズハの頭を通り過ぎた。

次の瞬間、キズハが間の抜けた声を上げる。


「わたしの髪型勝手に変えないでよ~!」

「ふっ、自分の才能が憎いぜ」

「笑ってないで直してよー!」

そう言いながらぼくに詰め寄るキズハの髪の毛はツインシニョンになっている。

普段はツーサイドアップかツインテールにしている髪型を変えてやったのだ。

朝の恨み、晴らしてやったぜ。

……ぜんぜん許せてねぇじゃねぇかよ。自分でやっててなんか情けなくなるくらいの八つ当たりだった。


「ほい」

ぽむ、と頭を叩いた瞬間にはキズハの髪型は俺が手を加える前と同じツーサイドアップになっている。

「相変わらずすごいデザイアだけど、いたずらに使わないでよねー?」

「悪い悪い。でもいきなり飛び乗るお前が悪いんだぞ?」

「起きないお兄ちゃんが悪いんだもーん」

むすーっとしたキズハに対して俺は返す言葉をなくした。

まぁ俺が悪いのは確かなのだから。


先ほどやったのは無理な髪型はできないのだがある程度ならばほぼ一瞬でセットできるという変な特技。

将来美容師になろうとしているために覚えた特技なのだがその速度からかキズハや友人たちからはデザイアではないかとまで言われている才能だった。

違うんだけどなーと思いつつ説明するのもめんどくさいのでそのままにしている。



「じゃあお兄ちゃん、いこっか♪」

「おー、んじゃいってきまーす」

支度を終えて二人で連れ立って家を出た。

隣を見るとブレザーのリボンを直しながら歩き出すキズハ。

漆黒の綺麗な長髪がキズハの動きに合わせてゆれながら光を振りまく。

白く透き通った肌とその黒髪のコントラストがとても美しく、幻想的な雰囲気すら作り出していた。

薄紅のぷっくりとした唇に綺麗な卵形をした輪郭で、全体的に小さい印象。

背も俺よりだいぶ小さくて、とにかく全体的にかわいいと思っている。


家系的なものなのかキズハはかなりかわいい部類に入る容姿をしていた。

母方の家系の女子は皆かなりの美形なのだ。

キズハは美人と言うよりは美少女といった感じでかわいらしさが前面に出ているが。

ひいき目に見ているつもりはないのだがそれでも、そうそう見ないほどのかわいさだと思っていた。


比べて自分はアルビノのため白髪に肌も白い。瞳も灰色で全体的に色という色が失われている。

とは言え俺も母方の顔らしく女顔だった。

そのせいでどう見てもキズハと兄妹にしか見えないのが少し嫌だと思ったこともある。



要するに。

俺はキズハのことが好きで好きでたまらないということなのだ。






家から歩いて三十分ほどのところにあるのが私立セイソウ学園。

俺たち兄妹の通う学園だった。

キズハのおかげで毎日遅刻することもなく皆勤できている。

そうでなかったらこんなに距離のあるところじゃ間違いなく遅刻してしまう。

走っていくには距離がありすぎるからな。


「はよーっす」

「おはよー」

教室に入ると古くからの友人であるコノカが本を読んでいたので挨拶をして目の前の席に着く。

「おはよう、二人とも」

「それじゃ昨日の続きをするか、コノカ」

「なになに?お兄ちゃんとコノちゃん何かやってたの?」

挨拶のあと再び本に目を戻してしまったコノカの目の前で手を組みながらにやりとして言った。

すると気になったのか俺の隣の席のキズハがずずいとこちらにイスを近付けてくる。


「なんの話をしているんだよ……」

コノカが意味がわからないと言う表情でこちらを見てきた。

それもそのはず、昨日は何もやっていなかったので続きなんて別にない。

「何を言っているんだねコノカ君!もう忘れてしまったと言うのか君は!あんなにも熱い約束を交わしたというのに!」

「交わしてねーです。ノリだけでしゃべらないでくれる?わけわかんないからさ」

「そう、あれは十年前の夏のこと……」

「昨日の話なんでしょ!?なんで十年前の夏に飛んだし!」

「いくら本を読んでいる最中でもこうやっていい反応を返してくれたあの親友のことを俺はいつまでも忘れないぜ……」

「遠い目をして外見てんじゃないよ!勝手に殺すな!?目の前にいるだろ!」

「くっくっく、調子出てきたな。本当に調子良さそうでよかったよ」

コノカはかなり重大な身体欠陥を持っており、体調が日々変わってしまう。

そのため元気のない時はここまで付き合ってくれないのだ。

昨日は少し調子が悪いようで元気がなかった。


「はいはい、調子良いよ。心配してくれてサンキュ。昨日は迷惑かけた」

「迷惑じゃねーよ。お前が悪いんじゃねぇだろ、デザイアなんだし」

「もっと役に立つデザイアがよかったよ」

「ふっ、俺みたいなのとかな!」

「いらねー」

くくく、とコノカが笑ってくれて俺も笑う。

それを見てキズハが微笑んでいた。


「二人ともやっぱり仲良いよねー」

「そりゃ大親友だしな!」

「ぼくとしてはこいつとは腐れ縁だと思ってるよ」

「腐っても親友!」

「はいはい、シンユーシンユー」

「心がこもってねー!?」

「あはははは、お兄ちゃん振られてやんのー」

「シズクが悪いんだろ」

鼻で笑われて俺はため息を吐いた振りをする。

ま、実際そんなに気にしていない。

本当は親友と思ってくれていることをちゃんとわかっているからこそできるバカ話だ。




ここいらで俺、アオイ シズクとキズハについて説明して行こう。

兄妹なのに同じクラスなのは簡単なこと。

俺たちは双児だからだ。二卵性双生児。

しかし結構似ているので一卵性だと思われることもしばしばだった。


俺たち兄妹は現在十六歳で二人暮し。

両親は健在だが少し遠くなので中高一貫校であるセイソウ学園入学と同時に俺たちは二人暮しを開始した。

アオイ一族は割りと古くから栄えていた一族らしく、各地に別宅のような家があり、その一つに俺たちは住まわせてもらっている。

それ故に一軒家に住んでいるのだった。


コノカとは幼馴染と言うことになり、小学三年くらいで転校していったのだがセイソウ学園で高等部に編入してきたため再び一緒になり、仲良くやっている。

離れている間もメールのやり取りなどをしていたし、ブランクなく話せていた。



つらつらと考えていく内に授業が始まる。

国語の授業は苦手だった。言葉なんて習ってどうするんだろう。

よくわからないからいつもぼんやりと外を見ていた。

窓際の席だからばれないように覗ける。

外ではサッカーをする生徒たち。

体育は楽しい。身体を動かせるのってやっぱいいよなぁ。


まぁ、あれも授業としては疑問ではあるのだが。

身体能力ってやっぱ個人差があるのにどうやって成績つけるんだろうか。

運動ぜんぜんできないやつはいつも成績低くなる?

そういうわけでもないみたいだからよくわからなかった。


「シズク、授業受けなよ」

後ろの席のコノカにシャーペンで突付かれる。

「しゃーねぇなぁ」

一人の生徒がサッカーボールを高速でゴールポストにぶつけてボールを破裂させているのを横目に授業に戻った。

教室の中の光景をちらりと見回す。


やっぱり、変だった。

いつ見ても変だ。

何が変なのかと言えば、みんな変なのである。


机にくくりつけられたまま浮いている生徒。

席と色が同化して姿がなくなっている生徒。

明らかに老人にしか見えない姿をした生徒。

考えすぎで空気中の湿度を上げている生徒。

あくびをする度に泡を出し続けている生徒。

その他それぞれ授業中だというのにいろいろな現象が起きていた。


そう、普通の人がほとんどいないのだ。

先ほどのサッカーをしていた生徒も同じ。


この世界にはこうした『デザイア』と呼ばれる異能力を使える人が普通に存在しているのだった。

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