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第2話 闇に潜む影

イメージとしては前話1話がアニメ前半部分、この2話が後半で、2話でアニメ1話分の感覚で執筆しています。

今回は騎士団の暗部が出てきますが、残酷描写、グロ描写一切なしで咎華は進んでいきます。

 ノア連邦の首都セラフィアの夜の街に浮かぶ、一際高い高層ビル。その最上階にあるVIPルームは、豪奢なシャンデリアと深紅のカーテンに包まれ、街の一般社会から切り離された別世界だった。

 大理石のテーブルを挟んで、二人の男がグラスを傾けている。


 ひとりは、ノア連邦だけでなく外国の政界にも顔が利く犯罪組織のボス。

 もうひとりは、ノア連邦で幹事長を務める有名な政治家だ。

 目の前には積まれた札束が光を反射し、酒の香りに混じって不正の臭気が漂っていた。


「これで約束通り……我々のシマには、手を出さないってことだな。」


「フフ、ノアの法律なんて形ばかり。 

 私の一声で全部うまくいく。」


 二人は下品な笑みを交わし、再びグラスを打ち合わせた。

 その瞬間――


 シャンデリアの明かりが破裂音と共に消え、部屋は闇に包まれる。

 息を呑む間もなく、影が走った。


「な、なんだ!?」


「照明をつけろ!!」


 護衛たちが慌てて銃を構える。

 だが、闇の中を走る黒い影の前にそれは無意味だった。


 三つの影が華麗に舞うかのように敵を沈黙させる。


 刀を鞘から抜く音と同時に、一人が崩れ落ち、青い残光を散らした。


 瞬きをする間もなく別の護衛は盾の一撃の衝撃を受け、重い音と共に床に沈み、三つ目の影はこの部屋中を縦横無尽にアクロバットに舞い、閃光が銃声と共に射出され闇を裂き、的確に敵の急所を射抜いていく。

 護衛達は次々と膝を折りながら倒れ、あっという間にこのVIPルームは制圧された。



 静寂が訪れる。

 割れた照明の残骸が床に散らばり、予備灯がようやく灯った。

 闇を割る白光の中に、黒革の軽装鎧をまとう三人の姿が現れる。


 刀を収め、鋭く冷徹な蒼瞳で残りの二人、犯罪組織のボスと政治家を真っ直ぐ睨む、長い金髪を後ろに束ねた男、蒼井レイモンド。

 その横顔は氷のように静かで冷たい、ただ揺るぎない信念を宿しているような凛とした雰囲気だ。


 重厚な騎士盾を片手に、周囲を冷静に見渡す黒い肌の男はエリック・モーガン。

 戦いの場に身を置きながらも、どこか軽やかな余裕が漂っている。


 そして銃口を下ろし、金属の冷たさを確かめるように指先で撫でる闇に溶け込むような藍色の髪の乙女、セラ・アルバーノ。

 その瞳は淡々として、情も容赦もなく、ただ目の前の標的だけを見据えていた。


 三人は無言のまま、恐怖に凍りついた二人の標的を見下ろしていた。


「ひ……ひぃ……。」


「ま、待て……! お前達が何者かは問わない!

 望みのままの金を払おう…。 それでどうだ!」


 怯える声が、豪奢な空間を滑稽に響かせる。


 蒼井は刀を収め、冷徹な眼差しを向けた。


「お前たちの罪は、法や神は見逃しても……俺たちが許すことはない。」


 セラが銃口を二人に向ける。その眼差しは微塵も揺るがない。


「害虫は死になさい。」


 光弾が二つ、淡く閃いた。

 男たちは声を上げる間もなく崩れ落ち、その命の灯はあっさりと消えた。



 静かな余韻を破るように、エリックがため息をついた。


「まったく、悪党の掃除はいつまで経っても終わらないな。」


 蒼井は窓の外に広がる夜景を見下ろし、低く呟く。


「……この国も怪しくなってきた。

 奴らが本格的に動き出している証拠だ。」


 セラは可愛らしい顔に似合わず、冷酷さの抜けない表情を浮かべたまま言葉を続けた。


「害虫駆除が出来るなら私は何だっていいけど…。

 さぁ、帰りましょう。二人の仕事も気になるし。」


 セラは銃で窓を割り、三人共に煌めく硝子片と迷いなく闇夜の空へと飛び降りる。

 風に溶けるように、その姿は消えていった。



 *****


 騎士団の本拠、荘厳な城のさらに地下深く。

 そこには、ごく限られた者しか存在を知らぬ、もうひとつの拠点があった。

 表の騎士団が「秩序」を掲げるなら、ここはその影に潜む「闇」。

 表舞台では決して裁かれぬ罪に手を下す、騎士団の暗部達の秘密の本部だった。


 特殊素材の壁に、魔導回路の青白い光が脈打つように走り、静謐な空気を漂わせていた。


 その一室ではユミナ・クロフォードが精密コンピューターのモニター群に向かい、指先を滑らせる。


 長く流れる栗色の髪に青いリボン、その柔らかな揺れが冷たい機械の空気に不思議な温もりを与えている。

 穏やかなその顔は、誰もが警戒を解くような優しさを宿していた。

 だが、背筋を伸ばした姿勢や、落ち着いた仕草の端々からは、芯の強さと確かな自信が滲んでいた。



 そこへ、扉が開く音。

 蒼井レイモンド、エリック、セラの三人が任務を終えて戻ってきた。


「おかえりなさい。お疲れ様。」


 ユミナは柔らかな微笑みを浮かべる。


「ああ。……そっちはどうだ?」


 蒼井が低い声で問う。


 ユミナは画面を切り替え、浮かび上がるデータを示した。


「やっぱりここセラフィアでも、魔素がゆっくりと拡大しているの。しかも、その性質は今までと全く違う。」


「どういう風に?」エリックが顎を傾ける。


 ユミナの指がキーを叩き、グラフが波打つ。


「これまでの魔素は人の負の感情を増幅させるだけだった。でも今回は違う。負の感情をさらに濃く、強く歪めて……そして悪魔そのものを引き寄せる。まるで悪魔を誘うフェロモンみたいに。」


 セラが小さく笑う。


「それじゃあ、僕達の戦いもこれまで以上に激しくなるってことね。ふふっ……良いじゃない。」


 蒼井は刀の柄に触れ、眉をひそめた。


「悪魔そのものとの戦いになるのか。……厄介だな。」


 エリックが口を開く。


「ユミナ、カイルはまだ仕事か?」


 ユミナはくすっと微笑んだ。


「ええ。私の今の話を聞いて、真っ先に街へ繰り出したわ。もちろん、その前のマフィア殲滅の仕事をすぐに片付けた後でね。仕事が早いよねぇカイル。」


 セラは口の端を歪める。


「ズルいな。あんな臆病なボスや政治家より、カイルの代わりに僕が一人で行きたかった。

 三人で行く必要なかったんじゃない? 護衛も皆弱かったじゃん。」


 エリックが苦笑を漏らす。


「おいおい、遊びじゃないんだぞ。それに、そういう荒仕事はカイルに任せるに限る。」


 蒼井は静かに全員を見渡した。


「俺達もカイルに続いて街に出る。……それぞれ別れて、悪魔の痕跡を探るとしよう。ユミナも頼む。」


「うん!ちょうど外の空気吸いたかったんだ。

 悪魔退治も頑張らなくちゃね。

 私達、死隠部隊にしか出来ない大事な役目。」


 騎士団の暗部、死隠部隊しいんぶたい

 "隠れる悪に死を与える者達"はそれぞれ動き出し、地下の空間には再び機械音と魔導光だけが残った。



 *****


 雑踏のただ中、互いを見つめ合う。

 シュウは心臓が早鐘を打つのを抑えられず、頭の中は混乱していた。

 ――どうして周りの人たちは、目の前の彼女を“リエル”だと気づかないんだ?

 そんな疑問が渦巻く中で、それ以上に彼女の美しさに圧倒され、顔が熱を帯びるのを感じていた。


「……あなたって、特別なんですね。なぜかそう感じます。……それじゃあ……。」


 リエルが囁く。戸惑いと、どこか探るような眼差しを向けながら、すぐに踵を返そうとしたが、シュウは思わず声を張り上げた。


「あっ! ちょっと待ってください!」


 振り返ったリエルに、シュウは気恥ずかしそうに言う。


「ぼ、僕……ファンです! 握手だけでも、してくれませんか?」


 リエルは一瞬きょとんとし、心の中でため息をつく。

 ――なんだ、やっぱりそれか…。ほんとにこの人が“特別”なの?

 誰かに問いかけるように内心で呟きながらも、表情には笑顔を浮かべた。


「はい…! いいですよ。……ありがとうございます。」


 そう言って駆け寄ると、彼女はシュウの右手を両手で包み込み、その手をシュウの胸元まで上げる。

 温かな感触に、シュウの顔はますます赤くなる。

 リエルはそのまま彼の瞳を真っ直ぐに見つめ、柔らかく微笑んだ。


 ――この目……。

 リエルの心に、一瞬、既視感のような感覚が走る。


「……あなた、アマツ国の人ですよね?」


 唐突な言葉に、シュウは驚き、言葉を詰まらせた。


「……はい。アマツ国が滅びたのは二十一年前ですけど、両親がその前にノアへ移住していたんです。僕自身は二十歳だから……アマツのことは、ほとんど知らないですけど。」


 気恥ずかしく笑うシュウに、リエルは小さく頷いた。


「そう……私も十八だから詳しくはないけど。アマツの文化や人柄は好きなの。だから……純血のアマツ人に会えるなんて、とても珍しい。会えてよかったです!」


 その言葉に、シュウの心は一瞬で弾け飛んだように熱くなる。幸福感で胸がいっぱいになり、何も返せずにただ笑みを浮かべるしかなかった。


 だが、その刹那――。


「……うっ!」


 周囲からうめき声が上がる。

 振り向けば、群衆が次々と胸を押さえ、苦悶の表情を浮かべていた。

 やがてピタリと動きを止めると、赤く濁った眼が一斉にこちらを向く。

 黒いオーラが彼らの身体を覆い、呻き声を上げながら二人へとじりじり迫ってくる。


「な、なんだ…この人達…!?」


 シュウは咄嗟にリエルを庇うように前へ立ち、素手のまま構えた。

 ゾンビのような群衆が一斉に飛びかかってくる――その瞬間。


 褐色の太腕が背後から伸び、轟音と共に一体を殴り飛ばした。

 勢い良く吹き飛んだ群衆が床に叩きつけられ、周囲の空気が揺らぐ。


 振り返ったシュウとリエルの視線の先に立っていたのは、大柄な男。

 黒革の軽装鎧をまとい、長い灰色の髪を後ろで雑に縛り、粗野な雰囲気の巨躯。


「大丈夫か? ガキ共。」


 その大男は死隠部隊のメンバー、カイル・マクレガーだ。雑な物言いをし、拳をゾンビ達へと構える。


 呻き声を上げながら立ち上がるゾンビのようになってしまった群衆。

 まるで痛みを感じていないかのように、赤い瞳をぎらつかせて再び迫ってくる。


「いいねぇ…!十六年前を思い出すぜ!」


 カイルは口角を上げ、楽しげに笑いながら拳を握りステップを踏む。


 ――闇の気配が一層濃く広がる中、突如起こった不気味な戦いが幕を開ける。

ご拝読ありがとうございます。


今回は死隠部隊が登場しました。

彼等は法律やアルカセラフィムの教えに関係なく、独自で裁かれない悪を討つために活動しています。

権力のある悪党と暴徒、悪魔だけでなく、助けが必要な人々にも手を差し伸べています。

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