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第1話 国民的アイドルは目の前にいた

新たに創り直した咎華は全年齢に届けられるように、残酷描写、グロ描写なし、そしてしっかりとメッセージ性と美しい世界観とアクションを感じてもらえるように執筆しました。


ここからが本当の咎華になるように試行錯誤していきます。

よろしくお願いします。

 昼下がりのセラフィア大学のキャンパスは、魔導結界の薄い光に包まれていた。

 近年、ノア=ユナイテッド連邦国内で導入された魔導テクノロジーを使った結界による淡い青の揺らぎが空気の中を漂っているのは、外からの有害な魔素を遮断するためのものらしい。

 学生たちは誰も気に留めず、スマホを見たり、コンビニ袋を片手に歩いたり、いつもの日常を過ごしている。


 暁月シュウもまた、その群れの一人だった。


 講義を終え、食堂横のベンチに腰掛けたところで、友人のタクトがオレンジジュースを差し出してくる。


「おつかれ。お前、今日も途中からボーっとしてただろ。」


「……まあ…。色々考えてたんだよ。」


「考え事って進路のこと?」


 からかうように言うタクトの横で、リナが笑い声を立てる。


「シュウはさ、絶対ギリギリまで決めないタイプだよね。もう二十歳なのに将来白紙とか、逆にすごい。」


「俺だって考えてるんだよ。

 でも…俺はとにかく運がないんだ…。」


 とにかく運がないんだ、というシュウお馴染みの返しをしながらも、胸の奥にはもう成人して進路を決めなければという焦りがあるのを自覚していた。


 周囲はインターンだの資格試験だのと口にしているのに、自分だけが宙ぶらりん。

 夢なんて特になくて、子どもの頃から「普通に楽して生きられればいい。」と思っていたはずなのに――。



 そんな空気を断ち切るように、タクトが声を弾ませた。


「そういやさ!今度リエルのライブあるんだよな!」


 リナがすぐに食いつく。


「やばいよね、チケット倍率。知り合いに当たった子いるけど、自慢されてマジ苛ついたもん。」


「今までにいなかったタイプのクールなソロアイドルだからな。 

 しかもあの歌声、聴いちまったら後戻り出来ないぜ!天国への片道切符さ。」


「ははっ、なにそれ。でもほんと、進路なんかよりライブ行った方が未来開けるんじゃない?」


 二人の会話は次第に盛り上がり、学食のテーブルに置いたスマホでリエルの映像を再生し始める。


 画面の中の少女――リエルは、黒銀の衣装に身を包み、観客の熱狂を背に凛と歌っていた。

 冷たさを帯びた美貌に、どこか人ならざる気高さがある。


「ほら見ろ、完全に女神。こんなタイプなかなかいないぞ!しかも芸能界じゃありえねえ全く人に媚を売らないこの姿勢。」


「もはや悪魔的な魅力だよね。」


「ああ俺、人生で一度は生リエルに会いたい!」


 二人のやり取りにシュウは苦笑いを浮かべる。


「……別に、俺はいいや。」


「出た、興味ないアピール! それカッコつけにもなってないぞ。」


 タクトが大げさに叫び、リナがくすくす笑う。

 けれど、心のどこかでシュウは妙な引っかかりを覚えていた。

 リエル――この顔と雰囲気に、なぜか言葉では表現出来ない違和感に胸がざわめく。



 ******



 友人たちと別れ、シュウはキャンパスの門を出た。

 秋の風が頬を撫でる。魔導結界の青い光が途切れ、 

 街の喧騒が一気に押し寄せてきた。

 大通りは夜になっても眩しい。



「ああ……俺だけ、取り残されてるみたいだ。」


 タクトもリナも、未来に向けて着実に動いている。

 自分はといえば、何も決められずにただ歩くだけ。



 繁華街に差しかかると、巨大スクリーンにリエルの姿が映し出された。

 巨大ビジョンには国民的アイドル《リエル》のライブ映像が流れ、美しい黒髪と銀色の髪飾りを揺らしながら歌う姿が街全体を照らしていた。

 通行人は足を止め、スマホを掲げ、うっとりと見上げる。

 まるでこの国そのものが、彼女の存在を中心に回っているかのようだった。


「……ほんと、別世界の人だな。もはや実在するなんて思えない…。」


 シュウは視線を逸らし、雑踏を歩き出す。



 その時――空気がわずかにざわついた。


 誰かが、何かに怯えるように後ずさった。


「なんだ!? やめろ……近づくな!!」


 男の叫びが突然響いた。

 しかし、彼が振り返った先には誰もいない。

 周囲の人々は顔を見合わせ、困惑のざわめきが広がる。


「何だ? 誰もいないぞ。」


「幻覚……? マジかよ、薬かなんかか……?」


 場違いな嘲笑が混じり、緊張が走る。

 それが合図のように、別の誰かが怒鳴り声を上げ、肩がぶつかった拍子に罵声が飛んだ。

 あっという間に周囲の苛立ちが連鎖し、ざわめきは怒号へと変わっていく。


 ――何かがおかしい。

 目に見えない“意思”が、群衆の心を煽っているかのようだ。


 シュウは胸騒ぎを覚え、思わず足を止めた。


 怒鳴り声が響き、群衆が不自然にざわめき立った――。


「押すなって言ってんだろ!」


「ケンカ売ってんのか!」


 肩が触れただけで罵声が飛び、誰かが突き飛ばされ、また別の誰かが殴りかかる。


 空気がざらりと震えた。

 言葉にできない胸を圧迫するような違和感が、人々の感情を煽っているように思えた。


「おいおい……なんだ、これ…。」


 その瞬間、後ろから何かに強く押されて、派手によろめいた。


「ちょっ…うわっ!」


 足元の石畳の出っ張りに引っかかり、転倒。

 目の前の巻き込まれた隣の男も倒れ込み、さらに群衆の怒声を引き起こす。


「てめぇ、ふざけんなよクソガキ!」


「え!? 違う、俺は――!」


 必死に弁解するが、怒りに支配された人達の耳には届かない。


 すると遠方から騎士団の一行の足音が鳴り響いた。


「騎士団だ! 道を空けろ!」


 人の波を割って現れたのは、白銀の装甲服をまとった数人の騎士達だった。

 腰のホルダーから抜かれたのは、刀身の縁に淡い光を走らせる魔導テクノロジーを施された制圧用の騎士剣だ。

 殺傷能力はないが、見せつけられるだけで群衆の動きが一瞬で凍りつく。



 騎士たちは剣を低く構え、鋭い視線で群衆を睨みつけた。


「暴れる者は拘束する! 全員、落ち着け!」


 怒号がぴたりと止み、息を呑むように人々は後ずさる。

 剣の淡い光がちらつくたびに、不穏な熱気は削がれていった。


 やがて殴り合っていた者は連行され、他の群衆は散り始め、街は重苦しい沈黙を取り戻す。


 シュウは地面に手をついたまま、息を整えた。


「……良かった……なんとかなった…。」


 胸の奥に苦いものを抱えながら立ち上がったとき、ふと視線の先に――。



 騒動の余韻に沈む通りの向こうに、一人の少女が立っていた。

 ひと目で感じる妖しくも可憐で愛嬌のある姿。

 波打つような美しい黒の長髪に、吸い寄せられるような淡く輝くエメラルドグリーンの瞳。

 その姿は、テレビや広告で見慣れた“国民的アイドル”――まさしくリエルだ。


 しかし、すれ違う人々はまるで彼女を特別視することなく、ただの通行人のように見えているのか。

 だが、シュウには今スクリーンに映っている彼女に見える。



 漆黒の髪は街灯の下で艶やかに揺れ、冷たい光を湛えた瞳がこちらを射抜いてくる。


「え?……リエル?」


 思わず名を呼んだ瞬間、少女の瞳がわずかに揺らいだ。

 驚き。戸惑い。だが次には、氷のように澄んだ光で覆い隠される。


「……おかしい、この人には気付かれた…?」


 彼女は低く独り言のように囁いた。


「……普通なら、私をリエルだと認識できないはずなのに…。」


 人々の流れの中で、ただ一人彼女の正体を見抜いてしまった暁月シュウ。

 その時胸の奥に、幼い日の記憶と見間違えようのない既視感がじわりと広がっていった。



 彼女は小さく首をかしげ、唇の端をわずかに吊り上げた。

 その笑みは、ステージで見せる華やかさとはまるで違う。

 冷たい雰囲気を帯びていた。


「どうして……あなたは私がわかるの?」


 囁く声が、風に乗って届く。


 シュウの喉が、乾いた音を立てた。

 答えようにも、意味が分からない。

 周りの人達は目の前のリエルの存在に気付かないなんて、いくらなんでもありえない。

 自分だけがこの光景を“リエル”として見ているのか――その理由すら分からない。


 けれど確かに感じていた。

 この子と会ったような気がする。

 勝手な妄想でも勘違いでもないはずだ。


 夜の街に、二人だけが取り残される。

 そしてその謎を残したまま、物語は静かに幕を開ける。

ご拝読ありがとうございます!


この咎華の世界観は現代の時代ですが、警察や軍は存在しなく、騎士団が全てを担っています。

この咎華の舞台はノア=ユナイテッド連邦国という魔導テクノロジーを発展させた国の一つです。

アルカ・セラフィム教という世界で最も広まっている宗教の教えが根強く、政治や騎士団もその教えのもとに動いています。


そして魔法の発動には、鉱山から採掘される魔力を含む原石を加工して魔導石を精製し、それを使った魔導テクノロジーという科学技術で、魔導石を埋め込んだアクセサリーや剣や盾、鎧など、あらゆるものに魔力を宿らせ力を発動させます。

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