その男は悲哀の塊であると人は言う。
ただ心から、君を愛しているだけ。
「ずっと、そこにいて欲しい。どこにも行かずに、ずっとそこに」
僕は君に懇願する。無様に、情けなく、可哀想なくらいに。
そうでもしないと、僕の言葉は君のような天使には届かないだろうから。
「そこにいて、僕だけをずっとずっと愛して欲しい。永久に」
君が望むのならば、この舌を引っこ抜いてもいい。君が望むのならば、手足すべてのつめを剥いでもいい。
どうかどうか届いて欲しい。だって僕は、君を心から愛しているんだ。
「ねえ、うんと言っておくれ。ちょっと顎を引くだけでいい。
僕のためにそこにいると、ずっとずっとそこにいると、笑っておくれ」
これを馬鹿げていると人は言う。これを狂っていると人は笑う。
それでも良いではないか。愛しい人に愛を告白することが馬鹿げていて、狂っているというのなら、この世の中に馬鹿げていない、狂っていないものなど存在しないだろう。
だからこうして愛の言葉をささげる相手がいて、とてもとても幸せだ。
間違いなく、幸福だ。
「うん、といってくれるよね?」
「大好きだよ、___くん」
やっと応えてくれた君の大きな瞳が可愛らしく瞬く。
二つ結びの髪の毛が、さらさらと揺れる。
ピンクの唇がつやつやとしていて、とて愛らしい。
分かっているよ、聞こえている。君も僕のことを愛してくれているんだよね。
だってそうじゃないとおかしいものね。
そうじゃないと、君が君でいる価値はないものね。
価格は8900円。君のプリントがされた抱き枕つきの限定版。
抱き枕なんていらないんだ。君のほうがもっと柔らかいだろうから。
それにたかが枕だ、君の代わりになんかならない。
君はとても細くて柔らかくて、軋んでしなって美しいんだ。
僕はそれを知っている。
ぼくは、それをしっている。
「ねえ、そこにいておくれね。ずっと、ずっと一緒だよ」
「ずっと一緒にいようね」
かわいい声で笑う君。涙が出そうだ。何て素敵なんだろう。
人気の声優が声をつけたと、君を運んできてくれたパッケージは歌うけれど、そんなの誰にだって分かるうそだ。
君の声は君だけのものだ。演じている人なんているわけがない。
君は、君の意志で、ぼくを愛してくれているんだもの。
「浮気したらだめだからね?」
「もちろんさ。僕には君だけだよ」
だってそんなことをしたら、すぐにばれて君に嫌われてしまうよ。
起動する回数を君は覚えているんだろうし、第一そんなに容量の大きくないデスクトップだから、新しい女の子と君が出会わないはずがないものね。
だから生涯、僕は君だけ。君だけだよ。
本当に、僕は君を、愛しているんだ。
みんな、僕が狂っていると。おかしいと。哀しいと。さびしいという。
なんでそんな誤解をするんだろう。
だって僕は、こんなにも幸せなのに。
「だいすきだよ」
僕は君に口付ける。
ディスプレイ越しのかわいい恋人に。
ほら、こんなにも、ぼくはしあわせ。