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第4章 夜の仲間たち

隔壁が閉じられ、隠れ家の訓練場に静けさが戻る。全員が息を整え、汗をぬぐった。さきほどの影の侵入が誰にも強い衝撃を与えていた。


千景が手を上げる。

「……今の件でわかっただろう。僕たちが相手にしているものは、ただのシステムの幻影じゃない。境界の向こうの本物が動いている。だからこそ、今ここで立ち止まっている暇はない」


彼女は尊と美緒を振り返り、穏やかにうなずいた。

「まずはお互いを知ろう。夜を知る者たちは少数精鋭だ。連携が命だ」


古びたランプの下、仲間たちは輪になった。


「俺の名前は千景。元・管理者。あちら側の内情を知っている。今は彼らを裏切り、この隠れ家を作った。夜の世界を歩く者の生存率を上げるのが使命だ」


鋭い目をした青年が軽く手を挙げる。

「俺は颯真。夜の世界に潜って二年目。索敵と情報収集が得意だ。……俺は音を使う。夜の揺らぎは音で読める。侵入者を嗅ぎ分けるのが役目だ」


ふわりとした雰囲気の女性が微笑む。

「私は結衣。夜の世界の残響に触れられる……“記憶”を視ることができるの。過去に何があったか、誰がそこを通ったか――手掛かりを見つけるわ」


筋肉質な体格の男が無骨に頷く。

「凛太郎。現場担当だ。戦うのは得意だが、考えるのは苦手だ。二人が生き残るための盾になる」


最後に千景が尊と美緒を促す。

「君たちの番だ」


少し緊張しながらも真剣な眼差しで言った。

「僕は尊。まだ何もわからない。でも……壁を張ることができるみたいです。誰かを守るために、それを使いたい。そして弟を救い出したい」


彼女は少し戸惑いながらも、さっき影の声を聞いたときの感覚を思い出していた。

「美緒です。私、声が聞こえるの。あの影の……何かが私に話しかけてきた。自分の能力がまだよくわからないけど・・・私は友人を取り戻したいの」


仲間たちは顔を見合わせ、わずかに緊張が走った。


千景は微笑み、しかし真剣な声で告げる。

「わかった。君たちの力はまだ未熟だけど、この状況で現れた能力は偶然じゃない。夜の世界に入るには、準備が必要だ。他の仲間たちは順次紹介するとして、今日から本格的に境を渡る訓練を始める。」


颯真が端末を操作すると、壁の一部が開き、地下への階段が現れる。そこには、夜の世界へ接続するための装置や道具、そして古びた地図が並んでいた。


「境の向こうは容赦しない」

結衣が静かに言う。

「でも、あなたたちが来てくれたことで、このチームは少し強くなった。……そう信じたい」


凛太郎が笑った。

「なら早く強くなれよ。次に影が来たら、もっと派手になるぞ」


緊張感の中にもわずかな高揚が芽生え、チームは一つの輪として動き始めた。


地下への階段を降りた尊と美緒を迎えたのは、ひんやりとした空気と機械の低い駆動音だった。壁一面には古びたスクリーンや地図が貼られ、線や印で複雑に交差している。


「……これが夜の世界の全容?」

美緒が目を見張る。


千景は首を振った。

「いいえ、これでも一部。夜の世界は変動する。道が動き、境界が揺らぐ。地図は“記録”であって、“真実”ではないの。」


颯真がスクリーンを操作すると、都市の地図が立体的に浮かび上がる。昼の街と夜の街が重なり合うように映し出され、いくつもの赤い点と青い線が走っていた。

「青は私たちが通った安全ルート。赤は管理者の監視網。……だが、最近見つかったこの黒い印は・・・」


画面にひとつ、目立たない黒い点が表示された。


「これは?」尊が尋ねる。


結衣が不安げに声を落とす。

「記憶の残響を辿った時、誰も行ったことがない“痕跡”を見つけたの。まるで、夜の世界そのものがそこに何かを隠しているみたいに……」


千景は腕を組む。

「黒印は“未知”。管理者も地図に載せていない。あの侵入してきた影と何か関係があるかもしれない。」


凛太郎がぼそりと呟く。

「要するに、危険ってことだろ?」


「でも、そこに答えがあるかもしれない」

颯真が食い気味に言った。

「管理者よりも早く、夜の世界の核に触れられれば……俺たちの立場は逆転できる」


美緒は黒印を見つめながら、胸の奥に奇妙なざわめきを感じていた。どこか懐かしいような、呼ばれているような感覚――。

「……私、行ける気がする。あの影の声と……同じ匂いがする」


千景が美緒を真剣に見つめ、やがて小さくうなずいた。

「焦る必要はない。でも、準備はしておこう、。次の訓練は、この“黒印”を目標にする。……夜の世界の秘密を探る旅になるぞ。」


輪の中に緊張が走り、それがやがて確かな決意に変わっていった。


黒印の位置を確認した夜、隠れ家の地下は慌ただしい空気に包まれていた。

千景はテーブルの上に資料を広げ、ひとつひとつ確認する。


「黒印へ行くには最低でも二層の境界を抜ける必要がある。通常の通路は使えない。つまり、即応力と防御力が必要になる」


颯真は端末を開き、複雑な地図データを解析しながら指を動かす。

「センサーも対策した。夜の揺らぎを感知するための“音索”を広げる。俺が前衛の目になる」


結衣は小型の装置を並べていた。透明な結晶のようなもの、古びた磁器のパーツ。

「記憶を固定するための“残響アンカー”。これを設置すれば、もし道が揺らいでも帰路を失わずに済む。ただし……設置には時間がかかる」


凛太郎は黙って武器を点検していた。金属音が響く。

「影が出ても動じない。お前らが走るなら、俺が止める」


尊は二人の会話を聞きながら、自分の手を見つめた。

「俺……壁を作る練習をもっとしないと。長く維持できないし、連続して使うと体が重くなる」


「大丈夫だ。今からその訓練を組み込むぞ」

千景が静かに笑むと、壁際の装置を起動させた。狭い地下室の壁がスライドし、奥に別の空間が現れる。そこには仮想の夜世界を再現する訓練ブースが広がっていた。


「ここは俺が管理者だった頃、密かに作った“境界模擬室”。夜の揺らぎ、影の干渉、管理者の監視網を模したシミュレーションができる」


颯真はイヤーピースをつけ、音を読み取るアンテナを展開。

結衣は記憶の残響を視覚化するゴーグルを装着。

凛太郎は重い防具を肩に乗せ、動きを確かめる。

尊は息を整え、掌に壁を作るイメージを集中。

美緒は深く目を閉じ、あの“声”をもう一度探そうと耳を澄ます。


「目的地は黒印の模擬点。途中に揺らぎが複数、影の残留が一体出る設定だ。……成功すれば本番の確率も上がる」

千景が淡々と説明する。


颯真が口角を上げた。

「よし、やるしかないな」


訓練ブースの扉が開いた。中はうっすらとした霧と、光が揺らめく未知の路地――夜の世界の縮図が広がっていた。


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