第12章 金の糸の導き
夜の静けさの中、羽のパサパサとした音で楓は目を覚ました。
目の前を金色の蝶が舞っている
蝶の羽の音? 楓が不思議に感じていると
不意に胸の奥がざわざわとしはじめ、まぐ他の裏に淡い光が揺れはじめた
――兄さん。
誰かに呼ばれたような気がした。声ではなく、心の底を震わせるような気配。
夢ではない。
金色の蝶から一本の筋が現れたと思うと蝶の姿は消え
一本の線となってアジトの外へ繋がっていった。
夜気の中に溶け込むように輝くそれは、まるで糸のように細く、かすかに脈動している。
「……導かれている?」
楓は立ち上がり、眠る仲間たち――美緒や千景たちの顔を見つめる。
彼らを起こすべきか迷ったが、胸の奥に響く“呼び声”がそれを制した。
これは自分にしか見えない、感じられないものだと分かっていた。
彼女はそっとドアを開け、金の糸の先へと歩き出した。
糸は月明かりに照らされた舗装路を越え、静まり返った街へと続いていた。
深夜の商店街。
シャッターが閉じた並びの中を進むたび、現実の空気の中に、ほんのわずかに“夜の世界”の残り香が混じる。
やがて糸は角を曲がり、古びた雑居ビルの裏手で途切れた。
その瞬間、風が止む。
楓は息を潜め、闇の奥を見つめる。
「……やっぱり、来たんだな。」
その声に、楓の心臓が跳ねた。
薄闇の中から姿を現したのは楓の兄、柊。
そして隣に、土生の姿もあった。
柊の服は少し汚れ、髪も乱れている。
昼の管理局から逃げ続けていることが、その様子からもわかった。
「兄さん……!」
楓が駆け寄ろうとすると、柊が片手を上げて制した。
「静かに。……監視ドローンがこの区域を巡回してる。」
その声には、昔と同じ穏やかさがあったが、どこかに焦りが混じっていた。
「夜の世界から戻って……目を覚ましたら、学校にいた。
全部、元に戻ったと思った。でも違った。あいつら――昼の境界管理維持局がすぐに動いた。」
柊が低く告げると、土生が付け加えた。
「“夜の残響”を持ち帰った存在として、私たちは“未適応者”扱いされている。捕まれば、今度は消されるかもしれない。」
楓の背筋が震える。
兄が戻ってきた喜びよりも、その危うさが胸を締めつけた。
「でも……どうして私、兄さんの場所がわかったの?」
「お前、“目覚めた”んだ。」
柊が小さく笑った。
「その糸は、お前の共鳴のスキルだ。
“夜の世界”とこの現実をつなぐ境界を、感覚として見抜く力。俺の呼びかけに反応したんだろう。」
楓は自分の手を見つめた。
金色の残光が、まだ指先に微かに残っている。
土生が短く息を吐く。
「美緒は、どうしているの?」
「うん。私は彼女と一緒にいて、尊の弟が昼の人たちに捕らえられてしまって救出しようとしている。そして昼も夜もどちらにも奪われない世界に戻そうと考えているみたい」
柊はうなずいた。
「……なら、行こう。俺たちも、美緒に会わなきゃならない。」
三人は裏路地を抜け、街の外れへと足を進めた。
夜明け前の空が少しずつ白みはじめている。
空気の中には、まだ夜の世界の名残――“夢の粒”のような光が漂っていた。
「兄さんがもとに戻って良かった。ずっと生気がなくて人形のようだったから・・・」
「俺が夜に捕らえられている間、そんな状態だったんだな。心配かけたな。ごめんな。でももう大丈夫だ。」
金の糸が三人の間に伸び、やがて遠くの光点へと導いていく。
そこが、美緒たちが居るのアジトだった
扉を開けると、楓が居なくなったことで皆が大騒ぎをしていた
「楓!どこに行ってたの!心配・・・柊!土生!」
美緒は駆け寄り土生に抱きついた
「すごく心配したんだから。二人ともどうなっちゃうかと思ったんだから」
美緒は泣きながら
「よかった、よかった会えて、良かった元の二人に戻って」
「美緒、僕らは境界管理局に追われている。戻ってきた事をなぜかすぐに気づかれ捕まえに来たんだ。どういうことなんだろう」
「私もよくわからない。そういえば、私も初めて昼の世界に戻ってきたとき管理局に追われたわ。どういうことなんだろう? 千景さん、どうしてなの?」
「俺もよくわからないが、初めて戻ってきた人間を感知するシステムがあるんじゃないだろうか?今回、僕らが戻ってきたけど管理局は現れなかった。
まあ、何度も行ったり来たりする奴なんていないと思うけど・・・なにかしら以前の自分たちと違う周波がでているんじゃないかと・・・」
「俺、よくわからないけど目覚めたんだ。その力で楓を呼ぶこともできたし、楓も俺も共鳴しあっている。この力がどう役にたつかわわからないが、この力が普通の人とちがう波動が出ているのかもしれない」
「何なのかはわからないけど、私たちは怜を助け出し、他にも捕らえられている人たちを救いださなければならない。昼の世界にも夜の世界にも捕らえらえた人たちを・・・」
「これからの対策を作戦会議だ。みんな、こんな入り口で話していないで、奥の部屋へ移ろうか」
千景の号令で各々の部屋にいた仲間たちも奥の部屋へ集まっていった。




