SF作家のアキバ事件簿233 スーパーヒロインの絆
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第233話「ミユリのブログ スーパーヒロインの絆」。さて、今回も秋葉原が萌え出す前のミレニアムな頃の物語です。
腐女子が超能力に"覚醒"しスーパーヒロイン化する現象が多発スル中、新しい人類の誕生を恐れる人々に追われ、ヒロイン達は秋葉原で…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 ヲタ友という友達
ある夏の昼下がり。アキバのNo. 1ホットドッグステーション"マチガイダ・サンドウィッチズ"。
「ねぇもっとニンニクを入れて」
「ミユリ姐さん、どーしたんだ?まさか失恋?」
「何ですって!!!!?」
いきなり地雷を踏む"マチガイダ・サンドウィッチズ"のYUI店長。ミユリさんの指先に閃光が光る…
「ま、待て!話せばワカル…しかし、何か面倒なコトが起きるといつも大蒜マシマシだょな」
「何を逝うの?どーせ原価計算ナンかしてナイのでしょ?じゃんじゃん入れてょニンニク」
「まぁ何かあればニンニク頼りってのは大事だょな。で、何やってんだ?会社でも起すのか?」
ミユリさんは、何やら難しい書類を作成している。ココは、裏通りのホットドッグ屋さんナンだが…
「あぁ書類仕事って苦手。何とかならないかしら」
「確定申告か?書類仕事って俺も大っ嫌いだ」
「(この時期、確定申告のハズがナイでしょ)ペーパーワークはテリィ様も大嫌いなの。だから、会社を起すとなると私が…あ、別にテリィ様とヨリを戻すとか、そーゆーんじゃナイのょ?仕方なくやってるの」
いつになく多弁なミユリさん。別れたウワサはマジだったのか、と心の底で溜め息を漏らすYUI店長。
「ま、気にするなょ姐さん。次に行こう次に…」
「次?YUIさん、逝って良いコトと悪いコトがアルわ!次なんてナイの。アンマリだわ!」
「わ、わ、わ…姐さん、落ち着いてくれ」
興奮したミユリさんの指先に蒼い電光。狼狽え後ずさりしたYUI店長はサラダ油の缶をひっくり返すw
「ぼん!」
ソコヘミユリさんの指先から飛んだ火花が引火、たちまち天井まで焔の壁が立ち上がる。悲鳴と絶叫w
「どいて、YUIさん!」
焔に立ち向かうミユリさん。ハンドパワーで焔を撫でるようにして消火…おや?焔は荒れ狂うばかりw
「私の超能力が効かない…どうして?」
消火器メーカー勤務の常連が、慣れた手つきで備え付けの泡消火器で消火スル。ミユリさんは呆然だ。
「姐さん!大丈夫か?」
「え?ええ。大丈夫ょ何とかね」
「…もしかして失恋が原因か?」
第2章 失恋スルとパワーが低下する件
「怪我がなくて何よりでした」
黄色い耐熱消防服を着た神田消防の隊員は、ホッと胸を撫で下ろす。雑居ビルの失火は色々と厄介だ。
「もう大丈夫ですか?」
「…お世話様でした」
「警報装置が作動してよかったですね」
消防隊員は、黄ヘルを小脇に抱えて礼儀正しい。
「みなさんを無駄に出動させてしまって」
「気にしないで。では、私達はこれで失礼します。おい、引き上げるぞ」
「みなさん、お疲れ様でした」
立ち去る消防隊員達。頭を下げるYUI店長。
「ミユリ姐さん。確か、姐さんの指先から蒼い電光がホトバシるのが見えたンだが」
「YUI店長、何を言ってるの?人の指先から電光なんて出るハズないでしょ?人間発火?オカルト雑誌"ラー"の読み過ぎょ」
「そっか。ソレもそうだな」
コレは、未だ腐女子がスーパーヒロインに"覚醒"する現象が認知される前、ミレニアムの頃の話だ。
「私はただ…」
「お鍋の水をかけて消火した?」
「YES」
自分に言い聞かせるように首肯するミユリさん。ソコへ、さらに事態をヤヤコしくする要因が御帰宅。
「YUI店長。火災報知器が作動したと聞いたので、様子を見に来たわ」
「万世橋のラギィ警部。こりゃまた…もう大丈夫さ。炎が出たけどミユリ姐さんが消してくれたンだ」
「ほぉ。ミユリさん、怪我は?」
ミユリさんの方を向く。実は、この2人は今カノと元カノの関係なので、まぁ少しギクシャクしてる。
誰の彼女?ソレは…
「大丈夫ょ。神田消防も来てくれたし」
「そぉ。私も念のために来ただけだけど…コレはヒドいわね。天井が焦げてる」
「実際は、それほどでもナイの。ただのボヤだし」
今カノの発言を無視スル元カノ。
「この状況から見て、かなりの炎が上がったのは間違いナイようですね、YUI店長」
「えぇそりゃもぉ。何しろ一瞬の出来事で何が起きたのかわからなかった。紅蓮の炎が覆い被さるように登って」
「どのくらい?」
思い切り手を伸ばすYUI店長。
「1.5mはありました。いや、もっと高かったカモしれません」
「それをミユリさんが消したの?」
「YES。立派だった。火の壁を全く恐れず、私を庇い、お鍋の水をかけてアッという間に消してくれた。彼女がいなければ、このビルは全焼してたに違いない」
ミユリさんを庇うつもりで面倒の種を蒔くYUI店長。
「1m以上もある炎から、YUI店長を守るために、お鍋の水をかけて消火したのね?ミユリさん、貴女にはゼヒ消防団に入って欲しいわ。消防ラッパ隊でも良いけど」
「ラギィ警部。そんな大したコトじゃナイわ」
「謙遜しないで。マジでそうなら、貴女は正真正銘のヒロインょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「YUI店長が火だるまになったんだって?!お通夜に逝く?ソレとも告別式?」
「それ、本人に聞くか?俺なら元気だぞ」
「何だ、またフェイクニュース?誰なの?無責任に拡散してるのは?」
マリレ。ソレはお前だw
「ミユリ姉様が超能力で鎮火したのでしょ?誰かに気づかれなかった?」
「大丈夫。一瞬のコトだし多分誰も見てないわ」
「そう。よかったわ」
御屋敷のバックヤードで、実は超能力に"覚醒"しているミユリさん、エアリ、マリレがヒソヒソ話。
当然、全員メイド服だ。
「で、姉様。またまた、万世橋のラギィ警部が嗅ぎ回ってルンだって?何しに来たの?」
「表向きは火災報知器が鳴ったから確認に来たと逝っていたけど…まるで何か事件の犯人を見るような目で観てたのょね」
「姉様。動転中?」
末っ子的存在のマリレがヤンチャな質問。
「あら、平気ょ。私、動転なんかしてないわ」
「スプリングスティーンのバックストリートを聞いてる。姉様が落ち込んでる時の定番曲だわ」
「マリレ、あのね…」
ミユリさんの反論を制するマリレ。
「マチガイダの火事は関係ナイ。姉様、テリィたんと別れたのはズバリ、大正解ょ」
「そ、そーなの?貴女達も安心したワケ?」
「だって、2人とも真剣ナンだモノ。姉様、いつも言ってるじゃない?私達スーパーヒロインは、秋葉原のヲタクと深く関わっちゃいけないのよ」
"姉様"に説教するマリレ。エアリもうなずく。
「わかってるわ。確かに一瞬忘れかけてたけど今も時々…でも、もう大丈夫だから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もう全然大丈夫よ」
そのまま御給仕に出たミユリさんは、グラスを拭いている…さっきからズッと。同じグラスなんだがw
「最初からわかっていたわ。ヲタクとスーパーヒロインが付き合ったって、長く続くハズがナイってわかってた。だから、コレで良かったの。あぁスッキリしたわ」
「…姉様。そのグラス、もう充分きれいだけど」
「あ。でも、確かに私は大丈夫だから。少し舞い上がってたけど、もうすっかり醒めたわ。全て終わったコトょ」
エアリがオトナな対応を見せる。
「マジ大丈夫?醒めるのは少し早過ぎない?」
「立ち直るのに早過ぎるってコトは無いわ。過去なんか振り向かず、未来に向かって前進あるのみ!」
「姉様。ソレで良いの?傷ついてない?」
ミユリさんの顔を覗き込む。
「傷ついてないわ」
「だって、テリィたんが一方的に切り出してきたんでしょ?」
「ヤメてょ。別に一方的じゃないわ。そりゃお互いしばらく距離をおこうって言い出したのはテリィ様だけど。結局は2人で決めたコトなの。だから、90%は双方の合意なのよ」
スゴい勢いでパーコレーターにコーヒーを詰め込むミユリさん。既に満杯だが、さらに詰め込んでるw
「で、YUI店長の前で超能力を使ったのはマズかったンじゃナイ?」
「大丈夫。バレてないから。貴女こそ落ち着いて」
「一般人には注意しないと。ヲタク相手ならまだマシだけど、ヲトナはいつ裏切るかわからない。大人は敵だってコトを忘れないで」
「秋葉原中が敵ってコト?」
レジ前に立つミユリさん。僕とスピアの支払い。
「ミユリさん…元気だった?」
「はい、元気です。おかげさまで」
「ソレは良かったな」
まるで、日本語会話の初級編だw
「テリィ様。今宵のランジェリーホッケーの試合ですが、みんなで一緒に見に行こうって約束してたけど…でも、たかがランジェリーホッケーだし、応援して帰るだけなら構わないかなって。別にデートとかではありませんので」
「うん、そうだね。騒ぐほどのコトじゃないな」
「ですょ。さらっと行けば何も問題ありません」
ソコヘ陽気な掛け声がかかる。
「おおっカレル監督、頑張れ!」
何と半分ストリッパーみたいなコスプレのチアガールとホッケー選手を引き連れカレルが御帰宅スル。
監督…なのか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
マチガイダ・サンドウィッチズ。
「なぁテリィたん。ミユリ姐さんって、ナゼあんなに個人主義なのかな」
「個人主義?」
「なかなか心を開いてくれないンだょ。心にバリアを張ってるみたいでさ」
半分当たってる。まぁ女はみんなテレパスだけど。
「ミユリさんは、もともとそういう性格ナンだ」
「でもさ。なんだか心配ナンだ。姐さん、何か秘密があるんじゃないか?」
「女だからな」
適当にはぐらかすがYUI店長は喰らいつく。
「テリィたんが見ていて何か気づいたコトはナイか?彼女は、何だか人とは違うって」
「例えば?」
「それが一体何なのか、口に出しては上手くは言えないンだが…SF作家なんだから空想してょ」
無茶なオーダーだw
「店長。何を聞きたいのかな」
「OK。もうヤメよう。俺は、店が萌えそうになってスッカリ舞い上がっちゃってるのさ」
「気持ちはワカルょ」
ポンポンと手を打つYUI店長。
「もぉ大丈夫だ。さ、ランジェリーホッケーの応援に行って来い」
「そっか。じゃまた!」
「楽しんで」
胸に手を当て僕を見送るYUI店長。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
旧万世橋駅の地下コロシアム。半裸のチアガールが叫びランジェリー姿のホッケー選手が入り乱れる。
「がんばれー!タイムマシンズ、GO」
スタンドに仁王立ちになり声援を送るミユリさん。
「ミユリさん、あんな大きな声で…しかし、ボールをゴールに打ち込むのがそんなに楽しいかな?」
「テリィたん。ソコ、空いてる?」
「エアリ…すみません。知り合いのメイドさんなので、ちょっち詰めていただけます?」
東南アジアン女子に詰めてもらう。
「テリィたん。どっちが勝ってる?」
「ミユリさんの元カレが監督やってる方さ。ところで、やっぱりYUI店長は何か疑ってるぜ。ミユリさんに何か秘密があるのかって聞かれた。何か秘密を探ってるような感じだったな。コレは何とかしないと」
「何とかって何スルの?」
突っ込んで来るエアリ。彼女は妖精で、背中に羽根がある。今はメイド服の下に折りたたんでるけど。
「うーん"覚醒"したスーパーヒロインのコトは秘密にスル約束だったけど…」
「ダメょ。秘密を打ち明けたらソレで終わり。私達は切り刻まれて標本にされて終わりょ」
「落ち着けょ。未だ誰にも話さないから」
怪しそうに僕を見るエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その時、フォワードにパスが通ってチャンス!身を乗り出したカレル監督は審判とぶつかり転倒スル!
「カレル!」
マジ大声で元カレの名を呼ぶミユリさん。ソレすら聞こえズふくらはぎを抑えて悲鳴を上げるカレル。
「みんな下がって!ゲーム中断!」
駆け寄ったドクターが担架をリクエスト。マジ心配そうなミユリさん。ソレをチラ見し溜め息つく僕。
関係者は全員、頭を抱えてるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今日も僕がオーナーを務める"メカゴジラ-2.5カフェ"は世界中のインバウンドが推し寄せ大繁盛だ。
「あれ?メイド長、私服でお出掛け?ソレともUperのデリバリーでも始めたの?」
「休憩時間にカレルにパイを届けようと思って」
「ルルゥのコスプレで?」
ルルゥは機動戦士ランダムに出て来るネオタイプ。カレルはミユリさんの池袋時代のTOで、ミユリさんは、奴のマハラジャカフェのベリーダンサーだ。
「この前の試合で足首を捻挫したらしいのです」
「気の毒に」
「私、責任を感じています。突然、客席から大声で声援したりしたから彼は驚いて…」
ソレでシフト中にお見舞い?今のTOは僕だが…
「テリィ様。別に深い意味はありません。ただのパイですから。では、行って参ります」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。パーツ通りのマチガイダ・サンドウィッチズ。コチラもシフト中?のラギィ警部が顔を出す。
「警部。ご心配おかけしましたけど、もうかなり落ち着きました」
「YUI店長。ソレは良かったわ。ミユリ姉様のおかげね。さすがメイド長。で、彼女だけど、その後、大丈夫かしら。最近、危機一髪な出来事が続いてるけど?」
「危機一髪?続いてる?」
ラギィは、アキバに来る前は"新橋鮫"と呼ばれ、その筋から恐れられてた敏腕警部で…僕の元カノw
YUI店長を笑顔で追い込んで逝く。
「ほら。お向かいのタイムマシンセンターであった発砲事件を覚えてるでしょう?」
「あのアキバ初の音波銃の発砲事件ですか?ソレが何かミユリ姐さんと関係が?」
「おや?彼女からは何も話は聞いてませんか?」
大袈裟に驚くラギィ。頼むょ鮫の姐さん。
「警部。あのメイドさん達が何か犯罪と関係があるんですか?」
「いいえ。ソレにもう過ぎてしまったコトです」
「警部は、テリィたんと取り巻きのメイド達に何か特別な関心をお持ちのようだ。もし万が一テリィたん達が犯罪に関わった可能性があるのなら…」
大袈裟にのけ反ってみせるラギィ。
「私はYUI店長の様子を見に来ただけですよ。ソレとご参考までに家庭用の防災パンフレットを置いていこうと思って。油による火災の消火方法のトコロにマーカーしておきました。ゼヒご覧ください。では、私はコレで。どうぞお大事に」
カウンター席から立ち上がるラギィ。家庭防災のパンフを手に、狐につままれたような顔のYUI店長。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
団体インバウンドが去った後、次の団体が来るまで御屋敷に束の間の静寂が訪れる。マリレが御帰宅。
目の前を板切れが飛びギョッと身を引くマリレ。
「ごめーん。ソレ、拾ってくれる?」
「スピア?殺す気?…何やってるの?工作?貸して。手に力が入り過ぎてるの」
「大丈夫。1人で出来るから」
見るとスピアは糸鋸でバルサ材を切っている。
「邪魔しないで。コレを修理しないと、ミユリ姉様に怒られちゃう」
「あら。コレで良い出来じやない」
「慰めてくれなくても結構よ。どーせ下手だから」
さらに慰めるマリレ。
「別に慰めてなんかいないわ。でも、ホラ。こうやってくっつければ、スリッパを引っかけられる」
「…なんでスリッパが出て来るの?」
「だって、コレはシューツリーでしょ?」
思い切り地雷を踏むマリレ。
「ナプキンホルダーよっ!」
「ガチョーン(死語w)あぁそうだったの?まぁドチラにせよ悪くない出来だわ」
「ねぇ私に何か用なの?」
スーパーヒロインは狼狽えるw
「…えっと。いや、何か話でもしようかと思って来たけど、やっぱり出直すわ。もう話しかけません。じゃ」
背を向けるマリレに言葉のドロップキック。
「また逃げ出すの?」
吐き捨てるような言葉。振り向くマリレ。
「どーして?何でそうつっかかるの?私が何をしたっていうの?」
「あら。何もしないから怒ってるの!」
「はぁ?」
腰に手を当て頭をヒネるマリレ。
「私は…私達は貴女の命を救ったの。覚えてる?」
マリレ、腕組みして傾聴。
「あの時、貴女はトンでもナイ高熱を出して死にかけてた。全身汗だくでガタガタ震えながら、今にも死にそうって顔してたわ。別に放置しておくコトだって出来た。でも、私は助けたの。全身汗でベトベトの貴女を乙女ロードまで連れて行った。メイド服は汚れるし、もしかしたら、このまま死んじゃうんじゃないかと心配したんだから。なのに、あんなに必死に祈ったのに貴女が抱きついたのはミユリ姉様とテリィたんだけ。私のコトなんかまるで無視。私、すごく傷ついた。少しでも、私に感謝してくれたなら!」
「…マジありがとう」
「え?」
瞬間、頬を赤らめる。が、次の瞬間!
「…何ょ!その言い方…言ってもらわない方が良かったわよっ!」
バックヤードに消えるスピア。立ちすくむマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
2丁目に出来た巨乳スッチーカフェ。奥のVIP席はソファになっててギブスをハメたカレルが寝そべる。
「カレル。ココにいるって聞いたけど」
「何だ、ミユリか」
「お見舞いに来たわ。ウチのパイ、好きだったでしょ?ココに置いておくから後で食べて」
めっちゃ愛想を振りまくミユリさん。
「カレル。こんなコトになってショックだったでしょうね。まだ、ランジェリーホッケーのシーズンが残ってるのに」
「ミユリ。今、お前と話をスル気分じゃないんだ。悪いな。せっかく来てくれたのに」
「え?…そうよね。じゃ帰るね」
巨乳達の冷ややかな視線を浴びながら歩き去るミユリさん。追い払っておきながらチラ見するカレル。
ドアが閉まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
巨乳カフェを後にしたミユリさんは"マチガイダ"に顔を出し、脚立を立て天井にローラーを当てる。
「焔で焦げた跡を塗り直すつもりか?そんなコトしなくて良いのに」
「YUI店長。直ぐ済むわ。常連からの恩返しょ」
「マジあの時、ミユリ姐さんがいてくれなきゃ大変なコトになってたな」
感慨深げに語るYUI店長。
「ねぇ無事だったんだから、もうその話はヤメて」
「どうやって火を消したのか聞かせてくれょ」
「聞かせるって何を?」
困惑顔のミユリさん。
「姐さん。どうやって火を消したンだ?」
「キッチンに水の入ったダッジオーブンがあった。だから、ソレで火を消したの。ソレだけ」
「でも、ラギィ警部が置いてった防災パンフによれば、萌えてたのは油だ。このパンフレットに拠れば、油による火災は水では消せない。消せないドコロか、水は炎をもっと広げてしまう…あの時、ミユリ姐さんは一体何をしたンだ?」
スーパーヒロインに"覚醒"したコトは秘密。未だアキバの地下でヒロイン狩りが行われてた時代だ。
絶体絶命…その時、エアリが御帰宅。
「YUI店長!チリドッグ、大至急お願い!あぁお腹が空いて死にそうょ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
またまた御屋敷のバックヤードに3メイド集合。
「姉様。早くなんとかしないと万世橋がまたYUI店長に疑惑を植え付けるわ」
「大丈夫ょエアリ。未だ何も知られてないから」
「そんなコト無いって。何かおかしいってもう気づいてるわ。姉様のように、嵐が過ぎるのを待つだけではダメなのよ!」
容赦ないエアリ。さすがにムッとするミユリさん。
「ただ見てるだけじゃナイわ」
「でも、何もしてないじゃない。問題を乗り切るには何かをしなくちゃ!」
「エアリ。何をスルの?」
トンでも無いコトを逝い出すエアリ。
「YUI店長に全てを話しましょう。姉様やテリィたんが反対スルのはワカルけど、私はYUI店長には話したい。秋葉原に来てからズッと思ってた」
「エアリ。貴女の気持ちはテリィ様もよくわかってらっしゃるわ」
「いいえ。テリィたんには絶対ワカリッコ無いわ。ヲタ友って、もっと特別な存在だと思う。今までは、ただ事実を隠してるだけだった。でも、今は彼をダマしてる。もう、ヲタ友をダマしたくないの!」
見かねたマリレも助太刀スル。
「今日までの私達のヲタ友としての友情は、ニセモノ物語でしたって告げるの?ソレって、別の意味でヲタ友の気持ちを裏切ってナイ?ある意味、残酷カモ」
「いいえ。私達、もっと親密になれるわ」
「ソレはどーかしら」
溜め息つくマリレ。楯突くエアリ。
「どーゆーコトょ?私達の"正体"を知ったら、秋葉原のヲタク達は、もう私達をヲタ友と認めてくれないとでも?」
「そうならないって言い切れるの?」
「姉様やマリレには言い切れるの?」
黙るマリレ。ミユリさんの方を見る。
「わかったわ、エアリ」
「そうかしら」
「エアリ。姉様に謝って」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ブラリと"マチガイダ"を訪れるエアリ。
「おや?エアリ、1人か?…秋葉原に来る前の話を聞かせて欲しいな。今まで聞いたコトはなかったけど、何か覚えてるコトがあったら聞かせてくれょ」
「YUI店長。だから、私…あまり覚えてないのょ」
「おいおい。エアリが秋葉原に来た時、お前はとっくにオトナだった。何も覚えてナイじゃスマナイだろう」
エアリは長い前髪を耳にかける。
「そりゃ一般人としての生活も、少しは覚えてる。初めて秋葉原に来た日のコトもね。YUI店長は、黄色いセーターを着てた。その時こう思ったわ。YUI店長は、私のお日様、神田明神サマみたいな人だって」
目を見開き立ち上がるYUI店長。
「YUI店長が私をヲタ友として迎え入れてくれた日に、私の人生はRe:スタートしたンだから」
大きく目を見開くYUI店長。カウンター越しに、エアリをハグ。チョロいモンだと舌を出すエアリw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のカウンター。せっせと宿題のナプキンホルダーの修理を仕上げ中のスピア。マリレが御帰宅。
「スピア。やっとワカッタわ」
「何が?」
「貴女、この前私に謝れって言ったでしょ?アレは貴女の作戦だったのね?」
スピアの顔を覗き込むエアリ。
「何?貴女、何を言ってるの?」
「だ・か・ら!私に謝って欲しいのね?」
「ソレが私の作戦なの?マジ?」
呆れるスピア。
「YES。私が貴女に"借り"がアルと思わせたいんでしょ?」
「悪いけど…私は、誰にも"借り"を作らない生き方をチョイス…」
「フン。良く言うわ。貴女、今からすぐ精神科のセラピーでも受けたら?」
無理矢理スピアの隣に座り、修理中のナプキンホルダーを無造作に取り上げる。ムッとするスピア。
「"借り"を返す代わりにコレを超能力で直してあげる。何色が良い?緑?青?」
「返して!」
「らめぇぇ!」
2人で取り合いをしたナプキン台は壊れてしまうw
「ああっ!」
「あんたって最低。大っ嫌い」
「何が気に入らないと言うの?」
メイド2人が立ち上がって口論を始めると、ショーと勘違いしたインバウンドが取り囲んで写メするw
「手をかざして修理して、それで何か問題が解決がスルとでも思ってるの?どーして、こんな簡単なコトがわからない?心を込めてありがとうって何で言えないの?"覚醒"した時に超能力と引き換えにヲタ友の絆も無くしてしまったの?」
壊れたナプキンホルダーの破片をかき集め、バックヤードに消えるスピア。茫然と立ちつくすマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数分後。今度は松葉杖をついたカレルが御帰宅。イソイソとお給仕に向かうミユリさん。腰が軽いなw
「わかったぞ」
ボックス席に陣取り、ギブスのついた足をソファに投げ出す。ソレをニコニコと見ているミユリさん。
「おかえりなさいませ、御主人様…カレル、何がわかったの?」
「ソレはミユリの罪悪感から来る作戦ナンだ」
「作戦って何の?」
さすがにキョトンとスル。
「こないだ御屋敷のパイ持参でお見舞いに来てくれたのは、俺の怪我にミユリは責任を感じてるからだ」
「うーん。カレル、そんなんじゃないわ。なんで私が貴方に責任を感じなくちゃいけないの?」
「だって、俺は今シーズンはもう監督プレイは出来ないンだ。せっかく(イメクラの)チアガール付きのゴージャスコースを頼んだのに」
フランス人みたいに両手を広げて肩をスボめる。
「カレル、それマジなの?ホントごめんなさい。私ったら…」
何とボックス席の隣に座るメイド長。ソレは過剰サービスだろ。コスプレキャバクラなのか、ココは?
「ほら。そうだろ?ミユリは、俺の怪我に責任を感じてルンだ」
「わかった、認めるわ。確かに私のせいカモしれない。あのシーンで私があんな大きな声を出さなければ、カレルが驚いてコケるコトもなかった。確かに池袋時代の元カノに突然大声で応援されちゃ迷惑よね。まさか、あんなコトになるなんて夢にも思わなかったし、せっかくのチアガール付きの監督プレイセットを台無しにしてマジごめんなさい」
「…ゴージャスコースといっても、どうせ残りは20分ほどだったンだ。それより、今まで俺達は色々あって別れたけれど、ミユリは、池袋ではいつもストレートだったよな。別れる時も、ミユリはハッキリと言ったのに、俺ときたらゴネて、秋葉原までミユリを追いかけ、嫌なコトを言ったりした」
さらにキョトン顔のミユリさん。
「ねぇソレ、もしかして私に謝ってるの?」
「ま、まぁな」
「あの偏屈マハラジャNo.1のカレル様がベリーダンサーに謝る日が来るなんて、夢にも思わなかったわ!」
マジ驚くミユリさん。カレルも大きくうなずく。
「俺も…驚いてる」
「急にどうしたの?」
「実は、自分でもよくわからないんだ。でも、この2日間ソファにヘタリこんで色んなコトを考えていた。漫然と動画を見てたら、元カレが暴れるの、なんて相談コーナーがあった。すると、何となく自分のコトも客観的に見れるようになったんだ」
支離滅裂だがウソでは無さそうだ。
「とにかく!その時、思ったんだ。ミユリと今度はヲタ友になれたら良いなって」
「マジ?…そう。私達、良いヲタ友になれるカモしれないわ」
「そっか。ソレじゃ今日はランチでも食うか」
メイド長お手製のメニューを渡すミユリさん。
「どうぞ。私のお絵描き付き特製メニューょ」
「脂肪とコレステロールをたっぷりと含んでて、そのくせ栄養バランスがめちゃくちゃに悪い奴を食べたいんだ。メイド長のお薦めは?」
「そういうのは御屋敷の得意分野よ。教えてあげるわ。メニューのここら辺に載っているのは、大体脂肪がたっぷりで…」
メニューを指差しながらカレルに覆い被さるようになるミユリさん。微乳が目の前に迫り焦るカレル。
ミユリさん、サービスし過ぎだw
ちょうど御帰宅しようとしてた僕は、顔を寄せ合いメニューを見る2人に思わず足が止まってしまう。
「ねぇカレル。食後に"火星の極冠パフェ"なんかどう?砂糖がたっぷり入ってるわ。もちろん、モノホンの砂糖を使ってルンだから」
回れ右だ。僕は足早に歩き去る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
何とYUI店長が万世橋のラギィ警部のオフィスにいる。コレは"任意の事情聴取"という奴だろうか。
「警部。何か大事なお話がおアリとのコトでしたが…店を開けたママなので出来れば手短かに」
「自主的に捜査協力をお申し出いただき恐縮です。実はコレを見ていただきたかったのです」
「何でしょう?」
ラギィはキャビネットからファイルを取り出す。
「コレは先日"メカゴジラ-2.5カフェ"における、秋葉原初の音波銃による乱射事件の報告書です」
ファイルを読み出すYUI店長。直ぐ顔を上げる。
「ミユリ姐さんとテリィたんが同時に現場にいたというのか?」
「YES。目撃者がいます」
「しかも、事件後に2人は走って逃げたとあります。どうして、2人は逃げたのかな」
ニヤリとするラギィ警部。
「でしょ?やはり、そこが疑問なんですよ。特に逃げる必要なんかないのにナゼ逃げたのか?次のページに理由があります。コレは、目撃者の供述書なんですがね」
デスクを立ちYUI店長の隣に座るラギィ。
「ラリト・リンクとジフカ・リングの供述書です。このカップルは、偶然現場に居合わせたインバウンドで、信頼度には確かに問題もアリ、オマケに陰謀論者でもアルのですが…」
「え。陰謀論者なのw」
「とにかく!2人とも証言してルンです。ブラックホール第2.5惑星人のコスプレをしたウェイトレスが音波銃で腹部を撃たれるのを見たと」
思わズ立ち上がるYUI店長。
「撃たれたのはミユリ姐さんだったのか?」
「さらに、こうも証言しています。ヲタクが推しに駆け寄って、腹部に手をかざして、推しの傷を直したと」
「え。いったいコレは…」
絶句スルYUI店長。
「ウチの常連であるテリィたんには…と言うか、ヲタクには推しの傷を癒す超能力がアルとでも、おっしゃってルンですか?」
「YUIさんはどう思われますか?」
「ぐっ…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ホラ、コッチに来てお食べ"
マチガイダの壁掛けTVに流れてるのは、今年の初め常連一同で神田明神に初詣に逝った時の画像だ。
「YUI店長、どーしたの?"メトロ戦隊地下レンジャー"の来週放映のパイロット画像を見ようょ」
「テリィたん。コレを見てくれ」
「え。何?」
リモコンを操作するYUI店長。画像逆戻し。
「ココだ」
「何処だょ?地下レンジャーの画像、見たくないのか?ピンクが妊娠する回だぜ。お腹の子の父親は…」
「しっ。静かに」
画像のボリュームを上げるYUI店長。
"ミユリ姐さん。あの黒い鳩、動かないぞ。怪我してるのかな?"
"YUI店長、そっとしておいてあげれば?病気なのカモしれません"
"あぁ羽根が折れちゃってる。こりゃ飛べないよ。そっとしておいてあげるしかないな"
ところが、ミユリさんが鳩を抱き抱え空に放つや、コンドル、ではなくて、鳩は元旦の寒空に消える。
"おい!みんな、今のを見たか?"
空に向かって両手を広げるミユリさんの画像に被るYUI店長の素っ頓狂な声。直後に画面は突然砂嵐。
「テリィたん、教えてくれ。ミユリ姐さんは、あの鳩に何をしたンだ?羽根は確かに折れていたのに、姐さんが触っただけでスッカリ元気になって空に飛んで行ったンだぞ!」
「半年も前のコトだ。そんな昔のコト…」
「カサブランカごっこはヤメろ。他にも何度も同じようなコトがあった。でも、いつも何をどう考えて良いのかわからなくなり、全部忘れるコトにしてきた。でも、やっと思い出した。姐さんがキッチンの火を消してくれたのを見てな」
マズいな…話を変えよう。
「どうして、腐女子のコトを責めるんだ」
「俺がか?俺は腐女子を責めたりしてないぞ」
「責めてるさ。ミユリさんのコトを変人扱いだ」
マンマと話題はそれる。
「俺は真実を知りたいんだ。ソレだけだ」
「何で知りたい?僕達は、みんなヲタクでマチガイダのチリドッグが大好きだ。ソレは罪なのか?どうして、そんな取り調べみたいなコトを聞くんだ」
「違うょテリィ…」
ズラかろう。逃げ足の速さには定評の僕。
「YUI店長。もうヤメてくれ。コレは尋問だ」
「違う。俺はテリィたんと話をしたいだけで…」
「今日のYUI店長とは、コレ以上、話すコトはナイ。もう聞かないでくれ」
立ち上がる。逃げ足の早さでは定評がアル僕←
「テリィたん。お願いだから隠さずに話してくれ」
「嫌だ。話せないんだ」
「テリィたん、どこへ行く?」
両手を上げ天を仰いで溜め息をつくYUI店長。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裏アキバにある芳林パークは名前が示す通り森林公園だ。アキバのセントラル・パークとも呼ばれる。
池に向かって石を投げるエアリ。
「ミユリ姉様。何で鳩を助けたりしたの?」
「未だ自分が"覚醒"したかどうかもわからなかった頃の話ょ。そう思ったら…そうなっただけ」
「ミユリさんを責めるのはヤメよう。クールに考え問題を解決しよう」
僕は、池のほとりにメイド3人を集めて会議中。
「テリィたん。解決ってどうする気なの?」
「ソレを今から話し合うんだよ」
「とにかく、YUI店長の画像データを早いとこ処分しなくちゃ。ソレを人に見せられたらお終いょ」
物騒なコトを逝うマリレ。
「待って、マリレ。YUI店長は、ソンなコトしないわ。だって、私達のヲタ友だもの…ソレに、あの画像はYUI店長の大事な想い出なの。無闇に消去ナンか出来ないわ」
「でも、ヲタ友とリアル親友とは違う。YUI店長だって、いつ誰に話すかワカラナイわ」
「信頼出来るリアル親友がいるとすれば、ソレはYUI店長だと思うわ」
YUI店長がリアル親友?何かピンと来ないw
「…エアリ。貴女、もしかしてYUI店長に全て話すつもりなのかしら」
「エアリは話さないょ」
「勝手に答えないで、テリィたん。自分の意見ぐらい自分で言うわ。ミユリ姉様、確かにリアル親友を味方につければ心強いと思います。YUI店長なら、きっと私達のリアル親友になってくれるわ」
鼻で笑うマリレ。
「なってくれるハズがナイわ。私達が愛されているのは、秋葉原でメイドをやってるからょ。ソレが"覚醒"したとか何とか言い出したら、みんな間違いなく引くに決まってる」
「違うわよ、マリレ。貴女には理解出来ないだろうけど、YUI店長なら無条件に私達を愛してくれると思うの」
「エアリ。そう言い切れる?」
すると、溜め息をつきながら、視線を床に落としてしまうエアリ。勝負あったカモ。僕は結論を急ぐ。
「やはり、YUI店長に話すのはヤメよう」
「ヤメてょテリィたん。そんなふうに私達に命令スルのは。何様?」
「エアリ!何てコトを逝うの?テリィ様に謝って」
命令?僕はメイド達に命令してるのか?
「姉様も姉様ょ。いつも大事なコトは姉様が勝手に決めてしまうじゃない」
「え。私1人で決めてるワケじゃナイし」
「いいえ。姉様は決めてるわ。ソレもテリィたんの言いなりょ」
だんだん悲しい気持ちになってきたが、ココでミユリさんが全てを包み込むような包容力を発揮スル。
「確かにマリレの逝う通り、テリィ様は"覚醒"もしてなければ超能力も持たないタダのヲタクです」
その逝い方、も少し何とかならないかw
「"覚醒"したスーパーヒロインは、今のところ、マリレとエアリ、そして私の3人だけ。だから、もう喧嘩をヤメましょ。冷静に何を受け入れるべきかを考えましょう」
「姉様、わからないの?私達は、YUI店長というリアル親友を喪失しようとしてる。私、そんなの耐えられない!」
「…マリレ。やはりYUI店長には話せないわ」
結論だ。静かに回れ右をして歩き去るマリレ。とても長い溜め息つくミユリさん。池に石を投げる僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤード。ロッカーを開けたマリレは思い切り怪訝な顔をスル。中に入っていたのは…
「ナプキンホルダー?…handmade by Speare?しかも、thanksって何なの?」
言葉とは裏腹に思い切り幸せそうな顔。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数時間後、再びバックヤード。壁紙のスローガンに"誰かのための貴女"とアル…一応、僕の直筆だ。
「マリレ。ミユリ姉様からの宿題は提出したの?」
「ええ」
「そ。どうだった?」
ホールから戻ったマリレに尋ねるスピア。
「予想通り雷が落ちた。めっちゃ怒られたわ」
「ええっマジ?」
「マジ。あんなのじゃ役に立たないから100均で代わりを買って来るって」
目をまん丸くするスピア。
「私のハンドメイド、ロッカーに入れといたンだけど!気がつかなかった?」
「YES。もちろん、気がついたわ」
「あの力作で怒られたの?ナプキンが外れないようバネまでつけたパーフェクトなホルダーなのに!」
ユックリとうなずくマリレ。
「私もそう思うわ」
「じゃ何で姉様は…私の力作を姉様はどうして怒ったの?」
「うーん。姉様には貴女の力作を見せてないの」
マリレの脳内は大混乱。
「え。何?」
「姉様が"その力作は貴女が使いなさい"って。大事に使うわ。ありがとう、スピア」
「えっ…」
腐女子はコミアゲル感情を制御出来ない。その脳内混乱は最高に美人な笑顔となって表情に出て逝く。
可愛いな…何で彼女と別れたのかな。
「あ、あ、あ、あのね!も1つ聞いて!」
去りかけたが、振り向くスピア。
「もし今度、再び私がこの前みたいに病気になっても、もう絶対に私を助けないで!」
「だから?」
「私達は、誰とも関わりを持つべきじゃない。私達は、孤独を愛する女スナフキン集団なの…なのに貴女と一緒にいると気持ちが落ち着かなくなる。だから…」
言葉に詰まるマリレ。
「だから…だから何?」
「だから…気持ちがおかしくなるの」
「どんなふうに?」
スーパーヒロインは追い詰められる。
「スナフキンがノンノンっぽくなるっていうか…」
「ソレが困るの?」
「困る。大いに困るわ」
険しい顔で見つめ合う。ツンデレなマリレ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷の2Fにあるメイド長個室。僕はノックする。
「テリィ様?何か御用ですか?」
「別に。元気かなと思って」
「元気です。とりあえず…どうかしましたか?」
慎重に答えるミユリさん。カチューシャを外し、髪を下ろしたミユリさんはレアだ。チェキ撮りたい。
「別に。ただメイド長の様子を見に来ただけだ。ホラ、僕はヲーナーだからね」
「そうですか」
「実は、もしミユリさんがカレルとつきあい始めたとしても、僕は怒らないゾって逝いに来た」
ミユリさんは小首を傾げる。
「何ですか?」
「昨日2人で話してるのを見たンだ」
「そーゆーコトですか…よろしいですか?先ず第一に私とカレルはヨリを戻す気などありません。第二に仮にヨリを戻すとしても、もうテリィ様の許可は必要ナイでしょう?」
何処か挑むようなミユリさんの眼差し。
「…ミユリさんもエアリと同じコトを逝うんだな」
「エアリ?エアリがテリィ様に何と?」
「僕は、いつも命令ばかりしてるそうだ」
回答は意外だ。
「ソレは当たってますね」
目の前がグルグル回り出すw
「何だって?」
「確かにテリィ様は色んなコトを心配し過ぎます。1度精神科医と対話してみてはとうでしょう?」
「何が逝いたいんだ?仕方ないだろ?色んな課題を抱えて必死に生きてるだけなのに」
両手を広げるミユリさん。バックに"マドンナ達のララバイ"とかが流れてそうなシチュエーション。
「さぁもっと肩の力抜いて。テリィ様は、お一人様で何もかもを抱え込み過ぎなのです。もっと身近なヲタクを信じても良いのでは?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
裏アキバの芳林パーク。奥は零貫森と呼ばれる鬱蒼とした森だが手前は長閑な児童公園になっている。
「YUI店長。ココだと思ったわ」
YUI店長が振り向くとメイド姿のミユリさんだ。
「おや。姐さんか。ココに座って。来てくれてうれしいな。姐さんに聞きたかったンだ。今まで口に出さずにいたけどな…また池袋に戻りたいと思ったコトは無いか?ずっと考えてた。やっぱり秋葉原はツマラナイと思ってルンじゃないかって。だから、俺達に話せないコトでも池袋の連中になら話せルンじゃないかなって」
「何で、ソンな…YUI店長みたいな濃いヲタ友がいてくれればソレで充分ょ。アキバで出来たヲタ友のおかげで今の私がいるの。だから、私は今、アキバで生きている。池袋には、もう戻らないわ」
「ミユリ姐さん。どんなコトがあっても俺は姐さんの味方だ。神田明神に誓うさ。姐さんは、俺の大事なヲタ友だ。わかってくれるょな?」
うなずくミユリさん。
「じゃナゼ俺に隠しゴトなんかスルんだ?全て話してくれょ」
目を伏せるミユリさん。小脇に抱えた綺麗な包装紙に包まれた何かを取り出し、YUI店長に差し出す。
「YUI店長にプレゼント。綺麗に包めたかな」
「ホットドッグ屋のスノードーム?」
「私がアキバに流れついた時のコトは良く覚えているわ。私は、アキバやヲタクに馴染めなくて、毎晩泣いてばかりいた」
僕と出逢う前の物語だ。
「池袋が恋しかったンだね」
「YES。そしたら、YUI店長がこのスノードームをくれたの。いつか一般人に戻れるようにってね…でもね、YUI店長。所詮、腐女子がパンピーに戻るなんて無理だった。だって、私達はパンピーの頃のコトなんて何1つ覚えてナイの。ホントょ。でも、ソレを信じてもらえないのなら、私達はアキバを出て逝くわ」
「おい!何てコトを言うんだ!秋葉原から出て行くなんて言わないでくれ!」
ベンチから立ち上がるYUI店長。
「だったら!だったら、もう何も聞かないで。私達は危ないコトは何もしてない。異なる時空からの侵略者でもなければ、新アヘン戦争の尖兵でもない。私達を信じて欲しいの。だって、YUI店長は私達の大事なヲタ友だから。私達のヲタ友はYUI店長しかいないの。お願いょ」
ミユリさんは泣いている。YUI店長はうなずく。
「OK。わかったょ姐さん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
零貫森の奥にある貯水池。全てが黄昏に染まる頃。ケッテンクラートで乗り付けるミユリさん。
「私達、初めて喧嘩したわね」
「YES。そうカモ」
「面白かった?」
エアリは笑う。
「悪かったわ。ごめんなさい」
「私こそ…姉様、YUI店長と話したの?」
「話したわ」
エアリは、目を大きく見開く。期待を込め、ミユリさんに明るい顔を向けるエアリ。
「打ち明けたのね?」
「いいえ」
「ソンな…」
みるみる失望が広がり、打ちひしがれて逝く。健気にうなずこうとスルが、次の瞬間、涙がブワッとこみ上げて来て泣き笑いの顔になる。嗚咽が漏れる。
「ごめんなさい、姉様。私、YUI店長には話して欲しかった」
「エアリの気持ちはわかる。でも、大丈夫だから。エアリには私達がいる。だから、大丈夫」
「だけど!だけど…」
ミユリさんは、エアリの腕をさすりハグ。エアリはミユリさんの首に手を回す。貯水池の水面が光る。
全てが黄昏色に染まって逝く。
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"ヒロインの秘密"をテーマに、ある夜を境に突然、腐女子からスーパーヒロインに"覚醒"してしまったヒロイン達の苦悩を描きました。
新人類の誕生により、自分達が進化から取り残された存在となるコトを恐れた一般人は、ヒロイン達を差別します。果たして、スーパーヒロインは、新しい種別なのか、ソレとも単なるミュータントなのか。
さらに"覚醒"したスーパーヒロインと覚醒以前の腐女子との百合模様などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、今や街を行く人々の大部分はインバウンドとなった秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。