アーポトシス
「アポトーシスって知ってるか?」
放課後の帰り道、友達が不意にそう言った。
「なにそれ?」
「AIにでも聞いてみなよ」
「AI? 俺、使ってないけど」
「いいAIを見つけたんだ。面白いぞ。試してみろって」
「へぇ……」
特に気にも留めず、その日は帰宅した。
「ただいまー」
「おかえり。今日は早かったのね」
「うん。部活が早めに終わった」
制服を脱いで自室に戻る。机に向かうふりをして、結局は椅子にだらけた体を沈める。
「……勉強、めんどいな。ゲームでもやるか……あ、そうだ。AI」
パソコンを起動し、なんとなく検索してみる。
『AI YUUK』
出てきたサイトをクリック。どこか素人臭い、でも無機質に整えられた画面。
「YUUK……ユーク? まあ、いいか」
試しに入力欄に打ち込む。
『アポトーシスについて教えて』
数秒の沈黙。
突然、画像が送られてきた。
「ん? なんで写真?」
画面に表示されたのは、埃をかぶった古びた書庫の写真だった。棚には年月を重ねた分厚い本が並び、その背表紙にはにじんだ文字がかすかに浮かぶ。
「……気味悪いな」
目を凝らしてみても、文字は判読できない。
続けて、もう一枚の写真が表示される。
今度は、家族の写真。食卓の前に並ぶ父・母・そして僕――その中で、唯一笑っているのは女の子。見知らぬ少女だ。しかも――
「……表情が、どこか暗い……」
「ご飯できたわよ〜」
母の声が階下から響いた。
「はーい、今行くよ」
食卓につく。
「ねえ母さん、聞いてよ」
「なぁに?」
「友達にすすめられたAI使ってみたらさ、変な写真ばっか送られてくるんだよ……」
「ふぅん……そう」
母はそれ以上、何も言わなかった。
──最近、母さんの様子が、どこか変だ。
疲れてるのか、元気がない。話しかけても、どこか上の空。
「ごちそうさまー。風呂入ってくるね」
「……あっ、ごめん。まだお風呂沸いてないの。少し部屋で待っててくれる?」
「……うん、わかった」
部屋に戻り、机に座る。
──そのとき、廊下の向こう、母の小さな声が聞こえた。
「……もしもし。はい、例の件で……」
「え?」
聞き間違いかと思ったが、続けてAIからまた通知。
新たに送られてきた写真を開くと──そこには、僕の家が映っていた。
窓の形、扉の位置、隣家のフェンス。まぎれもなく、今僕がいる場所。
「な、なんだよこれ……」
震える手でマウスを操作し、最初の書庫の写真をもう一度拡大する。
小さな英語の文字が、ぼんやりと浮かび上がる。
《I'm going to take you now.》
「今から君を連れていく……? 冗談だろ……?」
画面にまた写真が送られる。
そこには、母らしき女性と、知らない少女が写っていた。
「これ……おばあちゃん家の前だよな……?」
──そのとき、玄関のドアが激しく叩かれた。
ドン、ドン、ドン!
「……母さん?」
ドアの外からは何も返ってこない。
僕の心臓の鼓動だけが、はっきりと聞こえる。
アポトーシス――
それは、細胞が自ら死を選ぶという“仕組まれた終わり”。




