表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

海辺の波のように

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 私は時々思うことがある。若いとき、バス停に立っていて雨が降りしきる中ニャーニャー鳴き声がするので、見回してふと足下を見たら子猫が一匹じゃれついていた。


 私は逡巡してその場から逃げ出した。そのときはネコは好きじゃなかったし、飼える環境じゃなかったからだ。


 でも、雨の中置いてきぼりにしたのはその後数十年後悔する羽目になった。


 若いとき、女の子にモテた。電話番号を書いた紙を渡してくる女の子、街を歩いているとこっちを見てニコッと微笑んでくる女の子、電車でこちらを友達と一緒に気のある顔で見てくる女の子。でも、私は対人恐怖症だったので、怖かった。ひたすら怖かった。その場から逃げ出したのだ。


 若いときから仕事が続かなかった。フリーターという言葉が流行ったが、仕事を数ヶ月で転々としていた。私は会社を信用してなかった。出会った会社が悪いとも言えるのだが、クビにできないことをいいことに、正社員に色々要求してくるのが堪らなく嫌だった。配置転換や出張、サービス残業をされられた私は、ホワイトな環境を求めて転々とした。正社員にならないかという話もあったのだが断った。


 人生の後半になり結婚もせず定職も就かなかった私は後悔することが多くなった。なぜ、あのときのチャンスを生かせなかったのだろうかと。


 人生の転機が訪れた。ただ、何が起こったのか分からない。いつの間にかフリーランスとして高収入が得られる環境に居ることに気づいたのだった。潮目が変わったようだ。


 後悔して死にたくない。余生はやりたいようにやるのだ。もっとも、今までもやりたいようにやってきたのだが。


 対人恐怖症は心療内科で処方された抗不安剤の服用を続けている内に初対面の人と普通に話せるようになった。


 そして、マッチングサイトに登録して彼女が出来た。出会った彼女は性格が良かった。歳が離れているので別に恋人が出来たと言われたら身を引くつもりだが、収入が上がったのでデートにお金を掛けられるようになった。傍目から見れば恋人と言うよりは愛人に見えるだろうなと思いながら。


 整体に通い出し、そこで先生からネコの里親を探しているとの話を聞いた。フリーランスになって引っ越したときにペット可のマンションに引っ越していたが、なかなかペットを飼うことに踏み切れなかったのだ。


 この機会を逃してはいけない。年齢的にペットを飼える最後のチャンスだ。そう感じた僕は、整体の先生に言ってネコをもらい受けることにした。そして、汗を書きながらゲージを組み立て迎え入れる準備をしたところ。明日、ネコが来る手はずになっている。


 人生、2度目のチャンスが巡ってくる。子供はつくれなかったけど、海外の子供たちに寄付をしている。絶望することはない。物事は形を変えて何度でもやってくる。


 海辺の波のように。

全ての著作権は私、葉沢敬一にあり、勝手な書籍化、マンガ化、ドラマ化、映画化などは禁止します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ