第1話 眠れる森の少女たち
ふかい、ふかい、森のおく。
ちいさな小屋に、ふたりの女の子が住んでいました。
エマはベッドに横たわる少女に、すりおろしたりんごを持ってきました。
「リリー、お風邪大丈夫?」
「もちろん、すぐ良くなるわ!」
リリーはわらって、りんごを食べます。
「このりんご、美味しい」
「ほんと? いっぱいあるから」
「うん、エマ、だいすき」
エマはきょとんとして、リリーを見ました。
するととつぜん、リリーは咳をしました。
「リリー、大丈夫!?」
「うん、ありがとう」
「早く良くなるといいね」
エマはリリーの手をにぎりました。
リリーはあたたかく、握り返しました。
「エマは、わたしのこと好き?」
「うん、おとなになったら結婚しよう」
「わたしたち、女の子同士でしょう?」
「関係ないよ。愛しあっていれば」
「そうね」
風の音でベッドがきしみました。
それから3ヶ月が経ちました。
リリーはもう動けなくなってしまいました。
「エマ、そこにいるの?」
「わたしはここにいるよ」
エマはリリーを抱きしめます。
「あたたかいわ」
「リリー……」
「エマ、約束守れなくてごめんね」
「そんなこと言っちゃだめ。リリーはまだ生きるのよ」
「これからもずっと、わたしのこと好きでいてね」
エマはリリーの手を握りました。
リリーはもう、握り返すことができませんでした。
「リリー」
「……」
「ずっと、大好きだよ」
エマはリリーのお墓を建てました。
エマはそれからも、リリーのためにりんごを持ってきました。
やがてエマも、そのお墓に埋まりました。