96 プール・レクリエーション⑦
「ごめん、待たせちゃったね」
「わたしはチアの練習あるからどうせ焼けちゃうけどね」
アリサや大月さんと違って紬は初めから水着のままだった。
ある程度焼けることを想定していたのかも。
さてローションを手に取る。
「わたしもそのくすぐったいのは苦手で……。特に足の裏とかは我慢できる気がしないんだよね」
「ふーん」
「だから絶対しちゃ駄目だからね。アリサちゃんと同じで禁止だから」
「ああ、紬にはすることはないよ」
「なんで!? してくれなきゃドキドキする意味ないじゃない!」
どいつもこいつもMかよ! 予想もしない紬からの抗議で何か止めたくなってきた。
「思いっきり蹴られそうだからしません」
チアで鍛えられた足技で蹴られでもしたら僕は死ぬ。
そんなわけで紬の背中に日焼け止めローションを塗った。
「つめたっ! でも……気持ちいいかも」
二度目ゆえにちょっと慣れてきた。
紬は背中の筋肉に張りがあるな。最近はずっとチアの練習ばかりしてるから疲れが溜まってるのかも。
マッサージも兼ねて筋肉をほぐしてあげよう。
上半身をしっかりとほぐして次は下半身だ。
うむ。
「紬って太もも……あるよね」
「ちょっと! 結構気にしてるんだから!」
紬は振り返り恥ずかしそうに叫んだ。紬は動じない方だが太ももネタの時だけは過敏に反応する。
多分アリサよりも太いと思う。
だが太ももフェチとしてはこの大きさは大満足だ。
チアの練習で鍛え上げ、トップとして宙を舞う紬の姿はうつくしい。
その太ももにしっかりと日焼け止めローションを振り込んでいく。
「うぅ……なんか恥ずかしくなってきた」
コンプレックスを刺激しているのか紬は僕が太ももに触る手の圧を強くするたびに体を強く揺すろうとする。
その度に揺れる。身がしっかりついたお尻……お尻。
なぜか僕はそこに手を出していた。
「ひゃあっ! ちょっと涼真、どこ触ってるの!?」
「え? ああ、お尻も日焼けするのかなって」
「するわけないじゃん! ちょ、やん。揉まないで」
「お、幼馴染みならいいと思って」
揉んでいる内にこれやばくねって思ったが幼馴染みで押し通すことにした。
紬がいつも使ってくる手を僕が使っただけだ。
「これ駄目だと思う!」
「いいと思うよ」
「アリサちゃんも駄目だと思うよね!?」
やばい、アリサの回答によってはまずいことに。
「私、触られてないんだけど! どうして紬だけ!」
「じゃあ触っていいの?」
「……」
アリサは少し思考の後、大きく叫んだ。
「駄目に決まってるでしょ!」
「なんで言ったの!?」
だがおかげでお尻揉み揉みの件は有耶無耶にすることができた。
危なかった……。
アリサと紬、二人とも日焼け止めを塗ってドキドキしたけどどっと疲れる時間がようやく終わる。
はぁ……。もう泳ぐ前から限界だよ。
「ちょっとトイレに行くわ。前の方も日焼け止め塗っておきたいし」
「あ、わたしも!」
個人的に前の方を塗らせて欲しかったと言ったら多分、侮蔑の言葉を吐きかけられるだろう。
アリサと紬は人ごみの中へ消えていった。
さて一人、みんなを待つことにしようか。
「あれ、小暮くん一人?」
「大月さん」
ラッシュガードを着た大月さんが戻ってきた。確かひよりと獅子と家族ごっこしてたはずだが。
「ひよりちゃんは獅子くんが見てるよ」
「ならどうして先に」
「わたし、日焼けに弱くてすぐ赤くなっちゃうの。だからアリサに塗ってもらおうと思ったんだけど」
だから先に戻ってきたのか。だけどアリサはまだ戻ってこない。
大月さんにはそのことを伝えた。
「紬さんもいないんだ。どうしよ……。早く塗らないと」
「獅子を呼び出しましょう」
僕はスマホを使って獅子に連絡をする。
迷子防止のために全員移動時にちゃんとスマホを持つように言ってある。ちなみにひよりも迷子にならないように位置追跡タグをつけている。
天使のお迎えでうっかり天界に行かないようにしないといけないからね。
お、獅子と繋がった。
「獅子、大月さんに日焼け止めを塗ってあげてほしい。女性陣が今いないんだ」
「悪りぃ、ひよりが向こうのイベントを見たいって言っててな」
「じゃあ変わるよ。一度戻って」
「だから俺の代わりに雫に日焼け止めローションを塗ってやってくれ」
「は?」