93 プール・レクリエーション④
僕達は電車に乗って移動することにした。
電車の中は必然的に女性陣と男性陣に別れることになる。
「ひー、ウォータパークは初めてなの!」
「へぇそうなんだ。今日は一緒に遊ぼうね」
「うん!」
「……」
「さっきからずっと朝比奈の方を見てるよな」
「うえ!? そ、そうかな」
獅子に指摘されて慌ててしまう。
そんなに見ていただろうか。いや、見てたよな。
少し距離が離れているので話し声は女性陣には聞こえないはずだ。
「アリサってやっぱり綺麗だなって思ってさ。元々分かっていたんだけど……接する内に本当に優しくて話してるのが楽しくて。獅子はどう思う?」
「いや雫の方が可愛いだろ。雫が世界一可愛いぞ」
「アリサと同じこと言わないでよ。獅子に聞いた僕がバカだった」
「冗談だって。ま、そこまで想うんならだいぶ本気なんだろ。俺は朝比奈が気に食わねぇが涼真を評価してるって点だけは認めてやってもいい。悔しいがいい目をしている」
「また同じこと言ってる」
ほんとそっくりだなこの二人。
アリサのお兄さんの静流さんと会わせたら瓜二つになるんじゃないか。大月さん的には前好きな人と今好きな人で修羅場になるかもだけど。
電車がガタゴト動く中、僕は少し考えてしまう。
この気持ちのまま突き進むことを良しとしていいのだろうか。
「僕にまた誰かを好きなる資格あるのかな。中学の時のみんなはきっと無いって言うだろうね」
「……かもな。でも俺はあると言い続けるぞ。涼真は悪くないってあの時からずっと言い続けている。だから誰を好きになったって構わない。恋した気持ちは止められねぇよ」
恋をした獅子だから言えることだ。
だけど僕と関わったせいで、あの子が傷ついたのも事実。
その事実がある以上僕が誰かを好きになることは許されないだろう。
でも獅子の言う通り止められない気持ちが僕にだってある。
「本当に罰だって言うなら十分は罰は受けてるだろ。その目のハンデだってあいつらは知らないんだろ」
「そうだね……」
「俺は何があっても涼真を助けるって決めてるからな。それだけは忘れるなよ」
「ありがと獅子」
僕は本当に良い友達を持ったと思う。
僕の幼馴染みの親友は本当に誰よりも格好いい。
「じゃあ僕と大月さんが危機に陥った時、どっちに手を差し伸べるのさ」
「……」
獅子は目をぱちくりさせて考えた。
「俺は雫関係以外なら何があっても涼真を」
「訂正するのかよ!」
「そうは言うけど涼真だって、もし俺と例えば朝比奈が危機に陥った時どっちに手を差し伸べるんだよ」
「そりゃアリサかな」
「ほらぁ!」
「だって獅子なら目合わせでその危機をくぐり抜けられるって信じてるから。僕達は意思疎通ができるんだ。だから僕は他の子を助ける。これは信頼だよ!」
「そ、そうかそう言われたら仕方ねぇ……。あれ? 何か上手く言いくるめられてないか」
こんなおふざけな言葉を投げかけあえるのはも同性の親友だからだろう。
獅子とはいつまでもこんなバカ話を言い続けたい。
気付けば女性陣がじっと僕と獅子を見ていた。
「本当に涼真と平沢くんって仲いいわね。涼真がそんなに楽しそうな所……私じゃ引き出せないって言うの?」
「ほんとそうだよ。わたしよりもいつだって獅子を選ぶんだから。涼真のバカ。男好き」
「それは言いがかりじゃないかな!」
アリサと紬に軽く睨まれて僕は冷や汗をかく。
それ以上に困っていたのは獅子だった。
「し、雫」
「獅子くん、浮気はダメだよ」
何で浮気になるんだよ。
「一度や二度くらい見逃してくれよ!」
浮気前提で物を言うなよ。
まったく二人ならともかく女性陣も含めればもっとおかしなやりとりが行われるに違いない。
まぁ……それも楽しいからいいんだけどね。
そうこうしている内にプール施設の最寄り駅に到着した。
県内随一のレジャープール施設、ウォータパーク。
何種類もあるプールに流れるプール、大型スライダーも存在する。
夜にはナイトプールもあって多くのカップルが……これは関係ないか。
水着のまま持ち込んだ昼食を取ることができるスペースもあり、これが今回の決め手となった、
何より凄いのは冷蔵ロッカーがあることだ。
なので泳いでる間、弁当を長い時間預けることができる。
みんなで手分けして持った昼食を預けて、僕達は更衣室の前に言った。
「じゃあ紬、ひよりを頼むよ」
「了解~。そっちの方が着替え早いと思うし、設営お願いね」
「分かったよ」
僕と獅子は更衣室へ行き、手早く着替えて、プールの方へ行き、休憩スペースを設営した。
ここでご飯を食べたりも出来るので6人が一緒にいられて、パラソルにより日が当たりづらい所を選んだ。
しかし広いパークだなぁ。海に来てる感覚だよ。
客も多いしほんと人気のレジャー施設だな。
うーむ。
「どうした涼真」
「いやさ。もうすぐ女性陣が水着で来るじゃないか。何かドキドキして」
「ドキドキ?」
獅子は分かっていなさそうだった。これだから恋人持ちのリア充は困る。
答えてあげることにした。
「僕にとって女の子が肌色面積の多い水着で来ることにドキドキするんだよ。特にアリサや紬はスタイルいいし」
「ああ、涼真巨乳好きだもんな」
「そうだけど……。その話、大月さんには言ってないよね」
「あ」
獅子はそっぽを向いた。
「獅子、どれだけ僕の性癖を大月さんにバラしてるの」
「違うんだよ!」
獅子は焦ったように腕を大ぶりさせて言い訳を始めた。
「雫に可愛い仕草で小暮くんのこと全部教えて♡ って言われたら性癖その他全部教えるしかないだろ。安心しろ。過去のことはプライバシーだからな。雫にも言ってない」
「性癖系も十分プライバシーだろ! だからか、アリサがいつも胸を強調させるような服を着てくるな」
「良かったじゃん」
「開き直るなよ」
まぁ嬉しいんだけどさ。でも目線とかあるし、バレて揶揄われてるし。
「俺は巨乳女に魅力を感じねーんだよな。何がいいか分からん」
「良かったね。大月さんが巨乳じゃなくて」
「それ絶対雫に言うなよ。氷の笑みになるから」
何となく予想はつく。
しかし僕の性癖ばかりバラされるのは納得いかない。
「大月さんに後で話しておこうかな。獅子が実は腋フェチで好きな子の腋をペロペロしたいって」
「おわっ! やめてくれ。それはまだ話せてないんだぁぁぁぁ!」
イケメン爽やか人気男の密かな性癖。
僕もその魅力は何となく分かるけどね。
腋もいいけど太もももいいよね。性癖は人による。
「れお! にーにー!」
そこに天使が舞い降りてきた。