89 負けるもんか②(紬視点)
心からの叫び声だった。
そしてその相手は分かっている。
ふーん、アリサちゃんと同じ部屋で一緒に過ごしたんだ。わたしその話聞いてない。
「あんたから告白したらいいんじゃ」
誰もが思うことを相手の子から告げられる。
その言葉にアリサちゃんは大声で返した。
「フラれたらどうするのよ! 私、フラれたら生きていけないんだけど! 死ぬわよ!」
凜々しくて格好いい。学校一の美少女のアリサちゃんの面影が完全に消え失せちゃっている。
相手の子達は皆、唖然としていた。アリサちゃんが恋に悩みまくっているなんて思ってもみなかったんだろう。
わたしは一度深呼吸をした。
「わたしもアリサちゃんもあなた達とそんな変わらないよ。好きな人を想うと胸が苦しくなるし、他の人を好きになるんじゃって不安にもなる」
「……」
目の前の女子達がお互いを見合う。
「けど結局話をするしかないの。その人が好きならもっと話をして好きになってもらわなきゃ。こんな所で言い争ってる時間なんてもったいない」
「……うん」
わたしに好きな人を盗られたと思い込んでいる子が頷いた。
「わたし好きな人がいるよ。ずっと十年間思い続けてきた人なの。多分あなたが好きな人とは被っていないと思う。だから……頑張って」
「詰め寄ってごめんなさい」
ぺこりと頭を下げてくれた。わたしに敵意がないって分かってくれたかな。
文句を言っていた子達も言いづらそうになしていた。
このまま言い争っても仕方ないと分かったんだろう。
「みんな行こ」
わたしとアリサちゃんを残して女子達は向こうへ行ってしまった。
ふぅ……。やっぱりはっきりと言わなきゃいけないんだね。
ちゃんと話せば理解できることがある。
アリサちゃんの方に顔を向けた。何だかぶつぶつ言ってるような気がするけど……お礼を言わなきゃね。
「アリサちゃん、ありがとう。お友達と言ってくれたこと凄く嬉しかった。これからもずっと」
「紬ぃぃぃ!」
「ひぇっ!」
アリサちゃんに両肩を捕まれる。
「す、す、好きな人がいるって。しかも十年間思い続けたってそれってもしかして」
「涼真のことだよ」
「や、やっぱりぃぃ! でも幼馴染として好きってあの時は!」
お風呂一緒に入った時に言ったっけ。
あれは間違いじゃないよ。幼馴染みとしてずっと涼真が好きだった。その感情に恋愛感情が含まれたことにこの前やっと気付いただけだから。
だからアリサちゃんとイチャイチャしてる所を見たら胸が痛くなるんだって。
わたし、5歳の頃からずっと涼真のことが男の子として好きだったんだ。
「アリサちゃん、わたし負けないからね」
「そ、そんなぁ……」
アリサちゃんは少し勘違いをしてるけど……可愛いしこのままでいいかなって思う。
わたしは負けたくない。だからこそこの涼真への気持ちは封印しようと思っている。
だって涼真ってアリサちゃんに夢中なんだもん……。
そうだよね。かっこ良くて、凜々しくて、時々抜けてて、そんな所が可愛い。まるで獅子みたいな女の子。涼真が好きにならないはずがない。
だからわたしは勝負しないことに決めた。
勝負しなければ負けないから。わたしは負けヒロインに絶対にならない。
だからわたしはいつまでも幼馴染みとして涼真を好きでい続けるよ。
「強力なライバルすぎる……どうすればいいの。こうなったら海に沈めるか……山に埋めるか」
アリサちゃんが物騒なことを呟いてる件。
わたし選択間違えてないよね、大丈夫だよね。
戸惑うアリサちゃんが可愛いなぁとは思うけどやり過ぎないようにしないと……。
これからは友達として応援するからね。