88 負けるもんか①(紬視点)
「あんたさ。今日も告られたらしいじゃん。そいつこの子の想い人だったんだぞ。人の好きな男に色目使うのやめろよ。あんたのせいで傷つく子いっぱいいんだよ」
「男に媚びててほんと嫌な女」
「……ひどい。ずっとずっと好きだったのに横からかすめ取るなんて」
やっぱり十年言われ続けたからこうやって詰め寄られるのは怖い。
でも……こうやって弱気でいる限りずっと言われ続けるんだと思う。
わたしがおとなしくしていてもきっと好転はしない。
わたしが成功するのはいつだってわたしがわたしらしくいた時だ。
「言いたいことはそれだけ?」
「はぁ?」
言い返されると思っていなかったのか。
目の前の名前も知らない女子達は表情を歪ませた。
わたしは胸のドキドキを押さえて、目の前のこいつらが獅子だと思って喋ることにした。
そうすればわたしは強気でいられる。
別に嫌われたっていいんだ。ここにはわたしを受け入れてくれる幼馴染みがいるんだから。
「それをわたしに言われても正直困るよ。わたしのせいで傷つくってどういう発想なの?」
「なんだと!?」
「わたしだって選ぶ権利があるんだよ。好きでもない男子に告白されて嬉しいわけないじゃない。人の好きな人に色目って言うならそっちがさっさと好きだって言えば良かったことでしょ。わたしのせいにしないで」
「……あんた、本当柊なのか」
この前までのわたしだったらびくびくして何も言えず謝っていたことだろう。
だけどわたしは何も悪くないんだから言いたいこと言っていいはず。目の前の女子達が獅子なのであればわたしは言いたいことを全力で言う。
「もう我慢しないって決めたし。あなた達みたいなわけわかんない嫉妬で文句を言う人達にわたしは屈したりしない」
「生意気なっ!」
女の一人が手を挙げた。
うん、一発食らうか。そしたら顔面に跳び蹴りを食らわせよう。
わたしは痛みを予想し、目を瞑った。
だけどその痛みはいつまで経ってもこなかった。
そう、目の前には金色の髪をした女の子がその攻撃を受け止めていたのだ。
「暴力は良くないと思うわよ」
何より美しいエメラルドグリーンの瞳が攻撃的な女子達をにらみつける。
アリサちゃん……。どうしてここに。
「朝比奈アリサ! あんたには関係ない」
「関係ないことないわ」
アリサちゃんがわたしを見た。
「紬は私の友達だから。友達を助けるのは当たり前のことでしょ」
当たり前のように言ってくれるアリサちゃんの言葉が凄く嬉しかった。
やばいかっこ良すぎる。
わたしは女の子の友達が本当にできなかったからこうやって言ってくれるのは凄く嬉しい。
「ちょっと話聞かせてもらったけど、紬に落ち度はないわよね。そもそも色目を使えないあなた達が悪いのよ。無力を人のせいにしないで」
アリサちゃんもきっとわたしと同じような目に遭ったことがあるはずだ。
でも彼女は凜々しく、格好いい。どんな相手にも負けなかったんだろう。
わたしもアリサちゃんみたいに負けない女の子になりたい。そうすればアリサちゃんみたいになれるから。
相手の一人が大きく前へ出てきた。この子がわたしに好きな人を盗られたって思った子だっけ。
そもそも盗ってないし、どの男かも分からない。
「あんた達みたいに美人に生まれたら悩まなかった! どうせあなた達は男だって選びたい放題で困ったこともないんだろうな」
その言い方、腹が立つ。わたしは言い返そうとした。
「そんなこと!」
「そう言われたのに、全然そんなことないんだけど!」
わたしの言葉よりも早くアリサちゃんの声が響いた。
何かアリサちゃん頭抱えてない?
「いっぱいいっぱいアプローチしてるのに全然届かないの! 体張って好みの服を着てるはずなのに、この前だって同じ部屋で一緒に過ごしたのに結局手を合わせる以上はなかったし!」
「アリサちゃん?」
「何が私なら絶対落とせるよ! その顔と体で落とせない男はいないって! 全然落ちてくれないじゃない、告白してくれない。うそつきっ!」
場の空気が凍った気がする。