87 わたしの幼馴染み達②
今回は……。そう、わたしが引っ越す前の大げんかで涼真は獅子についていた。
だから悔しくて二人に引っ越しのことを告げられずにこの街を去ったのだ。だから涼真がわたしについてくれたことがとても嬉しかった。
「おおい! 涼真、俺を裏切るのかぁ!」
獅子は悲しそうに憤る。
「うん、だって裏切ったじゃん。この前大月さんに詰め寄られて涙目の僕の助けを無視して大月さんについたじゃないか」
「あの時はぁぁぁ、仕方ないだろぉぉぉ。なぁ涼真聞いてくれ! 俺は雫を大切にするって決めてるんだ。でも涼真だって親友だから大切だ。だからさ」
そんなことがあったんだ。獅子が涼真を選ばないなんてね。
獅子はにこりと笑顔を見せた。
「雫の次、二番じゃダメなのか?」
「ダメに決まってんだろ! 馬鹿か!?」
「やっぱダメかぁぁぁあ」
獅子はその涼真の叫びにやられたように飛び退いた。
「ちっ、涼真がそっちに付くならやめだ。紬!」
獅子がわたしに指をさしてくる。
「決着はまた今度だ。あばよ」
獅子は手を振ってゆっくりと立ち去っていた。
沈んでいたわたしに涼真を手を出してくれる。
「大丈夫? ったく獅子も女の子を普通に殴るんだもんなぁ……」
「だいぶ手加減されてたよ。顔は一回も殴られなかったし、わたしは獅子の顔しか狙わなかったけど」
「それはどうかと思うよ」
「でも悔しいっ!」
獅子に負けかけたことも、情けをかけられたことも全部悔しかった。
ああ、わたしまだこんなに悔しいと思える気持ちあったんだ。
ずっと忘れていた。
涼真の手を掴んで立ち上がる。
「もう全部が全部悔しいっ! 獅子の件だけじゃなくて全部が! ねぇ涼真、わたし……。わたしらしくいいんだよね」
「ああ。紬らしくしていい。もう我慢しなくていいよ」
「うん!」
無理な我慢をし続けて自分を見失っていたんだ。
それを涼真達が取り戻してくれた。
わたしが悪くないなら我慢なんてしなくていい。わたしらしくでいればいい。
少し落ち着いてきた。さっきまでのこと……お話しなきゃ。
「獅子とわたしを喧嘩させる茶番を考えたの涼真でしょ」
「あ、茶番って分かってたんだ」
「分かるよ」
5歳の時ならともかく、高校生になった今に分かるのは当然だ。
多分二人ともわたしを想ってくれたんだろう。獅子はそれでもむかつくけど。
「下手な言葉じゃ通じないと思ったんだ。僕やアリサでもきっとできない。昔の紬を呼び起こせる人間は君のライバルだった獅子しかいなかったんだ。だから獅子に頼んで子供の頃のように思いの丈を叫んでもらった」
「……わたしのことよく分かってるね、涼真」
「当然だよ。僕は紬の幼馴染みだからね」
そんな風にわたしに微笑んでくれる涼真の気遣いが嬉しい。
5歳の時望んでやまなかったもの。それがようやくこの手に収まった気がする。
だから自然とこの言葉が出てきた。
「いつもわたしを見てくれてありがとう。大好きだよ、涼真」
「ああ……。んんっ!? そ、それって」
「うーん、何かすっきりしたなぁ。すっきりしたらお腹空いてきちゃった。ねぇ涼真、ご飯一緒に作ろう。ひよりちゃんに作ってあげよ」
涼真に対するこの大好きな気持ちがようやく飲み込めた気がする。
子供の頃から抱き続けたこの気持ち、ようやく……。わたしは涼真の腕を組んだ。
「獅子に殴られて疲れた。涼真が支えてくれないと帰れない」
「はぁ……分かったよ。でもその胸が当たって……」
「ねぇ涼真とのツーショット写真撮りたいな。あ、アリサちゃんに送っていい?」
「騒動になりそうだからそれだけは止めようかっ!」
涼真が心底焦った姿を見て……わたしはその想いを飲み込んだ。
幼馴染二人のおかげで……わたしは思い出せた気がする。
わたしがやるべきこと……うん、分かった。
それから週末が終わり、わたしは再び学校へ通い出した。
気遣ってくれたアリサちゃんや雫ちゃんにお礼を言って、雫ちゃんの前で獅子に殴られたと言って獅子の表情を青冷めさせた時はちょっとすっきりした。
だって殴られた所青痰できてたんだからね!
でも学校に通うことができたからと言って変わる所と変わらない所がある。
そう、わたしに対する噂が変わったわけじゃない。
だから今日もこの前とが違うクラスの女子に絡まれてしまったわけである。
ここからは自分で立ち向かわなくちゃ。