86 わたしの幼馴染み達①(紬視点)
涼真は無理矢理わたしの手を引っ張って外へ連れ出してきた。
いつもはこんな積極的なことはしないのにここぞって時はいつも強気でリードをしてくれる。
こういう所は変わらないよね。
多分、無理矢理じゃなかったらわたしは動かなかったと思う。
でも……涼真の握る手の温かさが嬉しい。
わたしは昔から涼真のことが好きだった。恋をしたことがないからこれが恋愛的なものなのかは分からない。アリサちゃんや獅子を思う雫ちゃんと同じ気持ちなのかは分からない。
でも……ずっと好きなことには変わらない。
涼真はずっと格好いい。
「涼真、どこへ行くの?」
「この先の空き地。昔遊んだろ。まだ残ってるんだ」
小さい頃、三人で真っ暗になるまで遊んだっけ。
よく親に怒られたけど毎日が本当に楽しかった。
涼真に引っ張られ空き地に到着した。そこにはもう一人わたし達を待ち構えいたのだ。そこにいたのはもう一人の幼馴染み、平沢獅子だった。
「やっと来たのかよ。待ちくたびれたぜ」
「ごめん、ごめん」
「……獅子」
獅子とわたしの関係性は昔から一つしかない。涼真を取り合う終生のライバル。
毎日のように喧嘩をして涼真を取り合ってきた。
昔から根本的な性格が合わず、わたしの大好きな涼真を目の前で奪っていく獅子に腹が立ってたまらなかった。
話もしたくないほど嫌いかと言われたらそうではない。幼馴染みだから獅子の良さは理解している。雫ちゃんが獅子を選んだのも納得のいくものだったし。でもわたしから涼真を奪っていく所だけは許せない。
「よぉ紬、塞ぎ込んでんだって」
「……るさい」
だからこそ獅子に弱みを見せたくない。
つけ込まれるのが分かってるし、ただ一つも隙を見せたくなかった。
「まぁいいや。何で遊ぶ? 三人揃ってここに集まるのは10年ぶりだもんな」
「そうだね。せっかくだし、昔みたいに」
「悪いけど」
わたしは声を出していた。
「そんな気持ちになれないの。涼真、ごめんなさい。心配かけちゃって」
「紬……」
「もう少し、もう少ししたら元気なるから。今度は上手くやれるように……ごふっ!」
その時だった。
口の中に何かが入ってきた。土の味がして、それを投げつけてきたのが獅子だってことが分かった。
「ままごとをやろーぜ。紬、おまえいつも俺に泥団子食わしてきたもんな。今度は俺が食わしてやるよ」
「僕達のままごとっていつも最後は喧嘩になってたよね。獅子と紬が殴り合いの喧嘩に発展……って紬!?」
涼真の驚きの声と共に、わたしは飛び上がり獅子に蹴りを食らわしていた。
だけど獅子はその蹴りを腕でガードする。
「そうそう! そうやって殴り合いしたよなぁ!」
「うるさい。今日こそトドメを刺してやる!」
「やってみろよ!」
チアで鍛えた体幹を生かして、わたしは縦横無尽に空き地を駆け回り、加速をつけた蹴りを獅子にくらわせる。
ただ攻撃するだけでは致命傷は与えられない。勢いをつけないと……。
「へっ! 俺は女には手を出さない主義だが紬、おまえは女じゃねぇ! だからぶん殴る!」
「ぐっ!」
横腹に蹴りを入れられて、その衝撃に吹き飛ばされている。
10年前はこんなに差はなかったんだけどな。やっぱり180センチ超えた男になった獅子はとんでもなく強くなっている。
でも獅子にだけは負けたくない!
「なんだよ弱っちぃな! 昔のおまえは強かった。俺が何度も何度も泥団子食わされるほどだ」
「あの時凄かったよね。マウント取って獅子の口に突っ込んでたもんね……」
「なのにあんなクソ女どもに縮こまりやがって! 情けねぇ!」
「わたしがどんな気持ちで! あんたなんかに分かるはずない」
獅子は地上では強いが空中戦は得意ではないようだ。
攻めるならここしかない。迎撃する獅子の蹴りをバネに跳躍して、獅子の画面に蹴りをぶち込む。
「いってぇっ! おらっ!」
「うぐっ」
返しのパンチを腹にくらい、思わず空気が口から漏れ出る。
負けたくない。獅子にだけは負けたくない。いつも涼真は獅子の側にいた。同性だから仕方ない所はあるのは分かっている。
でもわたしだって思う気持ちは負けない。
「うらっ!」
「いいパンチじゃねぇか! それでこそ紬だろっ! 自分の気持ちを押し殺してんじゃねぇっ。我が儘に俺や涼真を巻き込んでいく。それが紬の本性だろ!」
「……っ! 獅子にだけは負けたくない」
「俺もそうだ。紬だけには負けたくねぇ! だから嫌いな女を全部おまえだと思っている。そうすりゃ立ち向かう意思が湧いてくる」
何度も攻防を行い、わたしも獅子も傷が増え始めてきた。
わたしの方が攻撃を当てているのに獅子はピンピンしている。ほんと体力馬鹿。
「はぁ、はぁ! 絶対泥だんご食わせてやる!」
「おっ、ようやくらしくなってきたじゃねぇか!」
「あんたを従わせて、涼真とままごとをするんだから!」
「できっかよ! 今のおまえに」
「できる。やってみせるんだっ!」
獅子が飛び出して、わたしの体に向けて拳を向けてくる。
だめだ……体力を失って避けられない。
その時だった。
「そろそろ介入しようか」
「涼真?」
涼真がその獅子の拳をはじいたのだ。
わたしの前に涼真が立っていた。
「今回は紬につくよ。もう君を手放したくないからね」