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85 紬の10年(紬視点)

 わたし、柊紬がこの15年で一番楽しかった時期といえばやっぱり小さいあの頃だろう。

 面倒見が良くて優しくて笑顔が素敵な涼真と……まぁ獅子もあの頃はまだかわいげがあったと思う。

 その三人と遊んだ時期がわたしの何よりも幸せな時だったと思う


 獅子と涼真を取り合って大げんかして、涼真は同性の獅子ばかり構うからわたしも怒ってしまって、意固地になってしまったことがあった。

 ……両親から引っ越しのことを告げられた時も素直に涼真にお別れが言えなかったこと、今では凄く後悔をしている。

 幼馴染みの男の子とばかり遊んでいたわたし。気付けば同性との付き合い方をまったく学んでいなかった。だから男子とはすぐに仲良くなれたけど、女子とは全然仲良くなれず、友達ができなかった。


 そして獅子と張り合ってばかりいたから自分の才覚に気付いてなかったけど、どうやらわたしは運動能力にすごく長けていたらしい。

 おまけにクラス中の男子に好かれてしまうほど容姿が整ってることに気付いたのは小学校高学年の頃だった。

 仲良かった男子がみんなわたしのことが好きだったみたい。でもわたしは誰とも付き合う気はなかった。

 だって涼真よりも格好いい男の子はどこにもいなかったから。会いたいと思ったけど会う資格なんてないわけで、わたしは子供の頃の思い出だけを胸に毎日を過ごしていた。


 でも中学生の時に夢中になれるものが見つかった。

 先輩に誘われて始めたチアリーディングだ。運動能力に長けたわたしはすぐにでもレギュラーになりそこから地獄が始まった。

 女子の世界って大変だね。あんなにわたしに才能があると言ってくれた先輩達も先輩が好きな男子が皆、わたしに夢中になると手のひらを返すように攻められた。

 試合の中では笑顔を見せても試合が終われば誰も私に話しかけてこない。

 たくさんな嫌な噂を流されて、わたしはあっという間に女子の敵に成り下がった。


 男に媚びてる。男を盗るな。可愛い子ぶるな。

 そんな言葉を毎日のように投げかけられ、悪い噂を信じた男子達にいやらしい視線を投げかけられる。

 下心丸出しで反吐が出る。女子に嫌われるわたしを心配する振りをする男子達。でも一人ぼっちは嫌だから愛想笑いでしのぐしかなかった。


 いつからだろう。わたしがわたしらしく無くなったのは。昔は涼真や獅子を振り回していたのに今や顔色を伺って生きている。

 わたしってこんなに人に合わせる人間だったっけ。

 それでもコミュ症で波長を合わせられないからマイペースな言動で周囲に敵を作ってしまう。そんなつもりないのに容姿と才能でマウントを取ってるらしい。

 涼真と話す時はこんなことなかったのになぁ……。


 チアは大好きだったから強豪校に入って、部活に集中できれば良かったんだけど、それでもやっぱり色恋沙汰は避けられなくて男子にチヤホヤされて、女子に嫌われる。そのパターンは変えられなかった。

 日に日に増していく部員達のやっかみに耐えられなくなり、わたしは転校を余儀なくされた。

 どこへ言っても嫌われるならあの街へ戻りたい。涼真のいるあの街へ戻りたい。

 だからわたしは両親の出張を利用して涼真の家を下宿させてもらうことになった。

 十年ぶり会った涼真は背が伸びていて、とってもかっこよくなっていて、でも変わらずに優しかった。

 変な敬語口調で女子に対して距離を取っていて、そこは昔の涼真とは違うみたい。わたしだって小さい頃と同じようにはいられなかったから仕方ないよね。獅子は変わらずでむかついたけど。


 次の学校では上手くやりたい。

 チアは続けたかったけど、きっと同じようなことになってしまうからやめておこう。女性だけの部活はダメ。男女混合の部活はどうだろうか、それでも結果は同じかもしれない。

 だったら思い切って男子だけの部活に入るのもありかも。


 この学校では何としても同性の友達を作りたかった。

 わたしよりも美人で才覚が良い子がいれば!

 でもそんな子なかなかいるはずもない。でも転校先の学校で彼女の姿を見て一目惚れするような感覚に陥った。

 朝比奈アリサ。彼女の見た目の良さはわたしとと比べものにならないほど優れていた。全てにおいてわたしに勝っていて、さらに言えばとてもかっこよかったんだ。

 同性から慕われていて、威厳すらも感じる振る舞い。

 彼女の側にいればわたしが学校一の美少女扱いされることはない。

 彼女と仲良くなりたい。そうすればわたしはただの一少女と思ってもらえるに違いない。

 さらに彼女の側には涼真と雰囲気の似た大月雫という少女がいた。この子とは自然と仲良くなれるかもしれない。直感的にそう思えたのはラッキーだったのかも。


 でも。

 十年の間に身に染みこんだ生き方はなかなか変えられない。

 アリサちゃんと雫ちゃんとは上手く話せるのに他の女子とはまったく波長が合わなかった。

 結局、美人だけど厳格なアリサちゃんより愛想振りまくるわたしの方に男子が近寄ってきて、また同じことを繰り返そうとしている。

 新しい環境、新しい友達。大好きな涼真がいるのにわたしはまた同じことことを繰り返していた。


「何やってんだろう……」


 涼真の家で引きこもり、迷惑をかけてしまっている。

 ひよりちゃんにも暗い顔をさせてしまってほんと何やってるんだろう。


 そういえば昔もこんなことあったなぁ。

 5歳の頃、大好きなおばあちゃんが亡くなって塞ぎ込んだことがあったけ。

 泣いてばかりのあの時、どうやって乗り越えたんだろう。そう、あの時は……。


 ドタドタと足音が聞こえて扉が開く。


「紬、遊ぼう!」


 そうだ。涼真がわたしを呼び出してくれたんだ。

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