82 紬の危機②
女子達はにやりと笑って、その男に駆け寄る。
「あたし達、あの男に襲われて!」
「すっごく怖かったんです」
「助けて……」
三人の女子達はその男に縋るように助けを求めた。
さっきの高圧的な態度とは大違いだ。こえーなぁ。ほんと。
9割9分の男は女子に縋られたら味方をしてしまうもの。ただ……残り1分の男はそうではなかった。
「涼真、これはどういうこと感じなんだ」
「え、平沢くん……。あのキモい男と知り合いなんですか?」
「は? てめぇ誰がキモいって。おまえごときが涼真を語んじゃねぇよ」
「ひっ」
現れた男は僕と紬の幼馴染。誰もが知っている学校一の人気者、平沢獅子だ。
タイミング的に僕と別れた後、大月さんが連絡したに違いない。
ある意味ベストなタイミングだった。
「涼真と紬は俺の幼馴染だ。俺が無条件で信じられるあいつらに襲われたって言ったな。本当だろうな」
「……そ、それは」
獅子が威圧するように声をかけると女子達はあっという間に縮こまってしまった。
うーん、僕と獅子の違いやべぇ。
「お、襲われたのは言い過ぎだけど……強い言葉を言われて、それは本当なの! あたし達何も悪くないのに」
なるほど、形勢不利とみて話題をすり替えてきたか。
今までもこうやって相手を陥れてきたのかな。
でも相手が悪かったな。
僕はスマホを取り出す。
「ま、今までのやりとり全て録音してるんですけどね」
「は!?」
女子達は困惑の表情を浮かべる。実を言うとスマホの録音機能をONにしたままこの場を突入をしていた。
目的は紬を助けることだったけど、まさか自分の無実を証明することになるなんてね。だから今までのやりとりを全て録音している。
「さっすが涼真。ま、中学の時あんなことを経験してりゃな」
「ああ、僕達には必要なことだったじゃたから」
「ふっざけんな! おまえらグルかよ!」
今まで小さく縮まってた女子が本性を現す。だがそんな本性を最も嫌う男がここにはいた。
「俺に嘘をついたな。俺はてめぇらみたいな姑息な人間が大嫌いなんだよ!」
「っ!」
「殴られたくなきゃ行け。二度と俺の幼馴染に手を出すんじゃねぇぞ」
獅子の強い言葉に女子達は悲鳴を上げて、逃げるように慌てて掛けだして行った。
スマホの録音がある以上、紬に何かしてくることはもうないだろう。
僕達三人だけが残る。
獅子は紬を見て、その後僕を見た。
「じゃ、俺は雫の所に戻るわ。涼真、後は任せるぜ。紬にはおまえが必要だからな」
「獅子……」
「ちなみに俺も涼真が必要だからな! それは忘れんなよ」
「それはいいから早く戻って恋人を安心させてあげてくれ」
獅子を行かせ、僕は紬と向き合う。
こうなった以上、いろいろと聞くしかないのだろう。
「わたしね」
少し落ち着いた紬と向き合った。
「涼真と離れてこの10年、ずっと嫌われて生きてきたの。友達も出来なくていろんな人から疎まれてたんだ。大好きなチアも人間関係が上手くいかなくて逃げてきたんだ。涼真を頼ってこの街に来たの」
紬は体を震わせて、大粒の涙を流す。
「今度こそ上手くいけると思ったのに……。また失敗しちゃった」
紬は僕に縋るように抱きついてくる。
「ねぇ涼真、わたしってそんなに悪い子なのかな。別に悪口も言ってないし、いじめてもいないよ。なのに何でみんなして悪女って言うの?」
紬の悲しみを帯びた声が僕の耳に響いてくる。
そんなことない。紬は良い子だ。でもそんな言葉は恐らく届かないのだろう。
紬は10年間こうやって人間関係に苦しんできた。苦しんで、苦しんで……今。
「どうしたらいいの! ねぇ……! 教えてよぉぉっ!」
悲しむ幼馴染みに出来ることを見つけるんだ。