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80 紬の評判

 それから僕達は無言のまま、見合っていた。僕の顔は熱が出そうなくらい熱くて、アリサもまた同じように顔を赤くしていた、

 お互い次の言葉を待っていたのかもしれない。


「ごほん。ところでアリサ……どうしたの? 放課後以外で会うに来るのは珍しいよね」

「涼真に話したいことがあったの。紬が今いないのは好都合だわ」


 お互いのほてりが静まった頃、あえて先ほどの話題を口にせず話題を元に戻した。

 甘くなりそうな空気に何かもう僕が耐えられそうになかったんだ。

 アリサも乗ってくれたのでそのまま続けることにした。


「涼真ったら全然声をかけてくれないんだもん。私はずっと待ってるのに」

「アリサが一人でいるとこ、見たことないけどね」


 僕とアリサは学校内で喋ることはほとんどない。

 そもそも男女という前提でアリサのまわりには常に人がいる。大月さんように親しい面々だけでなく、他のクラスメイトからも羨望を集めているのだ。

 僕が話しかけるなんておこがましいという発想もあるがそれ以前に話しかけられない。


「でも男子から声をかけられるのは相当減ったわ。みんな愛嬌のある子の方へ行くから」

「愛嬌? ああ、紬かぁ。最近、男子はみんな紬に夢中だよね」

「あれだけ私に声をかけてたくせにねぇ」

「アリサ、男子に容赦ないからみんな萎縮するんだよ」


 強気で容赦ない口調で淡い想いを持つ男子達を根こそぎ断罪する。

 それが学校でのツンツンしている朝比奈アリサである。

 でも。


「そんなに怖いかな? 私、涼真に対しては威圧してないよね……。不愉快だったらその」


 親友、朝比奈アリサは時々自信なさそうに言葉を投げかけてくる。

 そのギャップが僕にたまらなく刺さるというか……魅力的に感じる。

 僕にだけ優しい。そんな優越感だろうか。


「大丈夫。アリサはとても優しいよ」

「ほんと? 良かったぁ!」


 可愛いと感じてしまっては話が進まない。

 火照りそうな顔を何とか沈めようと頑張った。


「話したいことって紬のことだよね。何か問題でもあった? 僕が見る感じだったら平穏に見えるけど……。男子とも気軽に話せるから紬の評判はいい方だと思うけど」

「そう……問題はそこなのよ」

「え」


 意味が分からなかった。それの何が問題だというのか。


「紬の幼馴染のあなたに言うか迷ったけど……」


 少し言いよどみ、アリサは続けた。


「紬って女子からもの凄く嫌われてるのよ」

「何で!? 別に人を傷つけるようなことを言う子じゃないし、アリサの言うとおり愛嬌があるじゃないか」

「ええ、男子に対してだけね」


 僕はその言葉に思わず止まってしまう。


「私と雫に対しては凄く人懐っこいわ。多分、似た性格の人と仲良かった経験があるから接しやすいんだと想う。でも他の女子には全然駄目。萎縮しちゃってるよ。絵里や真莉愛と話してる所を見るとよく分かるわ」


 その子は確かアリサのグループのギャルの二人だっけ。

 そういえば紬があの二人と話してる所、あまり見ないな。


「それなのに男子とは仲良しなわけで……。男子に媚びてるぶりっ子って思われてるわ。あの子、距離も近いでしょ」

「……」


 確かに紬はぐいぐい来るタイプの女の子。

 男子に気にいられる仕草をナチュラルでやるタイプだ。言われて納得する所も多い。


「好きだった男子が根こそぎ紬に取られて憤慨する女子が多いの。それで紬は男子の告白を断ってるでしょ? 付き合う気もないのに媚びを売るなって話」

「そんなことになってたのか」

「私も雫も、紬に対してどうかって思う所はあっても友人関係を止める気はないわ。そういう子の対応には慣れてるから」

「アリサ……」

「ま、私と涼真の仲を取り持つって言ったくせに涼真にベタベタするのは気にいらないけど。ハグだって……私もしたいのにぃ」


 小声過ぎて最後の言葉は聞こえなかった。

 しかしまさか……紬にそんな問題を抱えていたなんて。


「紬、前の学校でチアをやってた話、知ってる?」

「うん。本人は隠したがってたからあんまり強く聞けなかったけど……」

「本心ではまだチアをやりたいんだと思う。でも……出来なくなった」


 アリサはスマホを取り出して、僕に見せてくる。

 それはyoutubeで再生される動画で、高校生チアリーディングチーム『FRY』の試合動画だった。

 そのチームの中心に紬が映っていたのだ。

 凄いクオリティの演技で視線が自然に紬へと行ってしまう。

 軽やかで楽しそうに……そして何より美しい。見惚れる演技と言えるだろう。


「凄いね。やっぱり紬は経験者だったんだ。この動画がどうしたの?」

「最後まで見てちょうだい」


 演技が終わり、会場から出て行くチア部員達。

 他の部員に温かく迎えられ……あれ? 誰も紬に駆け寄らない。

 みんな嬉しそうに演技の成功を喜んでる中、紬は一人無表情で汗を拭いていた。


「紬は前の学校でも同性から嫌われてたんじゃないかって思う。推測だけどね」


 だから転校してきて、この学校にやってきた。

 幼馴染である僕と獅子がいるこの学校に……。

 あくまで推測だ。断定はできない。

 youtubeのコメント欄にはチームの演技の良さと同じくらいセンターでトップの紬の容姿の良さに関するコメントがあちらこちらで見られた。

 そしてそれに隠れていた言葉。


『トップの女は男に媚び売る淫乱女』

『性格最悪の嫌われ者』

『ぶりっ子女は早く部活を辞めてほしいよね』


 それが紬を指すことは一目瞭然だった。

 さすがにこれは正直ショックだった。自分が何を言われても正直耐えられるが幼馴染みの悪口をこの目で見るのは辛い。

 僕の表情を見てか……アリサは申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめんなさい。涼真に言おうか本当に迷ったの。でも」

「むしろありがとうだよ。僕や獅子じゃ絶対気づかなかったと思う」

「幼馴染があなたと平沢くんだったから仕方ないのかもしれないけど、紬って男子との付き合い方しか知らない感じなのよ。そういう意味ではあの子よりひどいかもね」


 でも実際どうする。

 紬にこのことを伝えたとして……。今まで相談が無かったということは僕や獅子に知られたくないことに違いない。


「もし紬から相談されたら私も動くわ。それまでは様子見がいいと思う。涼真は紬の支えになってあげて」

「うん、分かった。ありがとうアリサ」

「でも!」


 ぐいっとアリサは怪訝な顔で近づけてくる。


「支えすぎて本気になっちゃ駄目だよ」

「何の話!?」

「涼真には家事代行で私を支えるお仕事があるんだからね!」


 甘やかすお仕事がそれなんだろうかと思ったけど、僕は分かりましたというしかなかった。


 放課後の部活動でも帰宅してからでも紬の様子は普段と変わりはない。

 女子と上手く話せてる? なんて聞くわけにはいかないし、アリサと大月さんが側にいてくれるならきっと大丈夫だろう。


 そう思っていた。

 その日は突然やってきた。

 学校での昼休みの時間。

 昼食を終えた僕は教室で一人まったりとしていた。


「小暮くん!」


 そこに血相抱えた表情の大月さんが現れたのだ。

 そのまま僕の腕を引っ張って教室の外へ出す。


「どうしたの?」

「今日、アリサがいないから紬さんと二人でご飯を食べてたんだけど」


 そういえば今日、アリサは学校を休んでいたな。

 体調不良じゃないみたいだけど……。


「そしたら他のクラスの女子がやってきて、紬さんに用があるって連れていってしまったの」

「なんだって!」

「わたしもついて行こうと思ったんだけど紬さんが来なくていいって言って、獅子くんも部活の用事って聞いてたから……小暮くんを」


 もしかして先日アリサが言ってた女子の不満が爆発したってことなのかよ。


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