71 親友の恋人
「ようやく来た、おはよう小暮くん」
「大月さん。はぁ……おはよう」
部活無いのに早起きを強いられてつらい。
紬と獅子を起こして言付けをして速攻学校へ向かうことになる。
こうまでして何を話そうと言うのか。園芸部の活動している農地の近くのベンチに僕達は腰掛ける。
「大月さんには彼氏がいるんですから。他の男と二人きりで会うのはよくないと思いますよ」
獅子が悲しんだらどうするんだと。今日早く行く理由を聞かれなかったから良かったものの。
浮気なんて思われたら絶対嫌だし、獅子とはそんなことで揉めたくない。今回限りにしてもらわないと。
「大丈夫だよ。ちゃんと獅子くんに許可はもらったし」
「へ?」
「涼真なら安心だ。俺に気にせず会ってくれって言われたよ。小暮くん、獅子くんからの信頼度が異常なんだけど洗脳でもしてるの?」
「アリサが崇拝している大月さんに言われたくないですね」
まったく獅子は……。僕にとって平沢獅子は幼馴染で親友。正直それ以上に恩義がある。
獅子がいなかったら僕は学校に通えていなかったと思う。
だからこそ獅子の嫌がることは絶対にしたくない。今回の件、獅子の許可があるのならいいけど。
「アリサと一緒にいる時も大月さんのことばかりですよ。あんなに甘やかしていたなら当然なのかもしれませんが」
「そう……だね。そんなアリサをわたしは」
少しだけ大月の声色が小さくなる。
嫌みで返されるかと思ったのにそんなガチな反応をされるとは思わなかった。
話題を変えることにしよう。
「そういえば獅子のファンクラブ。上手く制御してるって聞きましたけど何したんですか? てっきり荒れると思ってたんですが」
我が校最大の人気者、平沢獅子。
その容姿端麗な容姿だけでなく、1年生ながらバスケ部のエース。陸上の短距離選手よりも早い走力。
サッカー部を含む他の部活に負けない持久力。まるでスポーツの申し子のような人間だ。さらに学年10位以内の学力に歌がうまくて、ダンスも上手とモテる要素しかない人間だったりもする。
人気だけで言えば学校一の美少女の朝比奈アリサよりも支持を集めるだろう。
そんな獅子に学内でファンクラブがあるのは当然だ。そして学校の人気者に恋人が出来たならまたこれも荒れるのも必然と思いきや。そこまで大きく荒れなかった。
獅子は元々女子に愛想が良くなく、誰に対しても平等だったのでガチ恋勢というのがあまりいなかったのだ。人気者ではあったけどアイドルではなかった。
バレンタインのチョコお断り、誕生日プレゼントお断り、プレゼントは部活全体を通してのものしか受け取らなかった。
ちなみに僕は普通に獅子からバレンタインチョコとプレゼントは求められた。
「小暮くんから何か誇らしげな優越感を感じる」
今年からその役は大月さんになるのだろう。ちょっと寂しくもある。
まぁそれも仕方ないよな。
「最初は大変だったけど思ったより純粋に獅子くんを応援したいって子が多かったんだ。8割くらいがそうだったかな。そういう子と話をしてわたしがファンクラブの長になることになったの」
「普通そうはならんでしょ」
「アリサにも言われたけどうまくいくもんだねぇ」
この子、いったい何をしたんだろうか。
この大月雫という女の子。獅子と付き合ってから評価がうなぎ登りとなっている。
正直同類だと思ってたのに……。何だか騙されたような感じで腹立つ。
「小暮くんから何か腹立つ視線が送られてるような気がする」
「ふぅ、それで……。僕を呼んだ理由あるんですよね。何となく予想はつきますけど」
「うーん何かな。聞きたい?」
甘えたような声をあげてとてもしらじらしい。
獅子と付き合ってから大月さんが可愛く見えるようになったという声が上がったかそれは事実である。
彼氏に可愛いと思われたくて努力をし始めたらしい。すぐ側に一番の美少女がいるわけだから相談相手にはちょうどいいわけだ。
アリサが側にいるから化粧なんて意味ないと思っていた子が変わるもんだねぇ……。
僕も誰かと付き合ったら変わるんだろうか。
「アリサ……もしくは紬のことでしょ」
「正解。昨日のことはアリサに聞いたよ。まさか二人きりの園に別の女を連れ込んでくるなんて小暮くんってゴミクズだよね。朝比奈家から給料貰う自覚あるの?」
「ぐっ! おっしゃる通りで……」
「アリサと二人きりが怖い気持ち……分からなくもないけど。ま、結果としては良かったけどなるべく紬さんを連れていかないようにね」
「分かってるよ……」
全部見抜かれてしまっている。確かに軽率だったのは間違いない。
どうしてもあのときのキスシーンのことがあってアリサを意識してしまうんだ。二人きりだと我慢できなくなってしまうかもしれない。
「紬さん、良い子だね。家に帰った後、ちょっとだけ電話で話したんだ。ふふっ、紬って呼んでって言われたけど」
「そういえば遅い時間まで電気がついてましたね。仲良くなってくれたなら良かったです」
「アリサと一緒になって獅子くんの悪口言うし……。でも獅子くんも紬さんも相性悪くて仲が悪いけどお互いを認め合っているよね。そこは分かったよ」
「そうなんですよね。ま、紬が獅子を好きになることはまずないと思うので安心していいですよ」
「じゃあ」
大月さんはじっと僕の目を見てきた。
「紬さんが小暮くんを好きになる可能性があるってことかな」
「っ」
反応に困ること言ってくる。
「大月さんって僕に対してだけ容赦ないですよね」
「うん」
大月さんはにこりと笑い、そして恥ずかしそうに目を潤ませた。
「わたしが気持ちを取り繕うなく話せるのって……小暮くんだけだよ」
「おかしいな、全然嬉しくないですね。悪口も言いたい放題じゃないですか」
「だねぇ」
この女、やっぱり性格悪いわ。
大月さんのことは尊敬してるけどこの性格は相容れないような気がする。
でも……正直似たもの同士なんだよなぁ。
好きな人にこそ本性って話せないもんだ。自分の素をさらけ出せる相手って案外身近な人物ではない。
「紬が僕を好きって言ってるのは幼馴染としてですよ。本人から聞きました。だから紬が僕を好きになることなんて絶対」
「本当にそう思ってる?」
「え」
「幼馴染として好きだったはずなのに……ある時本気になる。そんなのラノベやラブコメ漫画で100キャラ以上見てきたよ」
「創作の中の話でしょ」
「現実でもあるよ。恋愛対象にならないって言ってた子がある日突然その人と付き合いだすし」
何か凄く実感のある言葉を大月さんの口から吐き捨てられる。
まさか……いや、止めておこう。
大月さんが再びまっすぐ僕を見た。
「だから紬さんが小暮くんを本当に好きなる可能性ってゼロじゃないと思う」
「まぁ……そうかもしれませんが」
それでも紬のような美少女が僕を好きになることなんてあるのだろうか。
無いだろ。きっと無いはずだ。
「そうなる前にさ」
大月さんは顔を寄せるように近づいてきた。
「アリサと付き合ってくれない? アリサ、小暮くんのこと好きになったみたいだから」
そう、それはあまりにありえない。
とんでもない爆弾発言だったのだ。
前に感想でいろいろ言われたけど半分はシナリオのため、半分くらいは雫さんにゴミクズと言わせたかっただけだったりします。
主人公を絶対好きにならない女の子、作者は結構好きなんですよね。受けるかどうかはともかく・・・。
さて鈍感主人公に好意をバラしていくスタイル、どうなるでしょうね。
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