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69 紬と一緒に④ ※アリサ視点

「はぁさっぱりしたぁ!」


 紬と話が弾んで思ったより長湯してしまった。

 雫と一緒に入る時もいつもバスルームのモニターで映画とか見るからそれほどではないけど、紬とのおしゃべりは思ったより楽しかった。

 後で雫にも伝えよう。紬も含めて三人仲良くなれそうな気もする。


 服も着替えて、髪も乾かして涼真の前に出た。


「二人とも長かったね」

「紬と話しこんじゃった」

「名前……。仲良くなれたようで良かったよ」


 気づいてくれた! 

 優しくほほんでくれる所がしゅき。

 涼真が私の顔をじっと見つめる。いや顔じゃない……髪?


「乾かしたんだね」

「え、まずかった?」

「いや……そのほら大月さんのメモにアリサの髪を乾かすのも僕の仕事だってあったから」

「あっ!」


 涼真に髪を乾かしてもらうの忘れてた!

 そのために香りの良いシャンプーとか使ってアピールしようと思ってたのに……。

 普通に紬と乾かし合ってしまった。

 紬の黒髪……ほんとうに綺麗なのよね。夜空みたい。

 涼真が黒髪を好むなら染めちゃうのもありかな? でも紬は私の髪を絶品って言ってたし。


「ひよりの髪をよく乾かしてるから上手くやれると思うけど……嫌だったら」


 涼真は遠慮がちに喋る。そんな彼の言葉に返す言葉は一つしかない。


「嫌じゃないよ。涼真を信頼してるから」

「うっ……。ありがとう」


 涼真が振り返って顔を隠してしまった。

 耳まで赤くなってるから照れてくれたのかな。私の言葉でもちゃんとドキドキしてくれるなら嬉しい。


「涼真、何見てたの?」


 紬がテレビに映る映画を見る。

 家事してる時はやっぱり暇になるし、雫もよく何かを流しながら家事をしていた。

 やっぱり涼真と雫はよく似ている。細かい所は違うんだけど。


「この前見てた映画だね。全部見るまでに帰っちゃったから……先が気になって」


 一昨日の話だ。

 涼真と一緒に見たあの映画。あの時は最高だった。隣に涼真がいて、優しく頭を撫でてくれた。

 思い出しただけで頭が沸騰しちゃう!


「アリサちゃん、顔真っ赤だけど大丈夫?」

「だいじょうぶっ!」


 落ち着こう! これからもいっぱいできるんだから!

 映画はクライマックスが終わり、エンディングにさしかかっていた。

 あの時も私は最後まで見たんだよね。雫が帰ってきた同時に涼真が帰っていろいろな気持ちが溢れて……。


 やっぱり涼真とのキスしようとしてまったあの時を思い出しちゃうっ!


「ふぅ……終わった」


 涼真は洗い物を終えて、明日の雫の弁当の仕込みをしていた。

 今、交互で家事代行を行っているからこういう形になっちゃうだよね。

 雫の要求にまるで阿吽の呼吸のようについていくから凄い。話さなくても通じ合ってるようで羨ましい。


「お疲れ様。わぁ……いっぱい準備したんだねぇ」

「大月さんの要求エグイんだよ。僕を困らせるつもりで弁当の具を大量に仕込ませるんだよな。本当に明日全部使うのかよ」


 私と平沢獅子はどっちもよく食べるから雫はいつも力を入れてお弁当を作ってくれている。

 明日も朝早く来て作ってくれるんだろうな。


「じゃあ……お疲れの涼真にはご褒美を上げないとね」

「ご褒美って何をくれるのさ」


 紬がテレビに視線を向ける。

 まだ映画は終わっていなかった。


「海外の人は……結構気軽にチューするんだよね。友達関係でも気安くかな」

「口にそう簡単にしないと思うけどね」


「じゃあ……頬にしてあげるね」

「ああ、頼むよ。って紬!?」


 そう、私の視界に繰り広げられた衝撃のシーン。

 私の目の前で紬が涼真の頬にキスをしたのだ。

 そのごく自然に行われた行為に私も……そして涼真ですらも止まってしまう。


「ほっぺにチューなんてちっちゃい頃よくやったじゃない。もう今更だよ」

「そ、そうだけど……さすがに」


 紬が私の方を見る。


「じゃ、次はアリサちゃん! 涼真にご褒美だよ」

「え、アリサも!?」


 ごく自然に振られてしまい私は言えるしかなかった。


「できるわけないでしょっ!」


 柊紬。

 完全に味方だと思っていたけど、彼女は天然でいろいろやらかすのかもしれない。

 幼馴染怖い。


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