67 紬と一緒に② ※アリサ視点
「そんなに小さい頃から一緒だったのね」
「うん、みんな両親が働き詰めだったから涼真と獅子と三人で過ごすことがばかりだったの。子供の頃の涼真はすっごく可愛いんだよ。家にアルバムあるんだけど見る?」
「見たい!」
湯船に入って柊さんとゆっくりと談笑をする。
やっぱり話題は共通の想い人である涼真がメインになった。
「獅子は本当に昔から相性が良くないの。わたしからいつも涼真を奪って……どや顔をするんだよ」
「あの俺が一番涼真を知っているみたいな雰囲気出すのがむかつくわね。あなたに完全同意するわ」
そしてそのまま平沢獅子の悪口へと進む。
昔から涼真を奪い合っていたと言っていたからいろいろ出るわ出るわ。このネタは是非本人にぶつけないといけないわね。
「同性だったら仲良くなったと思うんだけどなー」
「そうなの? 私は三人同性の幼馴染だからずっと仲良しね」
「いいなぁ。わたしもアリサちゃん達の幼馴染になりたかった」
幼馴染に異性が混じるといろいろ含みが出てしまうもの。
ある意味私の兄が幼馴染みたいなものでもあったから……雫も心との関係もそれで少し歪んでしまった。
「でも獅子は悪い奴じゃない。涼真を奪うから嫌いなだけで人間としてまぁ……まともだと思うよ。だから雫ちゃんが獅子を選んだのは正解だと思う」
「私もそう思うわ」
あくまで最強で可愛い雫が平沢獅子を選んでやったのだ。
そこははき違えてはならない。
それを分かってるなんてこの子、見る目あるわね。
「雫ちゃんって涼真に雰囲気が似てる感じするよね。一発で仲良くなりたいって思ったよ」
「そうなの! 雫は世界一可愛いんだから」
「アリサちゃんと雫ちゃんてベストカップルだね。羨ましいと思ったよ」
雫のことをよく分かってる。
この子いい子じゃない!
涼真を好きって言った時はどうしてくれようかと思ったものだけど……雫を評価してくれる子に悪い子はいない。
本当に仲良くなってもいいかもしれない。
だから聞かなきゃ。
「ねぇ……あなたは涼真のことが好きなの?」
この言葉を伝えなければならなかった。
「私も……涼真のことが好きなの!」
そう、これは作戦だ。
1日だけ時は戻り、雫と過ごした夜に遡る。
◇◇◇
「え、柊さんに涼真を好きだって言え!?」
「そうだよ」
雫に言われたことにびっくりしてしまう。
「できるだけ早いタイミングで柊さんと二人きりになって。それで彼女が小暮くんを好きか確認するの」
雫は真面目な口調で話を続ける。
「まだ小暮くんと柊さんは付き合っていないからチャンスはある。でも相手と同居している以上、こっちが後手なのは間違いないよ」
「だからって何で柊さんに言わなきゃいけないの」
「柊さんの頭にアリサが小暮くんを狙ってるというのを認識させるためだよ。そうすれば柊さんはきっと躊躇する。恋のライバルがアリサの時点で普通の女の子なら諦める」
「そうかなぁ」
「アリサって今まで何人に告白されたか覚えてる?」
覚えてるはずがない。毎日食べてるパンの数くらい好きだと言われているのでフって速攻忘れるようにしている。
「告白をされるのが当たり前の女の子が恋のライバルなんて絶望的だよ。獅子くんがアリサに見向きもしてなくて本当に良かったと思ってるもん」
「でも私より雫の方が可愛いから平沢くんが雫を好きになるのは当然」
「もうそれはいいから」
あきれるようにばっさり切られてしまった。
どうしてぇ。
「柊さんも正直匹敵するくらいには綺麗だから油断はできないけど……、アリサが小暮くんを好きなのを知ることは大きな抑止力になる」
「な、なるほど」
「アリサ、絶対に好きな人と結ばれて。わたしが最後まで応援するから!」
◇◇◇
「ねぇ……あなたは本当に涼真のことが好きなの?」
「え?」
柊さんはきょとんとした顔をする。
……なんて答えるんだろう。