63 作戦会議(※アリサ視点)
それは先の騒動の一日前の夜のこと。
「なんで、なんで涼真の側にあんな可愛い幼馴染がいるの!」
「そうだねぇ」
今日急に転校してきた柊紬という女の子。
誰が転校してきてもと思っていたが片想いしている男の子と幼馴染ということなら話は別だ。
今日の夜、その憤りを愛する幼馴染の雫にぶつけていた。
「し、しかも同じ家に住んでるなんて……。そんなの青春、アオハル……いや、アオハコ?」
「向こうの方がアドバンテージがあるよね」
「幼少時の涼真を知ってるなんて羨ましすぎる! しかも涼真のことを好きだなんてえ……」
「いきなりのライバル登場だよね」
「同じ幼馴染の平沢くんを好きだったら良かったのに。それだったら困らない」
「それはわたしが困るから! アリサ、無茶苦茶なこと言ってない!?」
平沢くんの恋人である雫が大声を出すのはごもっとも。これはさすがに冗談のつもりだ。
「そんなこと言うならご飯おかわり禁止だよ」
「わあああっ! ごめんなさい。それだけは許してぇっ!」
今日は家事代行のバイトで雫が夜ご飯を作ってくれている。
現時点で雫と涼真が日替りで家事代行のバイトをしてくれることになっている。明日は涼真が来てくれるんだけどどんな顔をして会えばいいんだろう。
あの柊って子と凄く仲よさそうだったし、明日から一緒に登校してくるんだろうなぁ。
うぅ……涼真と一緒に登下校をしてみたかった。
何だか悲しくて涙が出てきた。
「せっかくの初恋だったのに……もう失恋するの」
「まだ小暮くんが柊さんと付き合ったわけじゃないでしょ。それにアリサなら十分立ち向かえるでしょ」
「私……何にもないよ」
「おい、学校一の美少女。前を言ったけどその顔とその胸で負ける要素ないでしょ! アリサは一番可愛いの! 柊さんより可愛い!」
「雫の方が可愛いよ?」
「それもいいから。それ言うのアリサと心と獅子くんだけだし」
ちゃんと平沢獅子も分かってるのね。大月雫が世界一可愛い女の子だということを。
むかつく男だけど雫を愛している気持ちだけは評価してあげるわ。
「わたしのことはいいの! 今はアリサのことでしょ」
雫たんに怒られた。怒る雫たんも可愛い。
でもどうしたらいいんだろう。涼真の側にいると顔が熱くなってドキドキするし……。
昨日来てくれた時もあとちょっとで……涼真とキス……うぅ! 思い出しただけで顔が真っ赤になりゅううううう。
「今、アリサが何を考えてるか手に取るように分かるよ。昨日は心配になって早く帰ってきてごめん」
「べ、べつに違うよっ!」
雫がわりと早く帰ってきたことでドキドキした雰囲気が一変してしまった。
雫は何度も謝ってきたが私は正直あれで良かったと思っている。
あのままキスしちゃったら何というかもう愛が爆発して今日学校行けなかったと思うし……。
昨日の夜、涼真に甘えたり、頭撫でてもらったりした時の興奮がなかなか収まらずまったく眠れなかった。
ドキドキして学校に行った結果がアレである。急な幼馴染の出現。
「しかもあの子に妙に懐かれてるのよね……」
「アリサの見た目に憧れたからでしょ。昔からいるじゃない」
この見た目は男子だけでなく、女子からも羨望の的になる。
そうは言っても簡単な話ではない。女子の方はだいたいいろんな思惑を持って近づいてくることが多いからだ。
私を通して男の子に近づいたり、権力を持った気でいたり……。そういう子に限って雫を邪険にするので大体その後は断絶している。
「わたしにも好印象っぽいんだよね。小暮くんに似てるって言われたからかな」
「それは見る目あるわね」
「……残念ながらわたしはあんまり嬉しくないんだけどね。わたしの一番の恋敵って小暮くんだし」
嫉妬している雫たん可愛い。
だからこそ今のクラスの女子グループは安定していると言っていい。
よく会話するギャルの的場絵里や三好真莉愛は下心あって私に近づいたと思うけど、単純に会話をして楽しいし雫とも仲良くしてくれている。
意外だったのは雫が平沢くんの付き合い初めてから一層親密になったのだ。あの二人は平沢くんに恋愛感情を抱いていたから嫌な予測もあったけど杞憂で本当に良かった。
柊紬が雫に害を及ぼさないなら敵対する必要はない。
「柊さんとは仲良くした方がいいと思う」
「雫もそう思う?」
「柊さんにしたことはすぐ小暮くんに伝わると思った方がいいと思う。念のために獅子くんを通じて探りは入れてはもらうよ」
「さすが雫! 頼りになる」
やっぱり雫は私にとって最強最高の親友だ。
「小暮くんのことを好きだって言ってたけど……アリサの好きとは違う気がするんだよね。わたしやアリサがお互いに思ってる好きと同じ感じかも」
「私は雫と結婚してもいいくらい好きだよ!」
「わたしは男の子と結婚したいからごめんね」
さらりと振ってくる所も素敵!
でも油断はできない。柊さんが本当に涼真を好きなら私にとって強力なライバルになるだろう。
「涼真の気を引くにはどうしたらいいんだろう」
「アリサの中身がバレて動じなくなってる所があるもんね」
「学校では雫と涼真だけにしか知らないはずなのになぁ」
強気でキリっとしたイメージのある学校での朝比奈アリサは正直作っている。
だけど信頼する二人だけには素の私を見せているのだ。
「明日は予定通りなら小暮くんと二人きりの夜だよね」
「うん……。柊さんのことについても直接聞こうと思う」
「だったら見た目変えてみよっか。ちょうどアリサに似合いそうなメイド服をこの前買ってね」
「何でメイド服!?」
雫がじゃーんとメイド服を取り出して見せてきた。
雫の趣味の一つに私に似合いそうな服をバイトの給料で買って着せてくるという所がある。
本人は似合わないからって言ってくるがそんなこと絶対ない。
でもサイズが合わないので私が着るしかない。
「家庭代行のついでに小暮くんに料理を教えてもらうんでしょ。大丈夫! 一番えっちなやつを選んだからきっと小暮くんもメロメロだよ」
「料理とえっちに因果関係なくない!?」
「柊さんに勝ちたいんだよね」
「それは!」
せっかくの初恋。初めて男の子に恋をし、ここまで好きになったことは今まで一度もなかった。
出来ることは何だってやる。涼真の気を引いて見せる。
「雫、衣装をちょうだい。明日の夜までに着こなしてみせるから!」
「うんその意気だよ! でも先にわたしに撮影させてね」
◇◇◇
昨日、結局雫にいろんなポージングで写真を撮られた。
おかげでメイド服を着こなせるようになったと思う。
放課後、すぐに家に帰ってメイド服を着用。部活後の涼真を出迎えるための準備をする。
いっぱいシミュレーションをして涼真が私を見てくれるように考えたのだ。
スカートの丈が短いし、胸元も緩いし……これ痴女じゃないかしら。
別に見られるのが涼真だけなら問題ない!
一応雫からはお守りももらったので襲われても大丈夫。大丈夫じゃないけど。
今日は雫もこの家に寄らないと言っていたから邪魔は入らないはず。
「準備万端……。はやく来て、涼真!」
その時だった。玄関の前のインターフォンが鳴ったのだ。
門の前と玄関の前でインターフォンの音は違う。玄関まで入ってこれる人は家族か雫、涼真しかいない。
だったら……。
私はそのまま玄関の扉開いて、事前に考えていたポーズを取る。
「お、おかえりなさいませっ! ご主人さまぁ! にゃ~~ん」
「わぁ……! アリサちゃんすっごくかわいい!」
「え」
そこには唖然とする涼真と……興味深そうに笑顔で私を見る柊さんの姿があった。
「な、なんで柊さんがここに」
「アリサちゃんにこんな一面あったんだねぇ」
「あ……あ……見られた! こんな姿を! いやあああああああっ!」
しにたい。