58 次の日の朝
昨日はほんと大変だった。
クラスに戻ったらいろんな人から詰問されるし……。
紬とは幼馴染で親同士の仲が良かったから預かってるだけ。これで貫き通した。
問題はやっぱりアリサだよなぁ。話聞かせろってメッセージを送られたのはいいもののちゃんと話は出来ていない。
大騒ぎのまま放課後を迎え、部活動へ行き、その日の家事代行は大月さんがやるので僕はそのまま帰宅することになった。
アリサには弁明の言葉もメッセージも送れていない。そもそも弁明する必要はあるのだろうか。別に僕とアリサは普通の男女友人関係……。
(へへへ、しあわふぇかも……)
頭を撫でて映画のキスシーンでお互いの唇を見合って近づけ合うのが普通の友人関係かよ。
ああ、もう! 寝入るのは早かったのに早起きしてしまって二度寝が出来ない。
外の光の量からまだ朝の6時前後って所だろうか。しゃーない、ちょっと朝ご飯を豪勢にして……。
掛け布団を下げて立ち上がろうとぐっと手に力を入れた時、柔らかい何かの感触が伝わった。
「やぁん」
とても嫌な予感がした。
そんなはずはない。ここは僕の部屋だ。女の子の声がするなんてありえない。
またひよりが僕の布団に潜り込んだろうなぁ。でも5歳児がそんな艶っぽい声を出すかな。あはは……。
「駄目だよぉ涼真ぁ」
「ひょわあああああああっ!」
寝間着姿の紬が僕のベッドの中に入り込んでいた。
あまりの展開に脳が考えることをやめ、脊髄反射で外から離れる。
僕は何に触れていたんだろうか。腕でも足でも頭でもない大きくて柔らかい物。
漫画で良く見るラッキーシーンならアレで間違いないけど見てなかったから違うと思いたい。
「ふわぁ」
紬は起き上がり、目をこする。
まだ朝早いため睡眠時間が足りてないようだ。
寝間着といってもラフなTシャツを着ており、紬の成長をこれでもかというほど強調させていた。
「何で紬がこの部屋にいるんだよ!」
「トイレ行った後に部屋間違えたみたい。涼真がいるって分かったけどまぁいいかなって。ふわぁ」
「良くないでしょ!? それで何て布団に入ってくんの?」
「昔、一緒の布団でよく寝たから良くない? わたし達幼馴染だよ」
それは幼稚園の時代の話だ。しかもその時は獅子も一緒だったし!
十年経って僕達は成長した。僕も獅子も成長したし、紬なんてびっくりするくらい綺麗に成長してしまった。
「おはよ、涼真!」
僕の布団の上で三角座りする紬がこてんと首を傾ける。
しっとりとした黒髪が揺れ、ぱっちりとした瞳に見つめられてしまったら否応でも顔に熱が籠もってしまう。
「おはよう……紬」
結局紬のあどけない笑顔に負けて怒るに怒れなかった。
幼馴染に弱いなぁ僕は。